キミとボクの痛みの話

 

 

※星のカービィwiiのその後

  非常に内容が暗い。痛い。後味が悪い。えげつない。鬱い

  皆救われてない

  バッドエンド?かもしれない

  妄想捏造満載 

 

 

―――――

 

 不可視の扉を超えた先に、劇場は在った。
 たくさんの赤色の椅子がすり鉢状に並び、一番奥の一番底には舞台が在った。
 映写機のような物や、照明器具のような物が幾つか供えられてはいたが、どれも古びたもので長らくこの会場が使われていないということを示唆していた。
 席には誰一人として座っていない。誰もここにはいない。誰もそこにはいない。誰も存在してはいない。
 世界の全てから忘れ去られ、切り離されてしまったかのように、劇場は孤独だった。
 そして―――――唐突にブザーが鳴った。静寂を破壊する音色は何かの始まりを告げていた。
 一斉に明かりが消え、室内は真っ暗になる。星も月も何もかもが消えてなくなってしまったかのような、暗闇に包み込まれる。
 無人の闇は恐ろしく、あらゆるものを失ってしまったように、底無しだった。
 やがて、舞台の幕が上がる。
 最深部の舞台だけが、人工的な光に灯されている。
 真っ赤な緞帳は深紅の薔薇色と、鮮やかな血潮の色をしていた。
 独りでに動き出す。独りでに―――――お芝居が始まる。

〝さぁさぁ始めまショウ。これは愚かな世界と素敵な王様の物語!誰も知らない不思議で愉快な物語!〟

 壇上で、奇妙な存在がお辞儀をする。まるで劇団長であるかのようなそぶりだった。
 その背後で、勝手に空間が作り出されていく。
 絡繰りが、魔法のように、奇術が、幻影のように、これから語られるであろう物語の〝舞台〟を創り出していた。 

〝どうか盛大な拍手を!〟
 
 誰もいない劇場で、握手をする者は誰もいない―――――はずだった。
 だけども、瞬きをすれば―――――会場の席が全て埋まっていた。
 いつの間にか多くの人々がそれぞれの席に腰かけては、団長に拍手を贈っている。
 延々と、永遠に続くような、長い長い拍手だった。

 ぱちぱちぱちぱち―――――狂ったように―――――ぱちぱちぱちぱちぱちぱち―――――壊れたように―――――ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち―――――テンポ良く―――――ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち―――――打ち鳴らされて―――――ぱちぱちぱちぱちぱちぱち―――――弾けるように―――――ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち―――――機械的に行われる動作は―――――ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち―――――まるで―――――ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち。
 
 ―――――神に祈るような、不協和音だった。 
 

 

 ◆

 

【序幕~ボクが知ってるおバカさんの紹介~】

 

 知り合いに無我夢中に夢を追いかけているやつがいた。
 ボクはそいつのことが好きじゃなかったけど、ボクとそいつは似ていた。
 顔や声が酷似しているとかいう似ているじゃなくて、根本的に何かが似ていた。何かは何かと問われたらちょっと困ってしまうけれど、あえて言うならば性質だろうか。
 そいつは賢くて力もあり、嘘をついては人を騙し、汚いやり方で美しく生きていた。そんなやつだ。
 人のことを駒としか見れず、自分のことしか信じていない。この世で一番最低なやつと罵られても仕方がないそいつ。性格の悪いそいつ。気に食わないアイツ。
 ボクの数少ない友人だった。
 夢を追いかけ続けていたアイツは、いつしか夢に破れて消えてしまった。
 ボクという存在の性質の大部分がアイツから引き継がれたようなものだからこそ言えるけれど、アイツのプライドはずたずたになって、身も心も死んでしまったのだろう。
 ボクはそれをとても哀れだと思う。それと同時に無様だとも思った。
 ざまあみろ、とは少し違う。
 バカだねぇ、が正しいかもしれない。
 アイツは自信家だったから、自分自身に絶対的な自信があったから、自分自身に負けてしまったんだ。
 そんな身も蓋もないことを思っては、人のことを言えないなぁと、思う。ボクのことじゃないけれど、ボクもいつかこうなってしまいそうなことだし。


 知り合いに一生懸命に愛を信じ続けているやつがいた。
 ボクはそいつのことが好きじゃなかったし、ボクとそいつは全然似ていなかった。
 顔や声はちょっぴり似ていたかもしれない。だけどボクは全然それを嬉しく思わないし、むこうも喜んだりしないだろう。それに、ボクとそいつは全く違う性質を持っていたから、根本的に食い違っている。
 そいつは努力家で真面目で、自分がどれほど傷つこうが構わずにある人物に全てを捧げていた。そんなやつだ。
 自分以上にある人物を愛して、恋して、焦がれて、望んでいた。この世で一番不憫なやつだと囁かれても仕方がないそいつ。根は良いやつのそいつ。女々しくて見ていられないアイツ。
 ボクの数少ない宿敵だった。
 理想実現の為に身を粉にして働いていたアイツがどうなったのか、ボクにはわからない。特に興味もない。
 夢を諦めてどこかへ旅立ったのかもしれないし、今も尚馬鹿みたいに熱心に変わらない日々を送っているかもしれないし、とっくに野垂れ死んだかもしれない。
 ボクはそれを何とも思わない。
 ざまあみろとも、バカだねぇとも、思わない。
 精々、お疲れ様。それだけは言ってあげよう。
 アイツにはそれしかなくて、愛の為に愛を尽くしただけだ。
 ボクはそれをちょっぴり羨ましく思うし、妬ましくも感じる。

