サヨナラ、セカイ。

 

※マホロア×ローアです。マホロアがローア溺愛しています

  星のカービィwiiでマホロアがカービィを倒してマスタークラウンを独占し、宇宙を支配してしまった時系列です。

  あまり報われない。救われてないかもしれません。



―――――

 


 星が瞬いているのは 命を燃やしているから

 不変じゃないのは 命が動いているから

 命が終わるのは 誰もがそうだから

 10000000000光年先のどこかも そうやって 消えていく

 迷い込んだのは誰?
 
 深い深い闇の海に沈んだのはだぁれ?

 きっと独りだけで

 そこにキミはいなかった

 


 

―――――キミには口が無かった

―――――口が無いキミは喋れない

―――――だけどボクは喋れる

―――――だからボクがキミのぶんまで喋ってあげるよ

―――――キスはできなくとも思いは伝わるはずだから


 
 ★


 この世界、すなわち宇宙を一つの箱と例えてみよう。
 どんな箱でもいい。
 蓋が付いていて、中身に何かを収められるくらいのスペースがあれば、どんな箱でもいい。
 想像して。
 思考して。
 そして意識の中で創造して。
 構築して、形成してみて。
 作れたかい?生み出せたかい?
 ならば次のステップに進もう。
 箱を開けてみる。
 もちろん生まれたての物質の中身は空っぽ。
 つまり宇宙も〝宇宙〟という一つの概念、枠組みが生まれただけで星も原子も誕生していない。
 そこにモノを詰めていく。  
 なんだっていい。
 キャンディでも、ナイフでも、人形でも、好きなものを詰めていく。
 満杯にならなくともいい。
 自分が「これ以上何もいれなくていい」と満足したならば、蓋を閉めよう。
 ちゃんと閉まったかい?入れ忘れ、入れなくてもよかったものはないかい?
 それじゃあ
 おめでとう
 これで君は、小規模な宇宙を作った創造神だ。 
 君が望んで入れたもの、望んで入れなかったものもひっくるめて、空白の空間に君が収めたものは、そのまま世界になる。
 秩序や法則も、君が決めた通りのものに。

 そして最後に言い忘れていたが、間違っても鍵などつけちゃいけないよ?

 創造神は宇宙を作っただけの存在であって、絶対に支配者などではないのだから。

 誰にも―――――永遠など、ないのだから。

 

 

 ★

 

 

「でもボクは、誰のモノでもない世界に鍵をかけてしまっタ」

 幾千、幾億、幾兆の星々が瞬く無限の宇宙にぽつり、歌うように語りだす者がいた。
 禍々しい黄金色の王冠を被り、血の様に紅いマントを羽織った、魔術師。
 だけども魔術師と呼ぶには失礼なほど、その者から発されるオーラはとんでもない力を帯びていた。
 それはもはや―――――神の領域に入るほどまでのもの。
 
「おかげでボクは誰よりも強い力を手に入れたんだケドネ」

 くすくすと楽しげに―――――マホロアは笑った。
 かつての非力は嘘のように、最強となって。 

「ダケド、ソレももうお終イ」

 ふいに天を見上げる。
 そこには―――――常軌を逸した光景が広がっていた。

「今日が―――――世界の最後ダ」


 
 ★


 小さな星も、大きな星も、輝きを失って何の前触れもなく崩壊していく。
 崩れた残骸は隕石の様に幾つもの尾を引いて、流星群の様に闇色の海に深く泳いで沈んでいく。
 そんな光景はさながら雨の様にも捉えられた。
 微かにまだ灯っている焔が、名残惜しくも最終的には消失して跡形もなくなる。
 あちらこちらに点在していらブラックホールが荒れ狂うように広がり、もともと暗かった空間をより一層闇に塗り替えていく。
 世界中のあらゆる場所が冷え切っていく。
 最終的にはどこも絶対零度に域にまで気温を下げてしまうであろう。
 全ての物質を構成する元素の消滅。
 即ちそれは、世界の終焉を意味していた。
 凍り付いていくように色を失くしていく宇宙。
 エントロピーを凌駕し、宇宙全体のエネルギー密度が均等に、平等になっていく。
 永久に無限に終わり無く宇宙は膨張し続け、光を失くして何も生み出さない―――――死の空間へと化す。
 それが、宇宙の最後。
 抗いようのない、摂理。
 
