あしたはみらいのためのゆめをみる

 

 

 

※星カビwii後のマホロア視点

 

 

―――――

 

 

 火山の頻繁な噴火によってふりまかれる火山灰のせいで、この星は日が差さない。
 空はいつも暗色の厚い雲に隙間なくおおわれている。
 だから太陽どころか月も星も見えない。
 見えるのは胸焼けしそうなほどたっぷりとした量のある、曇天だけ。
 空がこれで、大地は荒々しい地形に流れる溶岩の大河。
 普通の生物が住めないほど厳しい地上。
 ここがボクの故郷、ハルカンドラの一つ目の姿。
 ハルカンドラには二つの地方があって、もう一つは機械だらけの工業地域みたいな場所。
 どっちにしたって、いつも空は汚かった。
 ボクは、故郷が大嫌いだった。
 空気も、生物も、空も、大地も、何もかもが嫌い。 
 好きになれない。
 好きになれと強制されても、絶対に無理。
 理由は良くわからない。
 でも―――――ボクは確かに、この星が好きじゃない。
 荒んで穢れて歪んだハルカンドラが。
 ―――――そこに住んでいた荒んで穢れて歪んだ、ボク自身も。

 


 ☆ ★

 

 

「ブラボー、ブラボー。さすがは 星のカービィ」

 

 ついに、この時がやってきてしまった。
 ボクに見下ろされている彼らは、何が何だかわからないと言いたげな表情をしている。
 そりゃあそうだよねぇ。
 ここにボクが突然やってきたんだから。
 普段引き籠りってくらいにローアの内部にずっといたボクが、外に出てきたんだから。
 しかも―――――こんな時に。

 

「よく、ジャマなドラゴン…ランディアを たおしてクレタネェ」

 

 あぁ、可哀想なランディア。
 キミたちはマスタークラウンを守る、ただその役目を果たそうとしただけなのに。
 カービィたちに無様に負けちゃって、しかもボクの計画に見事に利用されちゃう羽目になるし。
 ちょっとだけ同情の気持ちがわくよ。
 どうせすぐ消えるけど。

 

「オォ…ついに手に入れタゾ…」 

 

 我ながら随分と意地汚い発言だ。
 でも、自分の手の上に広がる、宇宙のように巨大で膨大な力に感動し、この力に酔いしれたいと思ったのは事実だ。
 この時点で察しのいいメタナイトは剣を抜いていた。
 彼はあのメンバーの中では一番賢い。
 いつかこの計画のことがばれるんじゃないかって畏怖した時もあった。
 でも残念だったね。
 もう全ては手遅れだよ。
 彼以外のお馬鹿さんに至ってはまだぽかんとしてる。
 良い眺めだねぇ。
 狐につままれるってこういうことを言うのかな。

 

「コレぞ無限のチカラを持つ…「マスタークラウン」!」

 

 やっと手に入れた。
 どれほど望んでいたか。
 望んで望んで……全てを犠牲にしても欲しかった。
 それが今、もうボクの手の内にある。ある!
 
 王冠を被った瞬間に、想像を絶するほどのパワーが流れ込んできた。
 今まで恐ろしいと思ったもの、嫌だと思っていたこと、何もかもが陳腐で滑稽に思えてしまうほど、万物でさえ破壊しつくせるんではないかと錯覚してしまうほど、それは莫大なものであった。
 濁流のごとく溢れてくる力に圧倒され、数瞬だけ意識がふっとびかけるが、瞬きしたころには暴れる力も落ち着く。
 カービィが「マホロア!」と叫んだ。
 いったい何の意味を込めて彼はこの言葉を発したのだろうか。
 もちろん、ボクは愛想の良い返事なんてしてあげない。
 長い長い演技、長い長い演劇は、マスタークラウンを被ったことによって幕を下ろしたんだよ。

 

 自分の中に行儀よく整列した力を、惜しげもせずに晒す。
 彼らはボクに騙されていた馬鹿だけど、最後ぐらいはやっぱりボクの手に入れた新たな力を見せびらかすのもいいと思ったから。

 

「ソウさ! ねらいは 初めカラこのクラウン だったンダヨ!」

 