 心から誰かを愛するというのはどんな気持ちなのか、ボクにはちっともわからないから。


 あの日、ボクは彼らと友達になった。
 ボク達は仲良しだった。何の問題も無い素晴らしい友情関係を築いていた。
 だけどある時ボクは彼らに嘘をついた。
 そしてボクは最終的に彼らを殺した。

 ……何か間違ったことしてるカナ?

 嘘つきが泥棒の始まりなら、心を騙して奪うのは当たり前のことじゃないか!

 

 

 

【一幕~王様と素敵な仲間達~】

 
 ガラクタみたいな夢がたくさん集まった世界は、あんまりにも退屈だった。
 全ての夢が虚ろで、空っぽで、抜け殻のようになって漂う、死んだような世界だった。
 不思議な闇色の海は微温湯のようにだらしなく、葡萄酒のように甘ったるかった。星の煌めきを失った虚空は不気味で精気を一切感じなかったけれども、底知れない美しさがあった。殺伐としたひどい幽玄具合だったけれど。
 人はこれを、破滅した宇宙と呼ぶのだろうか。
 その名を提起する存在も、もうどこにもいないけれど。
 腐りきって

「〜♪」

 王様は歌を歌っていた。子守唄のように穏やかで、ノリの良いバラードのような奇妙な歌を。囁くように、紡いでいた。
 いつ覚えた歌なのか、誰から習ったのか、題名は何なのか―――――思い出そうとさえしなかった。
 精一杯の退屈しのぎで、気晴らしの為だけのメロディの羅列なのだから。

「暇ダネェ」

 ふわふわと空間を揺蕩いながら、王様はふぁあと一つ欠伸をした。
 
「今日は何をしヨウ」

 王様は腕を組んで考える。
 やろうと思えば何でもできるけれど、何でも容易にできてしまうからこそ楽しくない。倦怠感だけが積み上がる。
 好んで何度も繰り返した遊戯だって、時がたてば飽きてしまう。子供が成長して玩具を手放すように、いつか思い出として過去のものになっていく。
 過去にならなくたって、つまらないものに始終貼りつかれてしまっては適わない。

「もう一度眠ル?」

 数百年前に眠って、今の今までずっと眠っていたから、眠気はまだあるけれどもこれ以上睡眠をとり続けたら腐ってしまいそうな気がした。身も心も何もかも。それもそれでまた一興なのかもしれないと思ったけれど、あんまりにも悪趣味だからやめることにした。
 腐って黴が生えてしまったら大変だ。
 そういえば、肉体に寄生して浸食してくる厄介な黴の話を聞いたことがある。
 ……どうでもいいからやめよう。 
 王様は溜息をつく。

「コンナに眠っていた理由ハ―――――」

 数百年前の記憶を蘇らせて、ぷっと吹きだしてしまう。

「退屈ですることがなかったカラ寝たンダ。目が覚めタラ何かやりたいことが見つかるかもッテ!」
 
 だけど生憎、残念ながら数百年退屈を紛らわすために眠っても、何もやりたいことが思い浮かばない。
 これじゃあ何も考えなくてすむ眠りに逃げたほうがマシじゃないか。泥のように眠って、空っぽの夢に沈んで、意識をどこか遠くに飛ばしてる方が、頭を悩ませないで済む。

「アア、退屈退屈。暇すぎて死んじゃいソー。夢が覚めちゃうからいけないんダヨォ。ボクをずっとずっと眠らせておくレヨ」
 
 ケラケラキャラキャラ笑いながら、何をしようか何がしたいのか思い張り巡らせては自分自身に意思疎通する。
 恋する女の子じゃないんだから、何をそんなに悩むんだって話だ。
 王様の理解は、一般的な理解の範疇を越える。

「ソウダ」

 ポンと手を打って、思いたつ。

「お茶会をしヨウ」

 それはイイ!とてもイイ!そうシヨウ!こうシヨウ!思い立ったが吉日。今が何年何月何日何時何分何秒なのかも知らいないけれど。誰にだってわからないことだ。この世は不可思議なのだから。いつだって、どこだって、何だって。
 人は概念に名前を与えるだけで、法則の真の解読や解析、ましては抗うことなどできないのだから。
 
