ハルバード懇親会~ボクらの王様~
※メタ逆後のお話
実はすごいお気に入りの話です
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初めてあの空中戦艦を見た時、ボクは稲妻に打たれたかのような衝撃を受けた。
まだ建造中で完全には完成しておらず、まだ所々骨組みが剥き出しだったけれど、当時のボクにとっては想像を絶する素晴らしいものに見えた。
あんなにも巨大で、雄々しく、力強い船を見るのは本当に生まれて初めてだったから、ボクは感動のあまり立ち尽くし、恥ずかしいながらも涙さえ零してしまった。
この先主砲などの武器、兵器を取り付ければより一層カッコいいものになるのだろうか。
あの翼が羽ばたけるようになったら、きっともっともっと美しいものになるのだろうか。
様々な想像を膨らましながら、ボクは涙しながら一人ワクワクしていた。
この戦艦―――――ハルバードが飛翔するのを想像するだけで、心がどうしようもなく弾んだのだから。
「この戦艦が気に入ったか?」
ボクが誰よりも尊敬する方―――――メタナイト様がそう言った。
これはただでさえメタナイト様の戦艦だ。ボクは夢中で頷いた。
するとメタナイト様はボクを戦艦の甲板に連れて行ってくれた。
まだ未完成な場所だったけれど、とても広くて立派な物だった。
地下で今もなお極秘建造されているこの戦艦。完成すれば計画の最重要戦闘艇および砦として使用される。
マストの上から景色を眺めても、所々にぽつぽつと灯る機械の明かりで照らされた地下の全貌しかうかがえなかったけれど、これがいつか大空を飛んだときには―――――世界の全てが見渡せてしまえそうな気さえした。
地上は今、夕暮れ時だろう。
夕焼けの天空を飛ぶハルバードを脳内で想像した。
そこに乗っているボク達は、世界さえも支配出来うる王者になれているのだろうか。
もちろん、ボクは王者になんてならなくていい。
王者になるべき人は―――――今、ボクの隣に立っている人だから。
★
「えっと……ここでいいのかな?」
青いリボンのついた水兵帽を被ったワドルディが、小さな紙を片手にきょろきょろとどこか不安げに道を歩いていた。
道と言ってもほぼ手を付けられていない自然そのものの道であり、かなり凸凹していて進みずらかった。
ポップスターのプププランドの外れの、ごつごつとした岩石や岩壁の多い地域。そんな辺鄙な場所を独りワドルディは進んでいきます。
「それにしても……久しぶりに手紙をくれたと思ったら、こんな場所に呼びだしてくるなんて。何か大事なようでもあるのかな?」
むむむと唸りながらも、ワドルディはひたすら石や岩と格闘しながら目的地を目指してひたすら歩んでいく。
手にしている紙には簡易的な地図らしきものが記入されており、岩場地帯のとあるポイントに赤色のマーカーでわかりやすく丸が描かれていた。そこが目的地であろうことは一目瞭然であった。
「本当に、ここ、進みにくいよ!あの人前からこんな場所に住んでたの?」
ちょっと汗をかきながらも、健気に道なき道を進んでいき数十分―――――ようやく目的地であろう場所にワドルディは到達する。
岩壁の一か所だけに木製の薄っぺらい扉が埋め込まれている。
銀色のドアノブなどが明らかに人工物で、ワドルディは圧倒的な違和感を覚えた。
チャイムらしきものはない。
仮にここにチャイムが設置されていたらもっとおかしなことになっていたに違いないだろうが。
とりあえず軽くノックを数回。
返事はない―――――が、中からバタバタの騒がしい物音が聞こえてきた。
不審に思ってそのまましばし待ってみると、やがてぴたりと雑音は止んだ。
いったいなんだったのだろうか。
疑問を抱えつつもワドルディは気になり、ドアノブをひねってドアを押した。
扉は軽い素材でできているので抵抗なくあっさりと開いた。
そして中の様子を窺おうとそっと顔を出したところで
パン!パン!パァン!
