きみのゆめ

 

※死ネタ注意

 

―――――

 

 

 きみはずっとともだちだといった
 だけどそれがかなわなくなるとゴメンヤッパリウソダヨとわらった
 へんなゆめみたい…

 

 ◆


 目を覚ますと、そこは異空だった。
 どこを見渡しても不気味な色の空間。空も無ければ海も無く、宇宙のように重力が曖昧で、引力も不安定な世界。
 だけど何も存在しないわけではなく、宝石のように煌めいている奇妙な塊や、塊から分裂した結晶の欠片が、あちらこちらに散らばっては漂っている。それらに反射して拡散する白と濃い紫の光は広がって、異空間の闇に少しだけ彩りを与えてくれている。
 そんな広大で膨大な無限空間に、カービィはたった独り、無防備で投げ出されている。
 現在の故郷であるポップスターも、その周辺の星々も、カービィが知りうる限りね銀河も、ここには存在しない。
 言葉で言い表しにくいほど、カービィは孤独の真っ只中にいる。
 ぞっとするような光景、状況だが、不思議と恐ろしくはなかった。
 夢見心地に夢うつつ。半分眠っているような気分はまるで悪くなく、むしろ穏やかだった。不快感も警戒心も無い。面倒な感情は、水に溶けるように薄まっていた。
「ここはどこ?」
 ようやく疑問を口にできたのは、時間がしばらく経過した後だった。頭の中に綿菓子の靄がかかっているようで、思考が上手く回らない。
 それでもカービィは、このまま流れ続けるのも何なので、ひとまずどこかに着陸しようと考える。
 しかし、隕石の集合体に見えなくもない塊は、どういう物質から形成されているのか、一つの生命体のように時とともに形を変え、静止することなく動き続けている。
 あの塊に降りたところで目が回ってしまいそうだ。
 カービィは特に気が重くなることもなく、塊に関しては諦めた。
「ワープスターも呼べないし、誰もいない……」
 呼び出せばいつもどんな場所でもワープスターはすぐに来てくれるはずだか、いくら呼び出そうと試みても一向にワープスターは来る気配が無く、そもそも応答自体無い。
 これは少しではなく、だいぶおかしい。
 それでもいまいち危機感が持てないカービィは、悠然と空間を泳ぐように手足を軽くばたつかせた。
 空気を吸い込んで浮遊する普段の飛行を行うのは難しいようなので、とりあえず犬掻きにも似た動作で目的無く進もうとするが、それも上手くいかない。
「なんでこんな場所で寝てたんだろう」
 悪戦苦闘の状態にも焦らず、自分が眠る前のことを記憶が辿れる限り、思い出せる限りで搾り出そうとする。
 今が仮に次の日の朝だとすれば、前日は呆れかえるほど平和なポップスターのプププランドの自宅で目を覚まし、ご飯を食べて居候のグーイと話し、それからデデデ城に遊びに行きデデデ大王とカードゲームで勝負をして10勝10敗で五分五分の結果、決着は今度つけると約束を強引に結ばれて分かれ、デデデ城の庭で鍛錬中のバンダナワドルディとメタナイトと少しだけ話し、家に帰ってグーイと一緒に昼食を取り、午後は特に何もせずにのんびりすごし、おやつを食べて、夜はグーイと夕ご飯を食べて、すぐに寝て……。
 ここまでは自力で思い出すことができたが、これ以上先は頭を捻っても思い出せそうにない。
「ぼくは眠って、起きたらここにいる」
 寝てる間に移動した覚えもないし、テレポートはさすがのカービィでも使えない。
 まるで夢を見ているかのようだ。
 夢を見る。夢を。
 夢。夢。夢。
 合点する、納得する、腑に落ちる。
 ああ、そうか。
「これは夢なんだ」
 夢の世界だから現実味が無く、見知らぬ空間にいても不思議な話ではない。
 おそらく現実のカービィは今も家のベッドの上ですやすや眠っていることだろう。
 体は休息していても、意識は夢に沈んでいる。
「夢だけど、夢じゃないみたい」
 夢の中でこの現象は夢だと自覚できるのは覚醒夢と呼ばれる。
 意識を保ったまま、カービィは改めて夢の空間を見渡す。
 ヘンテコな塊が光を放つだけの殺風景で寂しい世界。
 「これがぼくの夢なら、食べ物がどっさりあればいいのに」
 ふと、そう呟いた時だった。どこからともなく大量の食べ物が雨のように降り注いできたのは。
「わ、わ、わ!?」
 リンゴにバナナにオレンジ、クッキーにケーキにマシュマロ、骨付き肉におにぎりにサンドイッチ、見慣れたペロペロキャンディに大好物のマキシムトマトまで、数え切れないほどの食べ物が空間を埋め尽くしていく。
 いつしか夢空間は食べ物の海に呑まれ、雪崩を起こしながらもこんもりと巨大な山を作り出す。
 何とか食べ物を食べながら頂上まで登りついたカービィは、突然のことに度肝を抜かれてしまいます。
「どうして急に食べ物が?」
 疑問を覚えながらもマキシムトマトを頬張ると、夢でも現実と変わらない美味しさに浸ってしまう。
 不意に飲み物も欲しいと思った時、食べ物の山脈は押し寄せてきたソーダの波に呑み込まれ、カービィも押し流されてしまう。
「こんなにたくさんは飲めないよ!」
 ソーダの大海原で溺れそうになりながら、元通りに戻るなら戻って!と、念じる。
 すると瞬きをする間も無く、一瞬であれほどの量のソーダが消え失せ、空間は先ほどまでの殺風景に戻った。
 短時間でのめまぐるしく出来事に呆然としながらも、カービィは一つの仮説を立てる。
「ぼくが欲しいって思ったものが、夢に出てくるんだ」
 試しに休憩できる小さな星を出して欲しいと望むと、瞬時にカービィの体はとても小さなまん丸の星に乗せられる。
 寝心地の良い野原と木を一本要望すると、星はみるみるうちに希望通りに緑に溢れた。
「すごい。本当に夢みたい。夢だけど」
 マキシムトマトをもう一つ、コップ一杯のソーダ、草だけでは寂しいから花も咲かせて、涼しい自然の風と、青空、雲と太陽があれば完璧。
 あっという間に小さな星は豊かになり、カービィにとってこれ以上になく過ごしやすい場所になる。
「だけど、夢を楽しもうにも欲しい物はもう無いや」
 欲が無いカービィは、もう満足してしまっていた。
 しかし、この先一生見れないかもしれない夢を満喫しないのは、少々勿体無い。
 現実では叶わない願い、不可能な望み、夢でしかできないことを思い悩み、カービィは一つ思いついた。
 現実では絶対に実現しないこと。
 早急で即席だけれど、一つだけ考えついた。
 特に抵抗なく、カービィは息を吐いて呟く。
 