 いつから人々は時間なるものに縛られるようになってしまったのだろうか。
 日が昇れば朝で、日が沈めば夜。お腹が空けばご飯で、眠くなれば眠る。
 本能を見失い、概念に雁字搦めにされ、自身で首を絞め墓穴を掘る者は―――――〝かつてそのようだった者〟は、はたしてどんな思いを抱きながら生きていたのか。
 もう王様は思いだせなかった。

「ドーセなら薔薇がいっぱいなトコロで、のんびりしたイネ」
 
 王様がにこにこ手を叩くと、あっという間に世界に新たな色が生まれた。
 真っ赤な薔薇の花が一面に咲き乱れ花園を作り、幻想的な空が天蓋として覆い、庭園の中央の芝生にお茶会のテーブルやら椅子が出てくる。僅か数瞬でお遊びの準備が整った。

「イヤイヤ、我ながらすごい力ダネェ。ボク」

 満足そうに自慢げに笑みながら、薔薇園の上でくるくると踊るように浮遊しながら、王様はとびきり豪華な椅子に腰かけた。
 円卓のテーブルは真っ白なテーブルクロスがかかっており、ティーカップやポット、クッキーやケーキなどがすでに置かれている。
 王様が座っている椅子以外にも四つの椅子があったが、未だ空席であった。
 
「ボクのお茶会に招待してあげルヨ」

 王様が指を動かすだけで、勝手にティーポットは空を飛び、それぞれのカップに美味しそうなお茶を注いでいく。
 湯気立つ濃い茶色の液体。言わずもがな紅茶である。ブレンドはご自由に。

「コノ紅茶、ボクは結構好きなんダケド、キミはどうカナ?―――――〝バンダナ〟」

 空白の席が一つ埋まる。
 そこには青色のバンダナをつけた人形があった。椅子の足元には長い槍が置かれている。
 物言わぬ人形は何も答えない。
 それでも王様はにこりと笑う。にこにこ、にこにこと。

「薔薇の庭園はどうカナ?キミの赤色のガウンも薔薇色に見えてくるヨォ―――――〝デデデ〟」

 空欄の席が一つ埋まる。
 そこには赤色のガウンを着た人形があった。椅子の足元には巨大なハンマーが置かれている。
 物言わぬ人形は何も語らない。
 それでも王様はにこりと笑う。にこにこ、にこにこと。

「久しぶりのお茶会だケド、何年ぶりカナ?キミってこういう華やかな行事、好きだったりスル?―――――〝メタナイト〟」

 空虚な席が一つ埋まる。
 そこには鋼色の仮面をつけた人形があった。椅子の足元には鋭利な剣が置かれている。
 物言わぬ人形は何の反応を示さない。
 それでも王様はにこりと笑う。にこにこ、にこにこと。

「ネェ。キミのためにたくさん美味しいケーキを用意しタヨ。喜んでくれるカナ?―――――〝カービィ〟」

 空っぽな席が一つ埋まる。
 そこには桃色の戦士の人形があった。椅子の足元には数多の星の欠片が散らばっている。宇宙のように。宇宙のように。宇宙のように。
 物言わぬ人形は何も言わない。何も答えない。何も語らない。何の反応を示さない。
 何故なら人形なのだから。ただの形だけを模ったモノなのだから。そこに魂は含まれていないのだから。付属されていないのだから。命は無いのだから。感情は無いのだから。それはモノでしかない。道具でしかない。抜け殻でさえない。生きていないのだから死んでもいない。生命の偽物なのだから。紛い物なのだから。心を騙す玩具でしかないのだから。
 よって、人形は人形で、王様の前にお行儀よく座っているだけなのだ。

 王様はそれでもにこりと
 にこりと笑う。

 にこりと笑っては、にこりと笑み、にこりと微笑んでは、にこりと破顔し、にこりとにこり。
 ただにこにこと、にこにこにこにこにこにこと。壊れたようににこにこにこにこにこにこと、狂ったように。笑っている。笑っている。

 とてもとても―――――☓☓☓ような笑顔で。

 彼自身も☓☓☓しまったかのような、素晴らしい顔で。

「ネェ。喜んデヨ」

 王様は言う。

「ネェ。はしゃいデヨ」

 王様は言う。

「ネェ。ふざけテヨ」

 王様は言う。

「ネェ。笑っテヨ」

 王様は言う。
 王様は言う。
 王様は言う。

「そうじゃないナラ、食べテヨ」

 お菓子をぶちまけながら。

「そうじゃないナラ、飲んデヨ」

 カップを割りながら。

「そうしないナラ―――――ボクがキミ達を食ベテ、飲んじゃウヨ」

 ぐちゃぐちゃのめちゃめちゃにして、ハンバーグにしちゃウヨ。

 心無い笑顔さえ浮かべない人形に、王様は言い続ける。
 返事などあるわけないのに。
 いつまでもいつまでも、決められていることを律儀に守るように、言いつけに従うように、言うのだ。
 黙ったら世界の全てが滅んでしまう。
 そんな恐ろしい呪いでもかけられているかのように。

