~悲劇の始まり~
これはこれはどうしようもない悪の悲劇。救いようのない喜劇。
 
 西の辺境の小さな街に一人の少年と少女がいました。少年の名前はマーティス、少女の名前はニーシェといいます。
 二人はいつも一緒に遊び、喜びや悲しみを分かち合う一番の友達でした。
 時が流れて成長しても二人の仲は変わらず、いつしか互いを強く想い合う関係になりました。
 共に結ばれいつまでも幸福な日々を過ごそうと想い合っていたのもつかの間。
 ―――――ニーシェは何者かに殺されてしまったのです。
 最愛の彼女を失ったマーティスは狂い、彼女の体が埋められた墓を暴き、その亡骸を抱えて天へと絶叫しました。
 
「神よ!どうしてニーシェを奪った!どうしてニーシェを見殺しにした!殺してやる!殺してやる!」
 
 すると突如としてマーティスの足元に常闇の影が波紋し、立ち上がるのです。
 影はいつしか禍々しい鎌を手にした異形と化し、邪悪な笑みを湛えながら彼に言います。
 
「お前が望むのなら、その哀れな娘を〝生かさせて〟やろうじゃないか。その代償にお前はオレと契約し、〝魂狩人〟に堕ちるんだ」
 
 その誘惑にマーティスは目を見開き、そして頷くのでした。
 
「彼女を生き返らせるためなら、俺はどうなってもいい」
 
 そしてマーティスは〝悪魔〟と契約を交わし、〝魂狩人〟に身を堕としました。
 全てはニーシェのために、全てをニーシェのために。
 マーティスは悪の道を歩むのです。
 

 

 

~この世界について~

 

 

 現界〝フィルドリンア〟。

 この世界は広大で、そこに住まう者は〝世界の果て〟を知らない。

 ただわかっていることは、この世界には東西南北にほぼ同じ大きさの四つの大陸と、終わりの見えないほど広い海、そして二つの月が存在するということ。

 この世界に生きる知的生命体は人間だけ。しかし、人間を遥かに凌駕する超越者―――――天使、死神と呼ばれる存在がおり、天界や冥界という死後の世界も存在する。

 そして、〝神〟も確かに存在する。

 ただ、人間達は超越者達の存在を認知できず、古から今に至る長き時の間で徐々に忘れつつある。

 

 

 

 現界〝フィルドリンア〟―――――人間を中心とした〝生者〟が暮らす世界。 

 天界〝ティールピア〟―――――天使が暮らす〝死者〟の世界。

 冥界〝ハールディア〟―――――死神が暮らす〝死者〟の世界。

 

 世界は大きく三つに分かれ、死生観は人間のみの輪廻転生。

 


 

 

~用語~

 

 

★人間

 

 現世〝フィルドリンア〟で生きる民。

 現世では最も繁栄している種族であり、一部の者は魔法を使うことができる。

   東西南北四つに大陸があり、それぞれ大陸を治める四王国が存在する。

 

★魂人

 

 死した人間の魂。幽霊のような者。

 生前の行いで善き者は天使に天界へ導かれ、悪き者は死神に冥界へ導かれる。

 前者は新たな人間として生まれ変われることを約束され、後者は贖罪を果たすまでは生まれ変わることができない。

 両者のどちらにも導かれず現世に留まり続けた魂人は最終的に人間に災いをもたらす〝カゲ〟と化し、天使か死神のどちらかによって永久的に滅せられる。

 

★天使

 

 天界〝ティールピア〟の民。

 現世で死した善き魂人を天界へ導く役目を持つ。

 背に真っ白の翼を持つ。

 階級がある。

 千年に一度新たな天使として転生する。

 尚、堕落した天使は堕天使と呼ばれる。

 死神とは相対する存在。

 

★死神

 

 冥界〝ハールディア〟の民。

 現世で死した悪しき魂人を冥界へ導く役目を持つ。

 千年に一度新たな死神として転生する。

 階級がある。

 尚、堕落した死神は悪魔と呼ばれる。

 天使とは相対する存在。

 

★堕天使

 

 邪悪な思想を持ち始めた天使、もしくは人間に特別な感情を抱いたことによって堕落した天使のこと。

 堕落した天使が元に戻るためには、〝カゲ〟を滅する職務につかなければならない。

 また、堕天使になると同時に翼が消失する。

 

★悪魔

 

 邪悪な思想を持ち始めた天使、もしくは人間に特別な感情を抱いたことによって堕落した死神のこと。

 堕天使と違い完全に良心を失う。

 中には人間と契約して現世に干渉する大罪者も存在する。

 

★魂狩人

 

 悪魔と契約した人間。

 願いと引き換えに魂人を狩り、悪魔に捧げる責務を持つ。

 七日に魂人を一人狩らなければならず、その規約を守れなかった場合は悪魔に魂を喰われてしまう。

 魂人を狩る際には悪魔に力を借りなければならないが、代償としてだんだんと体の支配権を悪魔に奪われていく。

 契約時に体の一部に痣が浮かぶが、悪魔に力を借りれば借りるほど痣が広がっていく。

 たとえどのような理由があったとしても、魂狩人は〝カゲ〟と同じ扱いを受け、永久的に魂を滅されてしまう。

 

★神

 

 世界を創りし唯一神。

 かつて人間に一冊の聖典を与え、宗教を教え広めたという伝説があるが、今では過去の遺物と化しつつある。

 常に天界にいるようだが……?

 

★双月

 

 現世の夜を照らす双子の月。

 蒼い月がサフィナ月、紅い月がザロナ月と呼ばれており、片方の月が地上から視認できる時、もう片方の月はその陰に隠れていて視認することができない。

 月同士の入れ替わりは半年ごとの周期に起きる。

 サフィナ月が出ている半年は幸を招き、ザロナ月が出ている半年は災を招くと言われている。

 そのため別名称でサフィナ月のことを幸月、ザロナ月のことを災月と呼ばれている。

 66年に一度だけ、両方の月が一年中視認できる。

 尚、太陽は一つのみ。 

 

★魔法

 

 人間が古に編み出した技術の一つ。

 魔法と言っても豪快な攻撃や即時回復などと言った強力なモノは無く、ほとんどは厄除けのまじないや風を読む魔法などといった日常的に使用するモノしか存在しない。

 魔法を使える者は年々減りつつあり、魔法使いは羨望の眼差しを受ける。

 

★魔女

 

 上記の魔法を悪用するとされる悪しき魔法使いの総称。

 男性であっても魔女と称される。

 捕まった魔女は火炙りの刑に処される。

 現在でも魔女狩りは続けられているらしいが……?

 

 ★異端審問官

 

 異端宗教信者や魂狩人、魔女を罰する者達。

 

★生きた死体

 

 悪魔によって仮初の生を得た人間。

 ただし一度は死しているため、存在が稀薄。

 

 

 

 

 

 

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