「マホロア」

「オハヨウ。カービィ」
 夢を落ちて初めて、自分以外の声を聞いた。
 懐かしい片言の声を。久方ぶりの陽気な声を。
 目の前にはいつの間にか青と白の服を着た人物が微笑んでおり、カービィは内心でやはり驚きながら彼を見つめ返した。
 かつての仲間であり、友でもあったマホロアを。
「ソレともコンニチハ?ソレともコンバンハかな?」
「起きたらおはようで、太陽が高く昇ればこんにちは。月が出ればこんばんはじゃない?」
「生憎、ココには時間を計れるような便利なモノは無イヨ」
「じゃあ、何でもいいじゃない」
 マホロアはくすくすと手を合わせて笑う。
「ソレもそうダネ。ソレじゃあ、ヤァ、カービィ。こんな場所で独りで油売リカイ?」
「油?売ってないし持ってないよ。今、笑っちゃうくらい何もないんだ」
「そうカイ、そうカイ。ソレはソレは、可哀想ニ」
「別に可哀想じゃないけど、暇だね」
「退屈は哀れダヨ。哀れ哀れ。目的が無いとダァレも生きていけないカラ」
「でも、退屈を忘れるほど忙しいのは皆嫌だと思うよ」
「嫌でも逆らえないってコト、やらなくちゃいけないコト、かったるくてもしなきゃいけないコト、山ほどあるデショ?キミにだってわかるデショ?」
 マホロアの言葉に、カービィは目を閉じて幾つものことを思い浮かべた。
 毛虫のついたリンゴ。
 面倒で難しい決め事。
 暗黒でしか生きられない侵略者。
 自己中心的な道化師。
 愛に飢えた絵画。
 歪んでいく女王。
 闇に支配された王様。
 他にもたくさん、たくさん、たくさん、たくさんあったような気もする。
「うん。そうだね……」
 とても面倒な後始末は幾度となく経験してきたような、そうでなくともあまり考えたくないような光景と結末は見てきた。
 素通りはしていない。星の戦士だから、最後まで正義の味方でいるべきだから。
 何も考えていないことだらけだけど、忘れたくても忘れないようなことばかりで、忘れたところでまた襲来するような非日常の産物だから、忘れないでいるだけで。
「ところでカービィ。キミはココがドコだか知っているカイ?」
 急に話題を変えられ、その内容が内容だったので、カービィは何を今更と言いたげな顔を露わにする。
「ここは夢でしょ」
「随分冷静ダネ」
「だって夢だから。夢には慣れてるよ。良い夢も悪い夢も」
  だいぶ前に悪夢を司る敵と戦ったことを薄っすらと思い出した。
 それももはや、過去の遺物だけれど。
「コレは本当にキミの夢なのカイ?」
 にやにやと趣味の悪い笑みを浮かべるマホロアに、カービィは「そうだよ」と宣言する。
「ぼくの夢じゃなかったら、キミは出てこないでしょ?」
 だって、
「キミはもういないから」
 嘘つきの大罪人は、カービィがこの手で叩き斬ったのだから、あの感触は確かに本物だった。
 宇宙を乱す存在を、星を侵略する輩を倒す。今までカービィはたくさんその行為を実行し、目の前のマホロアもまた、撃退すべき対象であった。
 かつて倒したはずの人物と、夢ではあってもこうして会話できるのが不思議でならない。
 まるで、まだ、ここにマホロアがいるような、有るような、在るような、幻視をしてしまう。
「キミ以外の誰かの夢なのかもしれないノニ?」
「違う。これはぼくの夢だよ。今の君は、あの時の君だ」
 あの時、決戦の時。
 絶大なる力を存分に振るうマホロアに立ち向かった時。
 これもまだ、忘れていないことだ。
「ひどいヨネェ。キミってば、ボクを容赦なくズタズタにしたンダ」
 いつしかマホロアの姿は転じ、血のように赤く長いマントが揺らめいた。頭には壊れたはずのマスタークラウンが怪しげな光を放っており、カービィを掌握せんとばかりに差し向ける手は、魔術師の手。