「―――――アハハ」

 気付けばお茶会は終わってしまっていた。
 あっという間に終わってしまっていた。
 机や椅子の残骸と、潰れたお菓子、割れた食器―――――綿が飛び出しズタズタになった人形。
 薔薇の花弁が血だまりのように、一面に広がっている。一面の赤い海。一面の赤い海。
 
「アハハハハハハハハハ―――――ハハッハ」

 大いに哄笑して、王様は薔薇の花畑の中をくるくるぐるぐると踊った。
 流れるワルツも無ければピアノも無い。無音の世界で独りきり。
 鋭い薔薇の棘によって体中が傷だらけになっても構わず、王様は踊り続ける。

「―――――退屈ダナァ」

 散った薔薇の花に埋もれていく王様は、血の涙を流しているかのようだった。 

 

 

 ◆

 

 

【二幕~虚言遣いとおバカなお人よし達~】


 まさかあんなにも上手くいくとは思わなかった。
 かなり苦しい嘘だったと思うし、演技もそこまでよかったとは思えない。でも、アイツらは完全に騙されているようだ。
 単に馬鹿なのか。でも、今回はその馬鹿に救われている。
 複雑な気持ちを抱えながらも、虚言遣いは一安心の溜息をついた。
 もしもあそこで疑われていたり、協力してくれなかったらどうなっていたことか。考えるだけでもぞっとする。
 この星に不時着できてよかったと、心から安堵した。
 虚言遣いの船―――――ローアはハルカンドラを守護するランディアによって攻撃され、パーツがバラバラになってしまった。
 虚言遣いはランディアが被っている王冠―――――マスタークラウンを手に入れ、究極の力によってこの宇宙を支配しようと目論んでいる。目標にし、計画している。
 ハルカンドラに眠る天かける船ローアを手に入れたはいいものの、いきなりランディアに敗北して出鼻を挫かれてしまい、窮地に陥っているところをカービィ達によって救われている。
 不時着した先がポップスターのプププランドと言う呆れかえるほど平和な地であり、そこに住まう彼らもなかなか頭の螺子が緩く、警戒心と言うものが全く無かった。一人だけ虚言遣いを怪しんだ剣士メタナイトがいたが、友好的な態度を見せればすぐに警戒を解いた。
 虚言遣いの策略にまんまと引っ掛かり、何も知らないカービィ達は虚言遣いの頼むを快く引き受けてパーツ集めに励んでくれている。  
 ランディアに負けたのは失敗だったが、これは何とかなるかもしれない。
 壊れたローアの点検をしながら、虚言遣いは一人ぶつぶつと呟く。

「神様が少なからずボクを応援してくれテル……?」

 そんなことあるわけないだろうけど。
 昔からたくさんの嘘をついて生きてきた自分に、神の加護などあるわけがない。
 罪の意識がない分、重罪だろう。別に気にするつもりはないけれど。
 虚言遣いはタッチパネルを操作しながら、にんまりと笑った。

「もしもボクが宇宙を支配出来た暁ニハ、神様に感謝しなイト」

 キミの席を奪うという意味での、感謝を贈ろう!
 
 世にも悍ましいことを思考している最中、虚言遣いはすぐ後ろまで近づいてきている影に気がつかなかった。

「わぁ!」

「ウワァァアアア!?」

 突如背後から大きな声が聞こえ、虚言遣いは驚きのあまり跳びあがってしまう。

「な、カ……カービィ?」

「吃驚した?いつ気付くかなーとは思ったけど、全然気づいてくれないからさ!」

 慌てて振り返るとそこには、悪戯をした後の子供のような笑顔を浮かべたカービィが立っていた。

「集中してたからダヨ……カービィ。お願いだからボクの後ろで大きな声を出さないデネ。心臓飛び出るかと思ったカラ」

「えー。でも最初に驚かしてこいって言ったのはデデデだよ?」

「オレ様に責任を押し付けるな!」

 カービィの他にも冒険から帰ってきたデデデ大王やバンダナワドルディ、メタナイトが揃っており、マホロアはやれやれと息を吐いてから飛び切りの笑顔を作った。
 猫を被った嘘くささ。感情の見えない表情であった。

「マァ今回は大目に見てあげるケド、次にやったらお仕置きだからネェ☆」

「お、お前もなかなか言うなァ……」

「だ、大王様は僕が守りますよ!」

「バンダナ。この場合は自業自得なのだからお前が手を貸す必要はないだろう」 

「メタナイト……お前後で覚えてろよ……」

 わいわいがやがやとローア内が騒がしくなり、虚言遣いは作り笑いを浮かべたまま内心で喧しいナァと毒を吐いていた。
 そんな虚言遣いの背中をちょんちょんとつついて、カービィがあるものを差し出してくる。