「モウきっと、いや絶対に、ボク以外に生きている生命はいないだろうネェ」 

 終末に向かう世界を見物しているマホロアの表情には、恐怖などというものは全く窺えなかった。
 それどころかどこか愉快そうに、皮肉気に、観光名所に来ているかのように、余裕綽々な態度をしていた。 
 物見遊山とは天と地ほどの差がある風景ではあるが、マホロアは眼を逸らさずじっと死に往く風景を眺めている。
 マスタークラウン。
 マホロアの頭の上で今も尚神々しい光を散らしているそれは、宇宙を支配できてしまうほどの尋常ではないパワーを秘めている。
 今から何十、何百、何千、何万、何億、何兆―――――ひょっとしたら十の百乗くらいの年数前に、マホロアはマスタークラウンを手に入れ、被った。 
 そして計り知れないほどの力を会得し、やがては宇宙の支配者となった。
 神とは言えないものの、実力だけは神に等しいほどのレベルに。
 マホロアは宇宙の法則に反さなければ、何でもできるようになった。
 望めば星を作り、逆に滅ぼせたり、時空を渡ったり、次元を折りたたんだり……とにかく何でもした。
 時には慈悲深き存在となり、時には残虐な暴君にも、何にでもなった。なれた。
 たくさん遊び、たくさん壊し、たくさん生み出し、たくさん失った。
 マホロアはマスタークラウンの影響で不老不死になっていた。 
 人の何倍も生き、何倍も生き続けた。
 存在する限りの知識と、宇宙の全真理さえ、知り尽くした。
 気が付けば世界は滅びの時を迎えていた。
 生命はとうの昔に絶滅し、あのダークマター一族でさえ死に絶えた。
 最後にマホロアだけが無人無命の宇宙に取り残された。
 
 
 あの道化師も。
 あの暗黒物質達も
 あの魔女も。
 あの騎士も。
 あの大王も。 
 あの兵士も。
 あの戦士も。


 無量大数の時間軸も、無限大の命も。
 何もかもが、無くなった。

 残ったのは果てしない退屈と―――――唯一共に行動している船だけだった。

「ローア」

 マホロアはその船の名を呼んだ。
 ローア―――――天かける船ローアは、マホロアの手の中に納まるほどサイズを縮めて、きらきらと瞬いていた。
 星の様に、命の様に、産まれたばかりの胎児の様に。  
 愛おしげにマホロアは話しかける。

「良い眺めだと思わないカイ?これが世界の終焉ダヨ」

 概念も秩序も物理の法則も入り乱れ、脆くなっていく。
 音も無く破滅していくその様子は現実離れしていたけれども、これが現実だった。
 今まで積み上げたつみきのタワーが、根本から崩れていく。
 今の宇宙はその例えが非常によく似合い、酷似している。
 こんなにも広大なのに、壊れていくのは一瞬なんダネェと、マホロアはくつくつと喉奥から嘲り笑いを洩らした。
 宇宙を小馬鹿にできる者なんて、どの時代にもマホロアしかいないであろう。