 何も変わらない。ぞっとするほど変わらない。あの時のままのマホロア。当時のままのマホロア。変われないマホロア。止まってしまったマホロア。終われないマホロア。
 斬り捨てた、マホロア。
 呪いの言葉と断末魔を残して、泡のように消えたマホロア。
 これは夢だけれど、恐ろしいほど現実味があった。
 眼前で笑むマホロアは本当に生を宿しているかのようで、体を掴まれた感触もあった。
「ネェ、カービィ。ボクを殺すの、楽しカッタ?」
 他人事のように虚言の魔術師マホロアは訊ねてくる。
「裏切り者、嘘つきを殺すノハ、楽しカッタ?」
「ちっとも楽しくないよ」
 マホロアの手の上で、カービィは無表情で淡々と答える。
 そんなカービィの腹の中を探るように、マホロアは顔を近づける。
「本当に?キミは嘘をついてるんじゃないのカイ?夢でまで嘘をつくなんて、バカらしイヨ」
「じゃあいいよ。ぼくはバカで、君が嘘つきだ」
「ひどいナァ。ボクがキミに嘘をついたことなんてアル?」
「あるよ。たくさん。たくさん、たくさん、たくさん。君はぼくらに嘘をついたよね。忘れちゃったの?」
「覚えているトモ!バカを騙すのは実に愉快だからネェ」
 邪悪に顔を歪め、マホロアはくつくつと笑い声を上げる。
「騙されるほうが悪いんダヨ?ダッテ、他人を信用しちゃダメダッテ、習わなかったのカイ?」
「ぼくはたまに、信じたくなるよ」
「信ジル?」
「君がぼくらを裏切るのは夢の出来事で、本当は裏切っていない。目を覚ませば君が普通にいるような、そういうの」
 三流映画のように王道でいてありふれた、ハッピーエンドを。
 カービィは特に感情を込めずに発言したが、マホロアは何が面白いのか、愉快に哄笑する。
「ソレこそ夢のようなお話ダネ。夢ばかり見ているキミや、キミの仲間ミタイ。そんなに現実甘くなイヨ。ありもしない〝夢〟を望んじゃいけないノサ」
 夢ではなく、〝夢〟。
 眠る時に見るモノではなく、いつまでも心の内に秘めているモノ。
 例えば将来だとか、願望だとか、希望だとか、期待だとか、理想だとか、そんなモノだ。
 〝夢〟は現実で見るモノであり、夢のように簡単にはいかない。
 叶わない願いや、成就されない思い、達成できない野望、果たせない目標……カービィは様々な悪の〝夢〟を打ち破ってきた。
 悪人の〝夢〟を粉々にした。
 マホロアもそう。カービィに壊されている。
「マホロアの〝夢〟は何だったの」
 それでもカービィは問いかける。
 変わらない世界で、変わらない夢の中で、変わらないマホロアに、変わらない答え以外を〝夢〟見て。
 「ボクの〝夢〟ハ、宇宙の支配。タダそれだけダヨ」
 返ってきたのは、残酷な真実だった。
 そうだよねと、カービィは心の中で溜息をつく。
 やっぱり、マホロアは変わらない。
 きっと明日も明後日も、百年後も千年後も変わらないのだろう。
 夢の中で生み出した幻想のマホロアなのだから、変わらないに決まっている。
 カービィが知る限りのマホロアはここまでで、未来のマホロアを知らない。
 もしかして変れたかもしれない、理解し合え心から笑い合えるようになったかもしれない可能性の先のマホロアには、出会えていない。
「マホロアは変わらないね。まるで全部昨日のことみたい。昨日のぼくは君を忘れたような気分でいたのに、本当に君ってば変わらないんだね」
 否、もう二度と出会うことはない。
 永遠に、永久に、永劫に、どんなに望み描いても、祈りを捧げても、叫んで懇願しても、マホロアには巡り会えない。
 ここは夢であり、現実ではない。
 現実で導き出した答えは、忘れていない。
 ああ、忘れられない。カービィには忘れられない。
 それを咎められる者は、誰がいるだろうか。