「コレハ……」

「これがエナジースフィアであってる?」

 マホロアの手には銀色の歯車が一つ。ローアの大事な部品の一部であるエナジースフィアに間違いなかった。

「間違えてたら大変だな~って思ったから、一つ見つけて一旦皆で戻ってきたんだ」

「ウン。あってルヨ。アリガトウ皆!」

「よかった。でもこれがもっともっと必要なんだよね」

「ソウダヨ。だから申し訳ないケド、皆には頑張ってもらわなくちゃいけないンダ」

 本当に申し訳なさそうな演技をしてみせると、皆はそれぞれの態度で了承してくれた。

「早くローアを元通りにしたいもんね。ぼく達も頑張るよ!」

「アリガトウ!」

「それじゃあまた行ってくるね!」

「次はどっち行くんだ?」

「あっちのほうがいいんじゃないですか?」

「手分けして探すのはどうだ?」
 
 出口の方へ遠ざかる彼らの後姿を見送りながら、虚言遣いは邪悪な笑みを口元に浮かべていた。

「―――――精一杯、ボクに騙されていテネ」

 このまま何事も無く物事が順調に進むことを望んだ。
 本気の本気で、そう思っていた。

 

 

 ◆

 

 

【三幕~王様と王冠~】


 嫌な音が聞こえてくる。
 壁を剥がすような、壁紙を引きはがすような、窓を割るような、骨組みを圧し折るような雑音。
 肉体を引き千切り、皮を引き破り、感覚を遮断し、骨を潰すような雑音。
 耳を塞いでも内側から聞こえ、心を閉ざしても外から溢れ出てくる。
 警鐘。警報はとうに鳴っている。何年も何十年も何百年も何千年も前から。延々に、永遠に鳴りやまない。
 喧しさのあまり叫んでみても、何にも言葉は届かない。聞いてくれる者は誰もいない。それがどれほど心細く絶望的であるか、自分にしか理解できない。
 自分だけが自分の理解者であり、自分を苛ませる原因であった。
 何故なら王冠はすでに自分自身であり、自分自身を食らっているのだから。

「ドウシテ……」

 苦痛に呻きながら、王様はか細い声を発した。

「ドウシテ、こうなっちゃったん、ダロ」

 ミシミシと、ひび割れていく。何かが。誰かが―――――首を絞めるような、感触。

「ア、ア」

 これは自業自得なんだ。
 悪いのは自分だけで、当然の報いなんだ。
 それでも、それでもあんまりじゃないか。
 王様は頭を抑えながら、何かに取りつかれたかのように頭を掻きむしり始めた。
 だけども王冠がそれを邪魔し、指が痛むだけだった。何も取れやしない。捲れはしない。

―――――寂シイ?

 聞きなれた幻聴。もう何度目のことだろうか。

「違ウ」

―――――苦シイ?

「違ウ」

―――――悲シイ?

「違ウヨ」

 激痛に喘ぎながら、王様は力無く笑った。

「コレデ、構わないンダ」

―――――ナラ、ドウシテソンナニツラソウナノ?

「そういうモノなんダヨ。ボクは、そういうモノになってしまったンダ」

―――――可哀想ニ。ソレジャア誰モ君ヲ理解シチャクレナインダネ

「ハハハ―――――それでいいんダヨ。もう、いいンダ」

―――――君ハ孤独ダ。永遠ニ独リボッチ。可哀想ニ。可哀想ネェ

 うんざりしたのか鬱陶しくなったのか、王様は闇の空間に倒れては横になった。
 眠るように目を閉じて、苦痛を忘れようと声に耳を傾けなくなった。

―――――君ハ何カ大切ナコトヲ忘レテイルンジャナイカナ?

「―――――ヤメテヨ」

―――――ソウヤッテ〝オカシク〟ナルコトデ逃ゲテイルダケジャナイノ?

「……わからないヤ」

 あの時
 どうして
 自分は
 選択を誤り
 あんな結末を
 招いてしまったのか

 誰も望んでいなかったのに
 あんな悲惨な
 終わり方を

―――――「どうかしたの?」

 幻聴とは違う声が聞こえてくる。
 遠い昔の記憶の声だ。
 いつの間にか王様はのどかな大地に停泊する青と白の船の上にいた。
 王様の姿は今の王様の姿ではなく、王様になる前の姿だった。小さくて弱そうな姿。今となっては懐かしい、かつての容姿だった。
 今の時間は夜なのか、空には一面の星々が散りばめられており、手を伸ばせば宇宙さえ掴めてしまいそうだった。
 涼しげな夜風と、草と花の香り。汚されていない自然が多々あるこの星の空気は、いつも澄んでいる。

「こんな夜遅くに、目が覚めちゃったの?」

 ああ、そうか。
 もう夜なんだから皆船の中で眠ってるはずなんだ。
 だけど自分が寝付けなくて星空を眺めていた時に、キミが来たんだ。

「そんな感じ、カナ」

「なんだかぼくも目が覚めちゃったよ。今夜も星が綺麗だね」

 そう言って彼は隣に来て、一緒に星を観賞し始めた。

「あと少しでエナジースフィアが全部集まるね。これでやっとローアが元通りになるね!」

 彼は嬉しそうにはにかむけど、どうしてだかあまり快く笑うことができなかった。
 どうしてだろう。自分はあんなにも船の完成を待ち望んでいたのに。自分にとって彼らは利用しがいのある駒にすぎなかったのに。
 何がこんなに胸の内をもやもやさせるのだろうか。

