きょうもあしたも、はるかぜとともに
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甘い綿雲がふわふわと浮かんでいる青空はどこまでも澄んでいて、終わり無く広がっているかのようです。
きっと誰もが両手をいっぱいに広げたところで、大空を捕まえることはできないでしょう。
ぽかぽか陽気は穏やかで、野原に寝転がってお昼寝がしたくなります。
草原に咲く花は飴玉のように色とりどりで、摘むのがもったいなくなるほど可愛らしい花弁を見せてくれます。
そよ風はのどか。星を旅しては様々な季節を運んできてくれます。
今日の季節は春。今日だけではなく昨日も明日も春です。それでも今日の春は一際真新しく、特別なモノのように感じられるのです。
プププランドは今日も呆れ返るほど平和です。夢のように、豊かなのです。
「君と出会ってどれくらい経ったかな?」
さらさらと流れる川の畔を歩きながら、カービィは不意に尋ねました。
太陽の光を反射して、水面がきらきらと水晶のように輝いています。
「さぁな。忘れちまったよそんなこと」
少し離れた場所を歩くデデデ大王は大きなハンマーを背中に背負って、面倒臭そうに答えるのです。
「何回も春が来たからね。えっと、春と夏と秋と冬が何回だろう?」
「馬鹿か。春が来たなら夏も秋も冬も同じ回数来てるだろ」
「そっかぁ。それじゃあ全部を〝一年〟ってまとめて数えたほうが楽だね!」
川を覗くカービィの姿が、鏡のように水面に映りました。波紋を生む、割れない鏡です。
「ややこしいぞ。とにかくたくさんだ」
「たくさん?」
「たくさんだ」
「何が?」
「お前と出会ってから、たくさん時間が経ったよ。たくさんいろんなこともあったしよ」
「そうだね―――――えっと、何があったっけ」
とぼけたようなカービィに、デデデは肩を竦めて呆れました。
「夢が無くなったり、闇に包まれたり、鏡が割れたり、絵画になったり……まぁいろいろとあっただろ!」
「そう言われると本当にたくさんあったね―――――あれからもう、何年経った?」
「たくさん経ったよ」
一まとめにされたけれども満足したのか、カービィはにっこりします。
「だよね―――――君と出会ったのも、こんな日じゃなかったっけ。春風が気持ちよくてさ、ぼくはとにかくお腹がすいちゃったよ」
「あの時は俺様が全部食べ物取っちまったからな」
「まぁ最終的にお腹いっぱい食べれたからよかったよ!」
「あの後城を治すのにどんだけ手間がかかったと思ってるんだ……」
「じごーじとく?」
「うるせー」
拗ねるデデデは道端に置いてあった石を蹴飛ばしました。
蹴飛ばされた石は川の中にぽちゃりと音を立てて落ちました。幾つもの輪が水面に広がりました。
「でも、ぼくにはそのこともつい昨日あったことのように思えるよ」
「俺は逆に懐かしいけどな―――――あーあ。なんでこんなやつに会っちまったんだか」
大げさに溜息をつくデデデに、カービィは「こんなやつってぼくのこと?」と問いました。
「当たり前だろ。お前に会っちまったことが俺様の運のつきだよ。ま、なっちまったもんは仕方がないけどよ」
「だけどね、デデデ」
ぴょんとカービィはデデデの背中に乗っかりました。
デデデは鬱陶しそうに顔をしかめますが、カービィは背中から離れそうにないのでやがて観念して諦めました。
「ぼくは、ぼくがぼくになる前から―――――ずっと君のことを知ってたような気がするよ!」
迷いなく言うカービィに、デデデは訝しげに目を細めました。
「あ?ぼくがぼくになる前だぁ?意味がわかんねぇぞ」
「わかんなくてもいいよ。だってぼくもわかんないんだから!」
「なんだぁそりゃ」
「不思議でしょ?ぼくもそう思う!」
楽しげに笑うカービィのテンションに置いてきぼりになり、デデデは「何笑ってんだよ」とうんざりです。
「ここは本当に素敵なところだね。水も綺麗で空気も澄んでて、ここにいる人たちはちょっと変な人も多いけど皆良い人達で、何よりも食べ物が美味しいっていうのが最高だね!」
「それは同感だな」
「何度もこの星に来てよかったって思ってるよ」
「そういえばお前はどこから来たんだ?」
「ぼく?」
きょとんとするカービィは、どこまでも純粋でした。
「お前しかいないだろ」
「どこから来たと思う?」
「それがわかんねぇから訊いてんだろ!まどろっこしいな」
「あはは。ぼくはね―――――皆の心の中からやってきたんだよ!」
「……は?」
面を食らったような顔をするデデデの真正直な反応に、カービィは思わず吹き出してしまいます。
「冗談だよ。冗談!気分だけエイプリルフールのまんまだね!マホロアには叶わないだろうけど」
「何だよ。驚かせやがって―――――ま、お前なら本当にそうなのかもしんねえけどよ」
最後に小さく呟いたデデデの声は、カービィには聞こえませんでした。
「何か言った?」
「何でもねえよ」
星の戦士は強く、お人よしで呑気。
そういう優しい思いからできているのかもしれなくも、なくもなくも、ない。かもしれない。
デデデは何となく、分かったような気がしました。カービィの言いたいことが。
「なぁカービィ―――――お前はどこに行くんだ?」
唐突に問います。
「気まぐれのままにどこにでも行くよ」
彼は鼻歌を歌いながら答えました。
「それじゃあお前はどこにいるんだ?」
「ぼくはここにいるよ。ずっとずっとここにいるよ。例えどんなに遠く離れても、必ずこの星に戻ってくるよ」
果ての無い空は夢のような色に満たされており、星の光がとても似合いそうな宇宙がそこにはありました。
―――――お誕生日おめでとう!