 自分の姿が大きく変化した。
 変貌した容姿を見て、他人事みたいに「邪神みたいな姿だな」と素直な感想を自分自身に送る。
 やっぱり、悪者はこうでなくちゃ。 

 

「な~んて カオしてるんダィ?じゃあ、ゼンブ教えてヤルヨ」

 

 ……ボクってこんなに大口を叩けるようなやつだったっけ?
 だけど達者な口はボクの意思とは関係なくぺらぺらと饒舌に語りだす。
 アルコールを大量に摂取した時みたいに、気分が良い。
 気分が良すぎて―――――止められない。

 

「ランディアとの たたかいニ負ケ、にげた先が ポップスター…ソコでボクは かんがえタ…あのランディアをキミらに たおしてもらおう、とネッ!」

 

 ぴくりと意識を失っているはずのランディたちの目蓋が動いたような気がした。
 こいつらにはいろいろと手こずったなぁ。
 でも……ふふふ。
 ふふふふふふふふふふふふふふふふ。
 ふふふあはははは。
 あんなに強いって思ってたやつなのに、どうして今はこんなにも矮小な存在に見えるのだろう!
 愉快!愉快だね!本当に!

 

「オマケに 船マデ直してもらえテホ~ント、カンシャするヨォ」

 

 思い切り皮肉を込めて、嘲笑ってやる。
 あはは。
 デデデ、そう唇をわなわなと震わせてる理由は良くわかるよ。
 仲間だと思って信用してたやつに裏切られたんだから、憤りを感じて当然だよね。
 メタナイト、ポーカーフェイスなキミがよりいっそう冷酷な視線をこちらにおくってきているわけは良くわかるよ。
 信頼していた存在に完膚なきまで否定されたんだから、怒りを覚えて当然だよね。
 ワドルディ、瞳孔まで見開いて情けなく震えている意図は良くわかるよ。
 今まで一緒に協力していた仲が偽物だって知ってしまったんだから、驚愕を隠せなくても当然だよね。
 そしてカービィ……―――――?
 あれ?なんでキミはそんな表情をしてるんだい?
 瞳は潤んで涙が零れ落ちてきそうなのに、どうして?
 どうしてまだ―――――希望はある、みたいな色を漂わせてるの?
 
 ―――――ま、いいや。 

 

「クックク…コレでボクは コノ星の…イヤ!全ウチュウの 支配者とナルのダ!」

 

 できる限り邪悪に、高らかに笑う。
 なんだか、目の前にいる彼らを絶望の淵に叩き落とすのも悪くないなと思い始める。
 ……ふふ、むしろとてもとても楽しそう。
 あぁ、平和ボケしている彼らを、もう二度と立ち直れないくらいにひれ伏せさせるのはきっとすごく気分がいいことなんだろう。
 それこそ―――――死にたくなるくらい。

 

「そう、まずハ手ハジメに キミらの星…ポップスターから 支配してアゲルヨォ!」

 

 あはははははは。
 あははははははははははははははははははははははは。
 あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!

 

 この力はすごい!
 何でもできる!
 無敵!無敵!無敵!


 ボクが


 ボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクが ボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクがボクが!

 

 この世界をシハイできる。


 ボクが―――――ボクが!

 

「――――マホロア。ぼくはキミを止める」

 

 やってみてよ。
 できるのならね。
 無理だと思うけど。

 

 上機嫌なボクは、キャラキャラと含み笑いをする。

 カービィの言葉は、ボクの胸に突き刺さることはなく、どこまでもむなしく通り過ぎていった。
 彼がとても泣きそうな表情をしながら、意志の強い瞳をこちらに向けていることだけは、鮮明に覚えてる。

 

 あとのことは―――――理性を吹き飛ばして獣みたいな本性を露わにしてしまったから、何も覚えてない。

 


☆ ★

 

 