「でも、ローアが完成しちゃったらポップスターともお別れになっちゃうんだよね?」

 お別れ。
 その言葉がやけに、ずきりと身に沁みた。
 どうして?
 こんなお人よしのだらしのない星から出て行けると思うと、清々するはずでしょ?  
 どうして……。

「また遊びに来てね。ぼく達はいつもここにいるからね」

 彼の笑顔が眩しすぎて痛い。今が夜だから余計に。目が潰れてしまいそうだ。
 だけどその笑顔、嫌いじゃないんだ。どうでもよかったはずなのに、どうでもいいと思えないんだ。
 もう、どうしたって止められないんだ。終わりはしないんだ。
 それでもやらなければならない。

「それにしても本当に綺麗な空だな。ほら、今にも落っこちてきそう!何か願い事が叶うといいな」
 
 ああ、残念だよ。
 これからキミ達の笑顔をぶっ壊さなくちゃならないと思うと、本当に残念だ。
 壊す。壊す。壊す―――――?

 ボクを信じてくれている、キミ達を?

「カ、カービィ」

 咄嗟にその名を呼んでいた。
 するとカービィは振り返って、なに?と笑う。

「キミは―――――キミ達は、ずっとココにいるんだヨネ?」

 そう尋ねると、迷いなく彼は「うん!」と答える。

「だってぼく達はこの星が家だし、この星が大好きだから!」

「そう、ダヨネ」

 何を期待していたんだろう。
 そうに決まっているなんて、最初からわかっていたはずなのに。

「あ、でもね―――――ここは君の家でもあるんだよ」

「エ?」
 
 満天の星空の下で、彼は両手を広げて主張するように言う。この星を代表して宣言するように、快活そうに笑うのだ。

「だって君はこの星に来て、こうしてここにいる―――――だからもう、ここは君の家なんだよ!」

 予想外のことを言われて呆気を取られてしまう。
 家。
 今まで家なんて呼べる場所―――――無かったのに。

「バカだネェカービィ。デモ、そっか。家カ……ウン、悪くナイネ」

「でしょ!」

「ハハハ……そんなコト言われルト、帰りたくなくなっちゃうじゃナイカ」

「ぼくとしてはいつまでも君にここにいてもらいたいけど、それじゃあ駄目なんでしょ?」

「当たり前じゃナイカ―――――サ、ボクももう寝るカラカービィも早く寝ナヨ。明日も早いんデショ?」

「そうだね―――――それじゃあおやすみ」

 また明日ね。
 
 その声が
 何度も
 何度も
 何度も
 今でも
 遥か彼方の時を越えた今でも
 ずっと
 ずっと
 ずっと
 ずっと
 忘れられず
 反響し
 反芻し
 反復し
 聴覚に
 残り
 意識に
 刻まれ
 残って
 残って
 焼きついて
 焼き焦げて
 取り返しがつかなくなるまで
 理解できずに

―――――「カービィ!!!!」

 だんだんと離れていく背中を、何千何億何兆もの距離の向こうで、手を伸ばしながら叫んで呼び止めようとしている。
 だけども届かない。そこに王様はいないのだから。王様は過ぎ去った時のずっと先で停止しているのだから。
 王様になっていない虚言遣いは、ただの虚像でしかない。現実の幻影でしかない。蜃気楼のように揺らめいては音も無く消えた。
 そして王様は、王様になった。紛れも無く、代用のきかない最強の存在になった。
 奈落の底から名前を呼んだところで、彼は振り向いてはくれないのだ。ましては手を掴むことさえままならないのだ。
 地底から星が見えないように、星に触れられないように―――――王様は彼を捕まえられない。

―――――「違うんダヨカービィ!!!そんなヤツに優しくしちゃダメだったんダヨ!もっと早クに気づいていればよかったんダヨ!」

 夜空の下でスキップをする彼に叫んだところで、彼は微塵も反応を示さない。
 マジックミラーの向こう側なんだ。未来とは、残酷なんだ。
 過去を変えることができない。

―――――「ローアを直さなイデカービィ!デデデもバンダナもメタナイトも!ソイツを信じチャダメだ!!今すぐにデモ!一秒でも早ク!―――――ソイツを!ソイツを!!」

 
 ボクを☓☓シテ。

 間違ってない……ヨネ?
 嘘つきが泥棒の始まりなら、その泥棒は裁かれるべき存在で間違ってないヨネ?
 