「ボクはビッグフリーズ説を信じてたんだケド、どうやらこの世界にピリオドを打つのは熱的死みたいダ」

 難しい理論だから説明は省くケド。というか前にもそんなコト話した様な気がスル。
 
「ネェ、ローア。キミは機械の船だケド、ちゃんと意思があるからキミもボクと同じ生者の分類に入るヨネ?」

 返事はない。
 思考判断はできても、言葉を発する器官……言わば口が無いローアは、喋れない。
 それがあたりまえとマホロアは思っているのか、一方的な会話を続ける。    

「ジャアこの最後の景色は、キミとボクだけのモノダネ」

 嬉しげに、マホロアはそっと淡い光に包まれているローアを撫でた。
 青と白を基調にした滑らかなボディ。
 それははるか大昔にとある星で見上げた空の色を想起させた。

「どこかの誰かサンは、宇宙は永遠に終わりと始まりを繰り返してるって説を上げてたケド、本当はどうなんだろうネ。さすがのボクでもわからないヤ」

 永遠に生と死を繰り返す。
 輪廻。
 リング。

「もしかしたらこの世界は、七億番目にできた世界なのカモしれないネ。数字は適当だケド」

 落ちる星。掻き消えていく。
 定められていたことのように、決められていたことのように。
 逆らうことなく、死んでいく。
 
「……ローア。ボクは、死ねるのカナ?」

 マホロアはぼそりと呟いた。
 ローアを乗せている手が、一瞬だけ震えたような気がした。

「マスタークラウンは正常に通常通りに機能しテル。もしコレが世界が闇に閉じても動き続けるとしタラ、ボクも間違いなく必然的に生きるコトにナル。……どこにも繋がらない死んだ宇宙で、一生」

 無数に散らばり還元されていく星屑は死の間際に、飴玉の様に艶めいて、濁っていく。
   
「ボクは生き残っちゃうカモ。だけどローア。キミはたぶん……そこまではついて来れないと思ウ」

 温かな波動に包み込まれたミニチュアのローア。
 いくら天かける伝説の船でも、本来ならばこんな長年形を保っていられるはずがない。
 マホロアの魔法で保護されていなければ、ローアは消えてしまう。
 それくらい―――――長い月日が経っていたのだ。
 数多の月、衛星は太古に滅してしまったけれども。
 日は光を失って、萎んでいく。
 そんな中でローアだけはまだ守護されて、守られていた。
 かつての立場とは真逆だった。
 マホロアはローアに守られていて、ローアはマホロアを守っていた。
 そんな関係も入れ違うように、今は変化している。 
 運命の道筋を誤ってしまったがごとく、静かに。

「―――――ナンだか、息苦しくなってきたよウナ……」

 マホロアは少々苦しげに表情を歪めて、胸を押さえた。
 もともと宇宙空間には生命維持に必要な大気は存在していないが、マホロアはマスタークラウンのおかげでどのような場所でも生きていける。
 だけども世界そのものの崩壊によって、原子などはだんだんと薄くなって消滅し、いずれは完全に無くなる。
 もっとも窒息死、圧死などで死んだとしても、マホロアの肉体は再生して何度でも蘇るのだが。
 
 神に近しい能力を得ていると言っても、世界の構築は―――――できない。
 あくまで世界に干渉するという驚異の力があるだけで、言ってしまえば宇宙の本質には逆らえないのだ。
 これもまた自然の摂理であって、揺るがない真実の一つ。
 
「本当に世界が終わるときッテ、何もかもが無になるんダネ……」

 他人事のように、マホロアは暗き空に身を浮かばせ、漂わせた。
 長いマントが波打つ。
 目下に映る、渦を巻いた銀河。
 それがそこらじゅうに大量にあるものだから、ひどく不思議に思える。
 一つ一つがマホロアよりも何億倍も大きな、恒星や惑星の王国。
 どれもマホロアは知っている星々だったけれども、あんなにも美しかっただろうか、と少しばかり首を傾げた。
 いつからだろうか、星を小さなものとして見て、扱うようになったのは。
 マホロアは思考してみたけれども、すぐに考えるのをやめた。
 どうせそれも何京年前のことだろうと、諦めた。
 重力に拘束され、巨大な円を描いていたそれらも、やがてはその束縛から解放されていく。
 最後の最後ぐらいは、自由に―――――。