 そして今、ボクは深い闇の中にいる。
 何故かって?
 そんなの簡単なことだよ。
 
 ……負けちゃったから。
 
 結果は敗北。
 あぁ、あと少しだったのに。
 あと少しで……ボクの悲願は成就されようとしたのに。
 駄目だったなぁ。
 

 戦いの最中にボクの形態は再び変化した。
 今度はとても禍々しく、悍ましい姿になっていた。
 心の中に溜まっていた憎悪や執念といった負の感情が、全部外に表面として出てきてしまった。
 汚い自分の本性。
 醜い。
 本当に醜かった。
 吐き気を催す醜悪。
 化け物みたいな体。
 ……気持ち悪い、ボク。


 だけどそのぶん、もっと強くなれたよ。 
 それは良いことなのか悪いことなのか、もう区別さえつかないけど。
 でも―――――結局は敗れたんだから、もう、どうでもいいや。


 負けたのに、負けたはずなのに、ずいぶん気持ちは安らかだった。
 きっとボクのことだから狂ったように泣き喚いて、この世の全てを呪う呪詛を吐き出していたに違いないって思っていたのに。
 怖いぐらい、冷静になれていた。
 

 だんだんと降下していく体。
 底知れない暗黒の海に沈んでいく。
 落ちていく。
 墜ちていく。
 おちていく。
 オチテイク。
 どこまでも深く深く深く深く―――――光さえもとどかない地の果てへと。 
  

 仕方ないよねぇ、と。
 自虐的な笑みを浮かべてみる。
 ボクは地獄行き決定。 
 だってそれぐらいの罪を犯しちゃったんだから。
 あたりまえ。

 

 ついさっきまで血液が沸騰したかのごとく熱くなって、常軌を逸して戦った影響で、ボクはひどく気だるかった。
 脳を何度も揺さぶられているかのような嫌な気分。
 そんな余韻に浸りながら、隙間なく天球を埋め尽くしていく暗黒を他人事のように眺める。
 処理落ちで解析が遅くなってしまった機械さながら、今更になってボクは戦闘中カービィたちがボクに向かって叫んだ言葉の内容を思い出した。

 

『マホロア!思い出してぼく達のことを!だってぼく達―――――友達じゃないか!』

『マホロアテメェこの野郎っ!今すぐ目ぇ覚ましやがれ!』

『お前のやっていることは間違っている!そのままマスタークラウンに囚われ続けたら……!』

『マホロアさん!もうやめてください!僕たちは……ッ!』

 
 バカみたい。
 キミたちに見せた好意は全部紛い物だってちゃんとばらして種明かししてあげたのに。
 それでもまだボクのこと信じ続けてくれてたの?
 ……バカみたい。
 本当にバカみたいだ。


 ―――――本当に……お人よしだねぇ。
 

 何故だか、初めて胸奥にちくりと棘が刺さるような痛みを感じた。
 バカみたいだなぁ、と繰り返し繰り返し心の中で吐き捨てる。
 壊れたテープレコーダーみたいだなと、自嘲。 
 

 ―――――知らないよ。


 ―――――だって彼らとの関係は、ボクが完膚なきまで破壊しつくしてしまったんだから。


 ―――――もう……知らない。
 

 ボクはいったいどうなってしまったんだろうか。
 もし、これが本当に地獄へつながる穴だったとしたら―――――ボクは死んだことになる。
 死んだ……つまり、カービィたちに殺されちゃったってことだろう。
 いや、たぶん違う。
 きっとマスタークラウンの影響だ。
 不思議と怒りの感情は湧き上がらなかった。
 むしろ―――――これでよかったんだ、と思っている自分がここにいる。
 あんなに長い間、必死に計画を考えて練って整えてまとめたのに。
 それこそ、命を天秤に懸けて。
 そんなボクの唯一の存在意義ともいえた計画が無為にされてしまったというのに、どうしてボクは悔しいだとか許せないだとか……そういう気持ちを欠片も抱いてないのだろうか?
 

 自分の今の感情が自分にもわからなかった。
 でも、胸に突き刺さったこの痛みはなんなのだろうか。
 この―――――とても切ない痛みはなに? 