―――――「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」


 ホラ、やっぱりキミは嘘つきじゃないか。

 王冠だけが王様を見下している。
 王様は泣かなかった―――――笑い方も下手くそになっていた。

 

 

 ◆

 

 

【終幕~えいえんにさよなら~】


 なにもかもがこわれていく。
 なにもかもがだめになっていく。
 なにもかもがおかしくなっていく。

〝ぼく達のことを思い出して!〟

 こえがきこえたようなきがした。

〝この野郎!引きずりおろして後で一発ぶん殴ってやるからな!〟

 それはなれしたしんだこえ。

〝どうしてこんなことに……!帰ってきてくださいッ!〟 

 うっとうしくもありめんどうでもあったこえ。

〝しっかりしろ!お前自身がお前を見失ってどうする!〟

 でもきらいではなかったこえ。

 なにをしていたんだろう。
 なにをやっていたんだろう。

―――――「コレは無限の力を持つマスタークラウン!」

 アレをかぶってつよくなった。
 でもとうとつにいけないとおもった。
 こんなことはまちがっているときがついた。
 いまさらのようにおもった。
 かれらのもとにもどって。
 おこられてもきらわれてもいい。
 こんなちからはひつようないんだと。
 いままでずっとまちがいつづけてうそをついてきたのだから。
 とりかえしがつかなくなるまえにやりなおすべきだと。
 たたかいながらおもった。
 きられながらおもった。
 ころされてもよかった。
 おかしくなるまえにやられるほうがよっぽどよかった。
 だけどもうおそかった。
 ボクはとまれなかった。
 そのさきはあまりおぼえていない。
 でもろくでもないことをした。 
 みんなきえてしまった。
 みんないなくなってしまった。
 みんななくなってしまった。
 ボクのせいで。
 ボクがそうしてしまったから。
 そのままマスタークラウンはかってにうごきだす。
 ボクのからだをしはいして。
 うちゅうさえしはいして。
 なにもかもをしょうあくして。
 すべてをはかいし。
 すべてをめっし。
 すべてをほろぼし。
  
 そして―――――。


「そして愚かな虚言遣いは王冠に囚われ、大切な友達を消してしまい、世界さえも滅ぼしてしまい、多大な罪から目を逸らすために心を閉ざして、何千何億何兆年も罰として生き続けることになってしまいましたとさ―――――おしまい」

 
 めでたくないめでたくない。

 

 

 

                     ―――――暗転

 

 

 

 ◆
 
 世界は一転した。   
 あれほどけたたましく響いていた音楽も、空を斬り裂くような絶叫も、何も聞こえなくなっていた。
 気付けば人形の観客も誰一人としていなくなっており、席を立ってしまったのかそれとももともと座ってなどいなかったのか。それさえも判断がつかない。
 終幕を迎えたはずのお芝居は未だカーテンが引かれず、月の光を想起させるスポットライトに照らされたまま、語り部の姿だけを映していた。
 舞台の床には数えきれないほどの破損したミニチュアやドロドロのペンキ、人形達が打ち捨てられて汚れきっていた。
 その中央で語り部である団長だけが観客席を見つめて、静かに微笑を湛えている。腐りきった世界には不釣り合いなほどの、完璧で完全な笑みだった。
 唯一の、生存者だった。ただ一人の、役者だった。

「―――――今宵の舞台はこれにてお終いでございマス。皆様どうだったでしょウカ」

 救いようのない悲劇。
 不幸と不純が織りなす、どうしようもない悲劇の物語。
 誰も喜ばない後味の悪いエンドロール。
 観客席が空っぽになるのは当然である。必然的でさえある。
 こんな物語を見たい者などいるわけがないのだから。
 ―――――滅んだ世界に残った者など、在るわけがないのだから。

「ドウカ、拍手ヲ!」

 それでも団長は両手を大きく広げ、歌うように求める。
 怒涛のような拍手の嵐を、押し寄せる歓声の波を。生命の基盤を失った大海原から何も誕生しないということはわかっているのに、それでも声を投げ続ける。

「拍手ヲ!」

 その言葉を最後に口をつぐむ。
 そして本当に静寂が訪れた。
 静まり返った会場で―――――唐突に、ある観客席だけを集中してスポットライトの光線が注がれた。
 真っ白の星光の中で、彼は一人席についていた。先ほどまで誰もいなかったはずの観客席が、一つだけ埋まっている。

「―――――アア、そウカ」

 恍惚と寂しさが入り混じった凍り付いた笑顔のまま、団長が席に座っている者を見つめた。
 その観客もまた団長に視線を送り返し、二人は見つめ合うことになった。耳が痛くなるほどの無音の中で。

「キミもマタ、主人公の一人だったモンネ。正しい物語を導くはずダッタ、勇者(ヒーロー)だったかラネ」

 でも、この物語の勇者(ヒーロー)は死んだんだ。
 悪の魔術師に消されて、退場したんだ。
 カーテンコールにさえ登場することなく。

「ネェ、面白カッタ?キミが憎むべき存在が堕落し落ちぶレテ、破綻していくさまを観るノハ」

 団長が急かすように問うが、観客は何も答えなかった。
 ただただ悲しそうに、青色の瞳を潤ませて、黙って座っているだけだった。

「面白カッタ?キミが恨むべき存在がどんどん壊れてイキ、狂っていくさまを観るノハ」

 それでも観客は何も言わない。口さえ開かない。
 焦燥感と悲壮感が増したのか、いつしか団長は苦しげに叫んでいた。

「笑エヨ!これは喜劇的な悲劇なンダ!当然の報いデ、当然の罰なンダ!キミが―――――キミ達が呪ってくれなくちゃダメなんダ!罵倒シテ愚弄シテけなさなければダメな物語なンダ!」