 何の しがらみのない 世界に 放して 


「アーァ。ローア……もしキミが機械の船なんかじゃなクテ、性別がアッテ、それでもって女だったラサ―――――もしかしたら生命はこうして滅びるコト、なかったカモネ」

 ―――――まァ、そんなの不可能なんだけどサ

 なんてことのないように発言したマホロアは、ちょっとだけ嫌らしそうに含み笑いをした。
 そんな冗談でさえ―――――切ない。

「ローア。キミには本当にお世話になったヨ」

 肺が潰れそうなほど苦しい中、マホロアは微笑む。
 まだ無事か、まだ壊れていないかと、ローアの身を案じているのかより一層強く引き寄せた。 
 心の、拠り所。

「ゴメンね。コンナところまで、何年も何年もボクの我儘に付き合わせチャッテ。こんなトコロまできちゃったカラ―――――キミを自由に解放する、ナンテこともできなソウダ。最後の最後まで……キミはボクの、道具」

 首輪をつけたままだっタネ。

 マホロアは乾いた笑い声をあげる。  
 心なしかどこか寂しげだった。
 恐怖や絶望ではなく―――――純粋な寂寥感があった。
 ローアは笑わない。 
 マホロアの手の中で、主の言葉を待っていた。 

「ローア。ボクはネ」

 愛おしげに、ローアを胸元にまで寄せて抱きしめた。
 宝物を奪われないように、隠すように。
 自分だけのモノと、頑なに主張するように。

「キミが好キ」

 うっとりと甘えた声で、マホロアは告白する。
 その表情には恍惚の色さえ混ざっていた。

「道具であるはずのキミのコトが、こんなにも好きにナッテタ」

 ハルカンドラでキミを見つけた時から
 一緒にいろいろな星を巡ったときから  
 たくさん戦った時から
 生命のリングから外れたあの時から
 ずっとずっと  
 
「キミに恋しテタ」

 ずっとずっと
 傍にいてくれて
 寄り添ってくれて
 支えてくれたから
 逃げ出したり
 否定したりもしなかった
 どんな時でも
 協力してくれて
 尽くしてくれた

 最後の最後の こんな時まで

「ボクは宇宙のコトならなんでもワカル。だけど、キミのコトだけは、最後マデわからなカッタ」

 儚くも幻想的な星の雨。
 それは少しだけ、虚ろな空間に夢を与えた。
 まるでこれはミルクの海。
 天の河。
 ミルキーウェイ。
 全ての星の塵や破片が結集して、描く神秘。
 最後の作品。
 マホロアはその中で、眠る様に目を閉じた。
 柔らかで温もりのある命の布に、包まれていく。

 何でもわかるはずのマホロアは、ローアのことだけはわからなかった。
 否、やろうと思えば口無き心さえ見透かせただろう。
 だけどもマホロアはそうはしなかった。
 心を見ることを―――――恐れていたのかもしれない。

「ボクは世界に鍵をかけタ。鍵はマスタークラウン。そして箱の中にいれたノハ―――――キミだけダッタ」

 宝箱。
 箱庭。
 マホロアの世界は―――――ローアだけだった。
 キミだけが、ボクの宇宙。
 キミは―――――世界。

「キミが好キ。好きだカラ―――――放したくなかッタ」

 放したくなかったから、契約と言う名の呪いをかけた。
 どこにも行かせたくなかったから、主従と言う名の鎖で縛った。
 好きだったから、愛しく扱った。
 道具を、愛でた。
 
 流れていく。
 身も、感情も、命も。
 流れて、流れて、流れきって。
 体も、心も、魂も。
 溶けていく。
 溶けて、溶けて、溶けきって。
 触れれば簡単に壊れてしまいそうな、繊細な絶景。
 目蓋を閉じても目裏にまで焼きつく、光。
 この神秘的な美しさを永遠にするように
 ゆっくりとゆっくりと、確実に時を進めて
 世界が終わっていく。

