そしてまたこのそらのしたで
※星カビwiiメンバーのほのぼのです
―――――
広い広い宇宙のあるところに、一人の嘘つきがいました。
嘘つきはとても未熟で、力というものを一切持ち合わせていませんでした。
唯一、彼が持ち合わせていたのは〝嘘をつく〟ことだけでした。
彼は弱い己の身を守り続けるために、〝嘘〟をたくさんつきました。
そんな哀れな虚言遣いは一つの大きな野望を持っていました。
それはこの宇宙全てを支配すること。
何もかも征服して、自分がその頂点に君臨しようと目論んだのです。
だけど生身の彼ではそんなことどうあがいても実行不可能であるということは言わずともわかることです。
だから虚言遣いはそのためにたくさん研究し、勉強しました。
そしてついに知ったのです。
ハルカンドラという星に存在する、強大な魔力を秘めたアイテム『マスタークラウン』を。
彼はすぐに計画を実行するため、動き出しました。
虚言遣いはハルカンドラへ赴いて超高性能技術で製造されたローアという船を手に入れ、マスタークラウンを守護する四首の竜ランディアと対決を挑みました。
しかし結果は負け、ローアは虚言遣いを乗せたままはるか彼方の星まで飛ばされてしまいました。
不時着で壊れてしまった船、計画は失敗のままで終わってしまうのかと苦悩する彼の前に―――――四人の戦士たちが姿を現しました。
そのうちの一人……ピンク色の少年が心配そうに虚言遣いに言います。
「大丈夫?」
虚言遣いは返します。
「あんまリ大丈夫じゃナイヨォ」と。
ボロボロになってしまった船を見て、戦士たちは決意に満ちた雰囲気で宣言します。
「この船のパーツを全部集めて、君の船を直してあげる!」と。
虚言遣いはあまりにもお人よしな彼らに呆気をとられますが、それと同時に計画への新たな方針が脳裏で展開されました。
四人の戦士を利用することで成立する、計画の主軸を―――――
虚言遣いは内心でほくそ笑みながらも、外面では人のよさそうな笑顔を見せて彼らを歓迎しました。
〝嘘〟だけで固められた、それはそれはとても残酷な表情で。
「はじめまシテカービィ!デデデ!メタナイト!ワドルディ!ボクの名前はマホロア。これからよろしク頼むネェ」
出会いはひどく唐突で、長い長い冒険の幕開けでもありました。
その時の空は、憎たらしいほど青く―――――澄んだものでした。
◆
「はい!マホロア」
いきなりカービィに大きな箱を渡された。
ずしりとした感触に思わず取り落としてしまいそうになり、慌ててしっかりと両手でボクはそれを支えた。
ローアの整備で長い間指先だけしか使っていなかったせいか、ビリビリと手の平中に痺れが奔る。
「?なんだいカービィこれハ……」
見た目はプレゼントように包装されており、白くて滑らかな包装紙の周りには赤色の可愛らしいリボンが結ばれている。
ボクが目を白黒させていると、カービィの後ろにいたデデデがにひひと笑んだ。
「見てわからないのかよ。プレゼントだよプ・レ・ゼ・ン・ト!」
「プレゼント?」
今日は何かプレゼントを渡されるような日であったっけ?とボクは首をかしげてしまう。
ボクの誕生日……はボク自身でもわからないから、カービィたちも知るはずがないからまずそれは違う。
それとも何かの記念日?
特に思い当たらない……。
「マホロアさん今日はあの日ですよ~」
デデデの脇にいたワドルディがそう言うが、皆目見当が付かない。
「それにしても早いものだな」
皆から少し離れた場所にたたずんでいたメタナイトが呟く。
早い?
やっぱり今日は何らかの記念日なのだろうか。
「わからない?」
カービィが顔を覗き込んできた。
確かにわからない。
ボクは素直に頷く。
するとカービィは「なんだ~忘れちゃったの?」と晴れやかに笑う。
「今日はボク達がマホロアに出会って、丁度一年なんだよ!」
「ア……!」
そうだった、と今更遅いけれど合点がいった。
今から一年前、ボクはカービィたちと知り合って一緒に旅をするようになったんだ。
なんで忘れていたんだろう。
「そう考えると早いものだなぁもう一年か」
「つい昨日マホロアさんと出会ったように思えますものね」
「時の流れとは速いものですね」
デデデ達が懐かしそうに思い出を振り返り、うんうんと楽しそうに唸っている。
「だからマホロア!そのプレゼント開けてみて!」
カービィに促されて、ボクはリボンを解いてプレゼントを開けた。
「ワァ……」
中には美味しそうなホールケーキが入っていた。
雪のように白い生クリームがたっぷり塗られた大きなスポンジはとても柔らかそうで、デコレーションされている真っ赤な苺が爽やかな酸味を帯びている。
「ア」
よく見ると、ケーキの上で砂糖菓子で作られたボクとカービィ、デデデやワドルディやメタナイト―――――旅をした仲間たちが勢ぞろいしていた。
すごく小さいのに繊細にできており、それぞれ個人の特徴や表情まで読み取ることができる。
ミニチュアのボクらの輪の更に中心には、ほのかに赤みを含んでいるチョコレート……苺チョコレートだろうか、それがそっとはめ込まれている。