 観客の評価が無ければ、作品は生きていけない!物語は本当に終わってしまう!
 終わってしまったら―――――舞台の幕が降りてしまう。
 
 これはとある愚かな王様の懺悔であり、一生終了することの無い終身刑なのだから。

「笑ッテヨ。アンコールしテヨ。それダケデ―――――キミ達はボクを許さなくて済むのダカラ」

 悲痛に顔を歪めながら、団長が懇願する。
 少しだけ、時計の針が時を刻んだような気がした。
 それは時計回りではなく―――――逆に進んでいた。


「ごめん―――――笑えないよ」 

 
 かつての星の戦士は笑わなかった。拍手もしなかった。
 それに対して団長は多大なショックを受けたのか両目を見開いて、抑え切れなかった涙を流した。
 そしてとても悲しそうに目を閉じて―――――舞台の上でゆっくりと倒れた。
 頭にかぶっていた王冠が甲高い音をたてて割れる。
 それだけで―――――空っぽの世界が崩れた。
 舞台会場も何もかもが、何かの合図のように一斉に消失していく。

「ごめんね―――――だって、ぼくも皆も知ってたから。どれだけ君が苦しんでいたか、知ってたから」

 崩れていく会場の舞台へ続く階段を上り、星の戦士は王冠を失った団長の小さな青い体を抱きしめた。 

「だからもういい。もういいんだよ。ぼく達は君を許してるから。永遠の時間の中に籠ってなくていいんだ」

 過去に縛られ続ける必要はない。
 悲しい世界の外に出て行かなければいけないんだ。

「それでいいんだよ。」
 

 


―――――CONTINUEしますか?

―――――NEWGAMEを選びますか?

 


―――――後悔しませんね?

 

 

 


「後悔しないよ。この物語は絶対に悲劇で終わらせない―――――大団円(ハッピーエンド)になるまで、ぼくは認めない」

 

 

 

 

 

 

 


―――――どうかさよなら。また出会うその日まで。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

「マホロア!」

 ローアの船内で作業中だったマホロアに、カービィは真後ろから大きな声を出して彼を驚かせた。

「ワァ!?な、なんダイカービィ。後ろから驚かすのはやめてッテ言ったじゃなイカ」

「だってすごい集中してるみたいだったから、つい驚かしたくなって」

 やれやれと言いたげに目を細めるマホロアに、カービィは悪戯成功~!とはしゃいだ。

「まったくモウ……それで何か用でもアルノ?」

「あのね!でっかいパーツを一つ見つけたんだよ。これで本当にあってるかどうかをマホロアに見てもらいたくて」

「本当!?ドンナ形をしてル?」

「えっとね……言葉にしにくいから一回外に来てよ!皆外で待ってるし」

「そうダネ。今行クヨ―――――この調子でローアが元通りに戻るといいナァ」

 胸を躍らせるマホロアに、カービィがふいに「ねぇ」と声をかけた。

「もしローアが完成したら、その時はマホロアの故郷に連れて行ってよ!」

「エェ!?何デ?」

「だってどんなところか気になるし、それにローアに乗って飛んでみたいし!」

 目をキラキラさせてお願いしてくるカービィの視線に耐えきれなかったのか、呆れつつもマホロアは了承する。

「アーアーわかっタヨ!だからそんなに引っ付かなイデってバァ!」

「やったァ!皆喜ぶと思うよ!ほらほらマホロアこっちだよ」

「自分の船の構造は自分が一番よくわかってるヨォ。まったくモウ。キミってホンットーに……」

「ホンットーに?」

 屈託の無い天真爛漫な表情で振り返るカービィに、マホロアはやれやれと苦笑した。

「―――――なんでもないヨォ」 

 船を出て、青空の元へ二人は跳び出していく。迷いなく、躊躇なく


 

 何も知らないまま、これから起こるであろう悲劇に立ち向かっていくかのように。
 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

・解説っぽいもの

 

 これはマホロアがゲーム本編とは違ってマスタークラウンの力でカービィ達に完全勝利をして宇宙最強の支配者になってしまい、懐かしき後悔の過去と退屈と虚無の現在に絶望して心を狂わせていく話、です。
 自重的に笑いながら愚かな自分の過去を語る彼の言葉は、誰の耳にも届かないはずだった。
 だけども幻影なのか実像なのかは不明だけれども、彼の罪を許してくれる存在が待ってくれていた。
 そして物語は時間を遡るように新たなステージへと進み、もう一度冒険が始まる…そんな感じです。

 

 

 

 

 

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