 鐘の鳴る音が聞こえたような気がした。
 ああ、これは宇宙の声だ。
 宇宙の泣く声。
 咽び泣く、世界の叫び。
 この音が泣き声ならば、振り落ちる星々は涙。
 空白を埋めていた個々の命が、皆死んでいく。
 皆皆、最後の一瞬まで魂を燃やして。
 なんて澄んでいるのだろうか、この音は。
 なんて愛おしいのだろうか、この世界は。
 闇が降りてくる。
 二度と晴れることのない、未来永劫ここを支配する―――――無の幕。
 街の明かりが消えていくように、星の光も消えていく。
 ぽつりぽつりと、愛を紡ぐように。
 終わり往く。
 キミと。

「離さないヨ。うん……離さナイ」

 息苦しさはピークを迎え、マホロアは名残惜しそうに愛する存在の姿を全身に刻みつけた。
 そしてエンブレム部分に口づけた。
 祝福するように、跡を残すように。
 ああどうか神様。
 この瞬間を永遠に、須臾を永久に――――― 
 どうかどうか。

 十の百乗の時間、ずっと一緒にいたんです。
 これからも一生共に過ごしていきたかった。
 一緒なら行ける。
 どこへでも、どこまでも、どこにでも。

「―――――愛してル」

 ローアは砕け散った。
 
 マホロアは粉々になった。
 

 世界は            


 

 

 

 ★

 

  

 


 

〝キミはボクだけのモノ〟

〝ボクの船〟

〝これからもよろしくネェ〟

〝マスタークラウンがあれば、ボクはこの宇宙を支配でキル!〟

〝大丈夫ダヨローア。ボクはこうみえてト~ッテモタフなんダヨ〟

〝キミさえいてくれレバ―――――無量大数の時だって笑って過ごセル〟

〝キミだけがボクの―――――〟 

 


 ★

 

 

 壊れた夢を見た。
 世界が壊れる夢を見た。
 だけどよく考えたらそれは夢なんかじゃなくて、現実だった。
 世界は壊れてしまった。
 誰かの世界は消えてしまった。なくなってしまった。
 魂が空へと昇っていく幻想を見た。
 雪のように幾つもの命が弾けて消えた。ふわりふわり羽のように、失われた。
 やがては空さえも朽ちて、何もかもが死んだ。
 世界は死んでしまったのだ。
 夢さえも視れないほどの深い眠りへと落ちていく。

 命が生まれる瞬間を繰り返し辿った。
 命が終わる瞬間を何度も眼にした。
 生まれては死んで、死んでは生まれる。
 何回も繰り返し、命は循環する。
 そうやって世界が鼓動していた。呼吸をしていた。千切れないリングを、強固な輪廻を繋いで、生き続けていた。
 生きて生きて生きて、世界は自分の中で生と死を見守る時を過ごした。それはそれは長く長く、気の遠くなるような時間。ずっと支え続けていた。
 だけど世界そのものが死んでしまったら。何もかもの時間が止まって、物語が続かなくなってしまう。
 そして世界は果てに辿り着いた。
 理論も論理も秩序も摂理も概念も通じない―――――定めの終着点へと。
 世界が消えたら全ての歴史が途絶え、虚空へとかき消えてしまうのだろうか。 
 誰もこの世界で起こったことを、覚えることもできずに、忘れるということさえもできずに―――――溶けるように消えてしまうのだろうか。何に溶けてしまうのかは、わからないけれども。
 世界は形を変えて、姿を変えた。
 いったい何年の月日が流れたのだろうか。どのくらいの膨大の年月が必要だったのだろうか。
 誕生し、成長し、発展し、崩壊し、退化し、また成長し―――――気が付けばどこまで来ていたのだろうか。
 命に不変は無かった。
 万物に不死など無かった。
 だから世界だって死んで、滅ぶ。
 宇宙にも始まりがあれば終わりがある。 
 全てを見通す者がいたとしても、例外がいたとしても。
 世界にピリオドが打たれる。
 いつまでも、永遠に。終わってしまう。
 舞台に幕が下りる。
 物語が終焉を迎える。
 はじめまして。
 おはよう。
 こんにちは。
 こんばんは。 
 おやすみなさい。
 ありがとう。
 だいすき。
 だいきらい。
 あいしてる。
 さようなら。 