チョコペンで文字が記されていた。
「It is very well from now on!」―――――「これからもよろしくね!」
何か胸に熱いものがこみあげてくるのを感じた。
「それハ……ボクのセリフだヨォ……」
嬉しかった。
ただ純粋に。
彼らは覚えてくれていたんだ。
ボクと出会った日のことを。
それがたまらなく、喜ばしかった。
「気に入ってくれた?お城のキッチンで皆で作ったんだけど」
ボクは無言で首を縦に振った。
……うまくしゃべることができなかった。
「じゃあ早速切り分けようぜ!オレ様が一番でかいのな!」
「あぁ待ってくださいよ大王!お茶の準備をしないと!」
「陛下、暴れたらケーキに埃が付いてしまいます」
「ちょっとちょっと!今回の主役はマホロアなんだよ~!?」
なんだかんだで忙しく動いているうちに、支度は思った以上に早くできてしまった。
ローアから出た皆は、野原の上に敷いたシートの上に座って、切り分けたケーキと紅茶を配りあっていた。
青空の下、ボク達はお茶会を始める。
「マホロア!」
カービィから渡されたショートケーキの上には、笑顔のボクがいた。
まるで鏡みたいだ、と思った。
今のボクは心から笑うことができるけど、昔のボクはそうじゃなかった。
嘘の作り笑いしか、浮かべることができなかったんだから。
そう思うと、ボクは随分変わったと思う。
彼らに出会わなければ、絶対にこうはならなかった。
「大王よりも大きく切ったからね!」
カービィの声。
「ふんっ感謝して味わえよ」
デデデの声。
「それにしてもその砂糖菓子のマホロアさん。本物のマホロアさんにそっくりですね」
ワドルディの声。
「……たまには、こういうのも悪くは無かろう」
メタナイトの声。
ボクは一度、彼らを裏切った。
裏切っただけではなく、排除しようとさえした。
語るのも無駄なほど彼らに対して非道なことをしたボクのことを―――――それでも彼らは見捨てなかった。
どころか、手を差し伸べて助けてくれた。
目的を失い、行くのあてのなくなったボクとローアを、彼らは受け入れてくれた。
今、こうしてプププランドで穏やかで平和に過ごせているのは―――――彼らのおかげだ。
ボクは―――――幸せ者だ。
「マホロア……?」
うつむいたボクの顔を、カービィが心配そうに覗き込む。
震えるボクは、ぎゅっと手に持ったフォークを握る。
「ミンな……」
嗚咽でうまく声に表せないけれども、それでも精一杯の思いを伝えてみる。
「皆……どウモ……アリガトウ……!」
流れ落ちた涙が、シートを少しだけ濡らした。
皆はふっと微笑んでくれた。
「おいおい泣いたらせっかくの美味そうなケーキがしょっぱくなっちまうぞ?」
「そのケーキ、とっても美味しいはずですよ!なんてったって僕たちが真心込めて作ったんですから!」
「うン……ウン……!」
ぱくりと一口サイズに切ったケーキを口に運ぶ。
ホイップクリームの甘味がふんわりと口腔内に広がって、頬が落ちそうになるほど美味しかった。
苺の酸味なのか、それとも涙の味なのかはわからなかったけど―――――今まで食べたどのケーキよりも、間違いなく一番美味しかった。
「そんなに急がずに食べなくても大丈夫だ」
メタナイトが気遣ってくれたけど、ボクは半ば夢中になってケーキを咀嚼する。
この暖かな触感に酔いしれていないと、もっともっと泣いてしまいそうな気がしたから。
だけどいっぱい口に含んだらむせてしまい、咳き込むボクの背中をカービィが摩ってくれた。
「大丈夫?はい、紅茶だよ」
「ゲホッゴホッ……ありがトウ……」
ぱちりと、カービィの青い瞳と目が合う。
にっこりと屈託のない天真爛漫な破顔を、ボクに見せてくれる。
あぁそうか。
―――――ボクは、皆の笑顔が大好きなんだ。
情けないけど泣きながら、ボクは笑ってしまう。
すると皆もつられて一緒に笑ってくれる。
そしてそれを見て、ボクは嬉しくて―――――泣くんだ。
「これカラも―――――よろしくネ」
幸福感と共に飲み込んでしまった明るい色合いのチョコレートに書かれていた言葉を、少しだけ照れくさい気持ちで言った。
今度は一年前と違って正直に言えただろうか?
うまく呂律が回らなくて、舌足らずな感じになってしまったけど。
平気かな?
ねぇカービィ、デデデ、メタナイト、ワドルディ。
ボクはこんなにも、素直になれたよ。
これが今のボクだよ。
一年前とは……全然違うでしょ?
成長できたよ。
もう〝嘘〟をつかなくてもよくなったよ。
だからボクは、もう大丈夫だよ。
今までいろいろ心配かけさせちゃって、ごめんね。
ボクはちゃんとこの世界で立ってられるよ。
だけどね、できたら―――――
「あたりまえじゃん!」
「あたりまえに決まってんだろが!」
「言わずとも、あたりまえであろう」
「あたりまえですよ!」
蒼穹は抜けるように青く澄み渡っていて、一年前と同じ色をしていた。
変わらない空の下で
成長した心を胸にしっかりと抱きしめて
―――――君たちと一緒に歩いていけたら、いいなぁ。
そんな昔のボクらしくないことを、ちょっぴり思ってみた。