 マホロアはゆっくりと、あくまで楽しげに微笑むだけだった。
 嘘で塗り固められた笑顔。
「そうダヨ。ボクは変わらナイ。変われなイヨ。変われナイ。永遠ニ」
 時間はとっくに止まり、命の時計は壊れてしまったのだから。
 針は進まない。時は刻まれない。盤はヒビ割れ、世界は破滅した。
 マホロアの世界は、カービィによって完膚なきまでに破壊されたのだ。
 ここにいるマホロアは、幻想だ。
 幻想で、幻影で、虚像である、カービィの夢でしか形にならない、記憶の投影だ。
 そうだよ、知っていた。知っていたよ。
「そっか。それじゃあ」
 静かに笑みを浮かべたカービィの体が、突如光に包まれる。
 眩い光はカービィに力と衣装、武器を与えて収束する。
 緑の帽子に巨大な剣。ウルトラソードの形態。
 カービィは迷うことなく刃をマホロアの首元に当てて、いつでも斬れる体勢を取る。
 少し剣を引くだけで、簡単に首が斬れてしまうことが予想できた。
 ほんのちょっとで、力を加えるだけで、あっさりと、安易に、容易く、楽に、やれる。
 二度目の破滅を生み出せる。
「ぼくは夢でも、悪い〝夢〟の君を倒さなくちゃいけないんだ」
 剣を向けられても全く動じることなく、マホロアは随分と落ち着いた態度で息を吐いた。
「キミも変わらなイネ。そうやっていつも、悪いやつを倒すスーパーヒーローダ」
「ぼくは星の戦士だから」
「可哀想に、夢でも戦うことを強いられているんダネ」
 マホロアは同情の色を湛えた瞳で、カービィを鏡のように映す。
 カービィの瞳にもマホロアが映り、無限に続く像が映されていく。
 終わり無く、果ても無く、無数で無量な、二人の姿。
 勇姿には程遠い、夢の空間で。
「コレは、キミの夢なんだヨネ。ナラ、ボクに最初から勝ち目は無イネ」
 マホロアは抵抗することなく、それどころか対抗心さえ見せずに、穏やかに目を閉じた。
 全てを任せると、言わんばかりに。
「イイヨ。カービィ。やりナヨ。キミは嘘つきのボクを信じたくないデショ。もうイイヨ」
「……」
「躊躇うことはなイヨ。これは全部君の夢。ボクの〝夢〟の続きはとっくに終わっていルヨ」
 マスタークラウンを手に入れるために何もかもを犠牲にし、割り切り、貪欲なまでに支配者の座を求めた、哀れな魔術師の末路。
 打ち切りされた物語に意味は無いと、マホロアは微笑する。何もかもを犠牲にし、割り切り、そして諦めた。そんな顔をしている。凍りついて、今にでも砕け散りそうな儚い表情。
 そう、君はあの時、そんな顔から化け物になったんだよね。
「カービィ。キミは言っちゃ駄目だったんダヨ。ボクみたいなやつと友達になりたいだなンテ、口が裂けても言っちゃ駄目だったんダヨ。そうデショウ?ボクは嘘つきだカラ、嘘しかキミにあげられないんダヨ」
 最後の支配は拒まれてしまったシネと、マホロアは呟いた。
「ボクは負けたンダ。キミの勝チ。それでもういいじゃなイカ。いいじゃナイ。夢でまで、ボクを思いださせないでおくレヨ」
「…………」
「何か言ったカイ」
「……言いたいこと、それだけ?」
 無表情のカービィに、マホロアは裁きを待ちながらゆっくりと頷いた。
「もともと喋るコトなんてなイヨ。コレは、キミの夢なんだカラ」
「うん……そうなんだろうね。君は、頭がいいから」
「ソレは素敵な皮肉として受け取るコトにするヨォ。どうもありがトウ」
 さあ、さよなら。
 もう、おしまい。
 これはきっと悪夢だ。
 早く目を覚ますべきなんだ。
 だけど、握る剣の感触は重く冷たく手に馴染み、偽物とは思えない。
 何てひどい悪夢だ。何もかも思い通りにいくなんてそんな優しい話があるわけない。方便。紛い物。嘘。
 一度ついた嘘は、取り返しがつかない。
 夢は、現実にならない。夢は夢のまま。