 

 突然、何の前触れもなく―――――ボクの体はふわりと浮かんだ。
 重力に従うように落下していたはずなのに、急に物理の法則を無視して、ボクは浮遊していた。
 闇の世界をそのままゆっくりと飛ぶ。
 やがて―――――一つの光景が見えてきた。 
 あれは確か、ポップスターに墜落したばかりの時のもの。
 

『なんだって?船が壊れちまっただぁ?』

『そ、それは大変です!』

『……見た限りでは相当破損しているな。これでは飛べないだろうな』

『だったら!ぼく達が散らばったパーツを集めてくるよ!』
 
『〝達〟?』

『だから皆で行くんだよ~』

『んな!?それはオレ様もか?』

『あたりまえじゃん!』

『ふざけんな!こんな牛の骨もわからねえようなやつのために大王であるオレに働けと!?』

『陛下、牛の骨ではなく馬の骨です』

『うっ!うるさいそんなこと知ってるわっ!』

『大王様~ここは手伝ってあげるべきなんじゃないでしょうか?』

『そうだよ~!ねぇいいでしょ?』

『・・・・・・・・・・・・・・・・―――――~~~っ!!だああああああぁぁ!わかったよ!手伝えばいいんだろ手伝えば!』

『うわぁいやったぁ!―――――マホロア!ぼく達も手伝うよ!一緒にこの船を直そう!』

 

 あの時も、ボクは彼を計画の為に利用した。 
 友達、仲間、そんな不必要な単語はどこにもなかった。
 ボクは彼らを利用できるものと見なして、見下していた。
 キミたちのあんまりにも楽しそうな眩しい笑顔を、ボクはうわべだけの作り笑いで見ていたんだ。

 記憶の投影にも似た景色は、次々にボクと彼らの旅の思い出を映していった。
 ローアの中の訓練室で騒ぐ彼らと、それを見ているボク。
 ボクが作ったご飯をおいしそうに平らげていく彼ら。
 それぞれの理想を語り合った夜。
 外に出ないボクに、旅の先々で遭遇した冒険談を喋ってくれた彼ら。
 「一緒に外で冒険できたらいいのにな」とカービィには言われる始末。
 

 いろいろな思い出。
 たくさんの―――――記憶。
 彼らはいつも正直で、ボクはいつも嘘っぱちだった。
 でも、まるで宝箱の中の宝石のように輝いているような気がする。
 
 ―――――いくら手を伸ばしても、もうとどかないもの。

 

 このいつものありふれたあたりまえのような光景を見ているうちに

 ボクは、胸の内に芽生えたこの感情の正体に気が付くことができた。

 

 


『マホロアさん!』
 
 

 ―――――ドジで失敗が多いけれど、真面目で真っ直ぐなワドルディ。

 

 

「……ダ」

 

 

 

『マホロア』

 

 

 ―――――冷静沈着なポーカフェイスだけど、誰よりも仲間のことを思ってくれているメタナイト。

 

 

「……や……ダ……」

 

 

 

『マホロアぁ!』

 

 

 ―――――我儘で強情だけど、熱血で正義感にあふれるデデデ。

 

 

 


「イ……や……だ……」

 

 

 

 

『マホロア!』

 

 

 

 ―――――食いしん坊で寝坊助の、心優しい星の戦士カービィ。

 

 

「イヤ……だ……イヤだァ……!」

 

 耳をふさいで目を瞑る。
 やめて。
 もうそんな記憶を映し出さないで。
 このままじゃ。
 このままじゃボク……。

 

 ―――――帰りたくなっちゃうじゃないか。

 

 今まで、誰を傷つけてもいいと思っていたのに。
 友達なんていらないって思ってたのに。


 根本から、崩壊してしまう。

 

 皆の笑顔が、脳裏に焼き付いてしまう。
 くだらないものと思っていたものが―――――ひどく愛しく思える。
 バカみたいバカみたいと彼らのことを評していたけど。
 一番のバカは―――――ボクだ。 

 

 眼から零れ落ちてくるもの。
 とうの昔に忘れ去って、いたもの。
 涙。
 

 あぁボクは―――――まだ泣き方を覚えてたんだ。
 ずっとずっと前に、涙なんてかれちゃったと思ってたのに。

 

「…………なサイ」

 