 お別れの挨拶をしなくちゃね―――――。

 

 

 

 ★

 

 

 目が覚めた。
 そこは真っ白な世界だった。
 何も無い、無垢で空虚な空間。
 白、白、白、白、白、白、白、白。
 空虚で空白で空っぽな
 空も地面も地平線もわからない、曖昧な白の大地。
 時間も無くて、気温も無く、概念も無い、そんな―――――閉じた世界。
 
「……」

 マホロアは色の無い虚空の一点を凝視しながら、眠っていた意識を覚醒させた。
 無意識のうちに頭に手をやる。
 何の抵抗もなかった。
 起き上がって後ろを振り返ると、そこには粉々になったマスタークラウンがあった。
 元は金色だったフォルムは完膚なきまで崩れ、錆色に変色していた。
 石のようになった王冠を、マホロアは感情の無い瞳でぼんやりと映していた。
 自分の体に目を落とす。
 肉体は縮んで、懐かしき太古の自分の姿に戻っていた。
 青と黄色。
  
 ぱっともう片方の手を見る。
 何かを握っていた。
 開いてみる。
 
 ―――――星。

「―――――エンブレム」

 ローアのエンブレム。
 黄色の星型のそれはヒビがはいっているけれども、ちゃんと形を留めていた。
 エンブレムだけが残って―――――それ以外は消滅した。
 その考えが妥当だろう。
 必然。
 確実。

「なぁンダ」

 マホロアは力無く笑った。
 
「結局ボクだけ閉じた世界に残されちゃったんジャン」

 辺りを見回してみる。
 やはり白。
 白、白、白だけの世界。
 気が狂いそうなほど、色の無い死んだ宇宙。

「宇宙が滅びたら真っ暗闇になるのかと思っテタケド、真っ白。マァこのほうが滅びたって感じするナァ」

 夢現に身を揺らしながら、マホロアはエンブレムの表面にそっと手を這わせた。
 滑らかなそれ。触り慣れた、船の一部。

「……このほうガ、いいヨ」

 ―――――死ねたほうが、壊れれたほうが、ずっと幸せだモノ。

 マホロアはどこか安堵気に、息を吐いた。
 
 キミは死んで
 ボクは生きる
 死ねるのかどうか、定かではないここで。

「―――――ン?」

 何度か指を往復させていると、マホロアは何らかの違和感に気が付く。
 よく見ると中央の部分だけ凹んでいる。
 妙な発見をしてしまい、とりあえずマホロアはその部分を押してみる。
 すると小さな感触と共に、薄く文字が浮かび上がった。
 熱と光で焼きつけて書いたものだろうか、とても短い文章だった。
 とてもとても短い―――――拙い思い。

「……ローア?」

 愛。

  

 

 

 

 


 ア イ  シ     テ イ マ  ス  

 

 

 

 

 ★

 

 

「……ハァ?」

 目を見開いたまま、マホロアは硬直した。
 驚愕を隠せず、そのまま思わずエンブレムをとり落としそうになる。
 この文章を書いたのは―――――紛れもなく、ローアだろう。
 あの宇宙で最後まで生きていたのは、マホロアとローアしかいないのだから。 