 視界が霞むのは、朝が来るからだ。
 覚めない夢は無いし、目覚めるしかない。
 現実がやってくる。


「キミは戦士なんデショ?この程度で、泣いちゃ駄目ダヨ」

 

 

 ◆

 


 目を覚ますと、そこはカービィの家だった。
 楕円な天井と小さな家具。近くにはグーイがすやすや眠っている。
 カービィはベッドの上で仰向けに倒れている。ずれたナイトキャップが視界を遮るので、元の位置に戻す。
 起き上がると窓の外の景色が窺え、朝露に濡れた野原が朝日を浴びて、きらきらとダイヤモンドのように煌めいている。
 空は青く、地は緑と茶色。扉を開ければ遠くに城が見え、深呼吸すれば美味しい空気を堪能できる。城下や森に行けば友達にも会える。
 それでも、絶望的に何かが足りない。
 何が足りていないのか、忘れることさえできない。
「これが夢なら、ぼくの〝夢〟はちっとも叶ってないよ」
 少しだけ自嘲気味に笑い、カービィは再び眠るように目を閉じてみた。

「……夢なら覚めてよ」

 君はもう、どこにもいない。

 

 

 

 ◆

 

 

 もういちどきみにあいたかったんだ。
 ゆめみたいでしょ?ゆめなんだから……。

 

 

 

 

 

 

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