 喉奥からしぼり出てくるのは、いつものボクならまず言わないもの。

 

「ごめ……ん……なサ……イ……」

 

 なんてひどいことをしてしまったんだろう。
 ボクのことを好きだと言ってくれた人たちを、踏みにじって最低な言葉で傷つけた。

 

「ごメン……なさい……ゴメんな……サイ……!」

 

 情けないくらい泣きじゃくって、闇の中で一人懺悔する。
 ただただ申し訳なくて、ただただ謝りたくて。 
 泣き叫ぶボクは愚か者でバカなやつだけど。
 許してくれる保証なんかないってわかってても。
 

 〝ごめんなさい〟と嘘ばかり吐いてた口から、正直な思いを発する。

 

 落ちた涙が闇の海に白色の波紋を生む。
 視野の全てが真っ白の染まる。
 次に目を開けた瞬間に、ボクは先ほどとは打って変わって真っ白な世界にいた。
 いつのまにか黒の空間は終わり、白の空間へと転じていたのだ。

 そして―――――その世界にいたのはボクだけではなかった。

 

「ロー……ア……」

 

 見慣れた空色の空飛ぶ船。
 それがボクの前で浮かんでいた。

  

「どうシテ……」

 

 ボクはどうしてローアがここにいるのか全く理解ができなかった。
 あくまで消えゆくのはマスタークラウンに寄生されたボクだけで、ローアに被害はとどいていないはずだ。
 それとも何かの手違いでこの船もここにやってきてしまったのかと思うと、余計に悲しくなった。
 この船はずっとボクの我儘に付き合ってくれた大切な船。

 

 ローアだけは―――――守りたかった。

 

 涙で目を赤くしたボクを、天かける船はまるでボクに「迎えに来たよ」と言わんばかりにボクを誘う。
 だけどボクは首を振る。
 もう戻れない。
 ボクはあれほど皆に酷いことをした。
 罪を償わなくてはならない、と駄々をこねる子供みたいに言う。

 

 するとローアは、こんなことを言ってくれた気がした。

 

『でも君は、帰りたいと思ったんだろう?』

 

 本心を見抜かれて、何も言えなくなってしまう。
 

『だったら戻らなくちゃ―――――君を待ってくれてる人がいるよ』

 

 ボクははっとする。
 待ってくれてる人?
 いったい誰のこと―――――?

 

 もしそれが―――――〝彼ら〟だったら。
 

『君はよりいっそう早く戻らなくちゃいけないね』

 

 そうだとしたら―――――ボクは、〝彼ら〟にごめんなさい以外の言葉を伝えなくてはならない。
 何よりも言わなくてはならないたった一言の言葉を―――――。

 

 ローアをもう一度見つめる。
 気のせいか、船の上に誰かが乗っていたような気がした。
 それも複数。
 数人の手が、ボクに伸ばされている。
 それぞれの手の持ち主を―――――ボクは良く知ってる。
 

 橙色の手と。
 白色の手袋をつけた手と。
 黄色の手と。
 桃色の手。

 

『さぁ行こう。マホロア―――――〝ボク〟も君のこと待ってるから』

 

 ボクは、迷わなかった。 
 迷わず―――――五つの手と一隻の船に手を伸ばす。

 

 それと触れ合った瞬間に―――――ボクの意識は暗転した。

 

 


 ☆ ★

 

 
 眼を開けたらまず、瞳を潤ませたカービィの姿が大きく視界に入った。
 それに続いてメタナイトとデデデとワドルディの姿。
 彼らの後ろに離陸しているローア。
 青い空。
 優しげな風が頬を撫でる。


 全員の顔が嬉しそうにぱっと光が灯る。
 カービィに抱き着かれる。
 ワドルディにも抱き着かれる。
 デデデに頭を殴られる。
 メタナイトに安堵の微笑を浮かべられる。

  

 そして声を揃えて言われる。

 

 

「おかえりマホロア」

 

 
 そしてボクは嘘をつかずに、涙声で笑ってそれに応える。

 

 

 

 

 

 

 

 


「ただいマ―――――ありがトウ」

 

 

 

 

 

 

 

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