「ハハハ……ローア……キミ文章書けるナンテ……教えてくれなかったじゃナイカ……」

 一度は支えたものの、エンブレムはするりとマホロアの手を抜けて―――――白き地面に落下した。
 ガラスの割れるような繊細な音と共に、砕け散る。 
 マホロアは茫然と、あさっての方向を見つめていた。

「なんダヨ……なんなんダヨ……ローア……もしかして……ボク達結局両想いってヤツだったんじゃナイノ……?」

 返事はない。
 陰も無い。
 ぬくもりも無い。
 空っぽ。
 空白。
 無。
 零。

「なんデ……なんデ……キミは……こんなトキにそんな……」

 ―――――期待させるようなコト、言うの。
 
 ―――――やめてヨ

 ―――――そんな、幸せなんテ!
 

 

 

 

 

 

 

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 
 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
 
 独りぼっちは嫌だ独りぼっちは嫌だ独りぼっちは嫌だ独りぼっちは嫌だ独りぼっちは嫌だ
 
 悲しいよ寂しいよ怖いよ嫌だよ誰か誰か誰かボクを独りにしないで独りにしないで怖いよ
 
 寂しいよ心細いよこんなところに独りきり永遠に誰にも存在を知られないでずっとずっと

 ローアローアローアローアローアローアローアローアローアローアローアローアローア
 
 助けて助けてこんなところに居たくないボクもキミと一緒に壊れたかった死にたかった
 
 キミと一緒なら何も怖くなんてないのにキミがいないと駄目なんだ駄目なんだ駄目なんだ
 
 うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
  
 ボクはこんなにもキミを思ってるのにローアローアローアローアローアローアローアローア
 
 結末なんていらなかったキミといられればそれだけで全てが良かった宇宙の支配なんて
 
 どうでもよかったキミさえいてくれればボクは何もいらない何もかも捨ててもよかった
 
 全部全部投げ出せる投げ打つことができるキミのためならローアボクはローアローア

 キミを愛してル 

 どうしようもないくらい好きデ

 どうしようもないくらい必要デ

 キミがいなくちゃ生きていけナイ

 ボクはキミを守っているようなふりをしていタ
 
 本当は昔と変わらずボクがキミに守られていタ

 10000000000光年先にキミがいても、ボクは探しにいくヨ

 どこまでモ、追いかけていけるカラ 

 だからだからだからだから

 


「寂しいヨ……怖いヨ……独りは……嫌だヨ……ッ……!」

 ポロポロと涙を零すマホロアは、ぎゅっとエンブレムの破片を集めて握りしめた。
 祈るように、願うように、ただただ強く。
  
「て……助け……テ……助けて……ローア……!」

 涙だったのか。
 輝いたのは手の内の欠片だった。
 煌めいたのは景色だった。
 光になったのは―――――青と白。

「ローア……」

 光。光。
 星のような光。
 それがマホロアを包む。
 守るように、抱きしめるように。

「お願イ」

 泣きながら、マホロアは懇願するようにそれにしがみつく。
 閉じた世界で、救済を求めた。
 縋るように。

「ボクも連れて行っテ」

 願いはそれだけ。
   
「離さなイデ」

 それだけでいい。

「連れて行っテ」

 それ以外には何も望まない。

「好キ」

 何もいらないから。

「愛してル」

 キミだけを、愛してるから。
 


 

 お願いもっと、もっと、強く、抱きしめて。
 ボクの体は本当は小さくて、王冠がなければ重さなんてないんだから。
 ふわふわ浮かんで、消えてしまうんだから。
 だから、キミが
 支えてくれないと
 ちゃんと立ってられないんだから。
 キミがいない世界なんて滅びているのと同じだ
 例え本当に世界が滅んでいるとしても
 キミさえいてくれればボクは幸せになれるから
 鍵がなくたっていい。
 ボクがちゃんと大切にするから。
 だから。
 だから。
 一緒に連れて行って。
 離さないデ―――――
 どこまでモ

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 ―――――サヨナラ、セカイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

                                                                  戻る