「わぁっ!?」
いきなり数発の発砲音みたいな音が響き、仰天したワドルディは反射的に目を瞑って腕を顔の前に出して防御姿勢をとってしまう。
しゅるりと何かが体に引っかかるような軽い音。
そして何だか変な煙の匂い。
とどめに
「「「メタナイト様!お久しぶりです!!」」」
である。
「……へ?」
恐る恐る眼を開け、ワドルディは室内の様子を確認する。
室内はレトロな作りをしており、一見酒場を思わせた。
丸テープルが点在して配置されており、カウンターのようなものがあったり……本当に田舎風のバーのような作りをしていた。
テーブルには酒やら料理やらが並べてあり、壁などにはいろいろな装飾が施されている。
一見、宴会な雰囲気である。
「お?」
「あれ?メタナイト様じゃ……ない?」
聞き慣れた、懐かしい声。
「お前らアホかぁ!!どっからどう見てもそいつはワドルディじゃねえか!またクラッカー無駄にしたな!数がなくなるだろうが!というかこれで何回目だ!?いい加減に学習しろ子供かお前らは!」
「あ~……またクラッカーが無駄になりましたね」
「アックスが『今度こそメタナイト様だ!』とか言うからダスよ!」
「いやだって何かノック音がメタナイト様っぽくて……」
「ノックで人物特定できるんダスか!?すごいダス!さすがダス!」
「馬鹿言ってないでとっとと片づけろ~!」
「了解です~」
「えっと……あの……」
クラッカーから飛び出たリボンがまとわりついた状態のワドルディは、目をぱちくりさせてぽかんと立ち尽くしていた。
どうやらメタナイトと間違えられたようである。
「まぁ何はともあれ。来てくれて感謝するぞワドルディ」
困惑しているとカウンターのほうから長身の男―――――バルがワドルディの元に近づいてきた。
「か、艦長」
あの時と同じ、白色の艦長服と帽子。
どこからどう見ても、紛れもなく艦長である。
「久しぶりだな」
「ほ……本当に艦長だ……!」
あの計画が失敗に終わって以来、一度も会っていなかった艦長と再び会えるとは夢にも思っていなかった。
自宅に届いた手紙の送り主欄にバル艦長の名前が記入されていたときは、ワドルディはそれこそ跳びあがるほどびっくりしたくらいである。
「そうだぞ~あの時一番最初に逃げ出したバル艦長で間違いないぞ!」
「く、くおらぁ!過去をぶり返すようなことは言うでないッ!」
艦長をからかった者―――――アックスナイト。
その他にもメイスナイトやトライデントナイトなど、当時のメンバーがたくさん勢ぞろいしていた。
「久しぶりだなワドルディ!」
「先輩……!」
たくさんの先輩たちに笑顔で迎えられ、後輩であるワドルディは嬉しさのあまり瞳を少々潤ませてしまった。
「さて……これで来てないのは残すところメタナイト様だけだ」
アックスに軽くパンチをおみまいしながら、艦長がそう言った。
ワドルディはリボンを解いていきながら「あの」と控え目な声のボリュームで質問をした。
「これって、何の集まりですか?」
「決まってるだろ。元ハルバードメンバーの懇親会だよ」
「懇親会……だって、手紙にはただ『来い』みたいな感じで書かれてたから、てっきりなんかもっと重大なことでもあったのかと……」
その言葉にメイスナイトが少しだけ吹きだした。
「いや、我々も最初はそう勘違いしてたんダスけど、どうやらあれは艦長なりのサプライズだったみたいダスよ。この懇親会の企画をしたのも艦長ダスし、会場もここ―――――艦長の工房ダスし」
「こ、ここは艦長の工房だったんですか……」
随分辺鄙な場所にあるんですね。とはさすがに言えなかった。
「ああ見えて艦長。結構最初に逃げ出したことに罪悪感覚えてるみたいでさ。お詫びみたいな感じで今回全部艦長のおごりみたいだぞ」
アックスの言葉に艦長は顔を赤らめて
「ふ、ふんっ!久々にこうやって元メンバーで交流するのも悪くなかろう!」
と意地を張って、またカウンターのほうへと戻っていった。
「そうか……もうあれからずいぶん経つんですもんね」
「早いダスよね。つい昨日のことみたいに思えるのに」
「……メタナイト様、来てくれるかな」
「艦長ちゃんとメタナイト様に招待状贈ったんですか?」
「贈った!真っ先に贈ったわい!」
「じゃあ後は待つだけか……よしっ!皆クラッカー待機な!」
アックスの指示に何人かがクラッカーを手にし、玄関前でいつでも放てるように待機する。なかなか珍妙な光景である。おそらく先ほどワドルディにクラッカーの雨が降り注いだのもこれが原因であろう。
皆それほど―――――メタナイトに会うのを楽しみにしているのだろう。
「……」
ワドルディは玄関を見つめながら、ふと過去のことを思いだしていた。
あの時―――――このプププランドの制圧に成功していたら、どうなっていたのだろうか。
あれから―――――何か変わったのだろうか。
メタナイト様は―――――元気でいるのだろうか。
かつて制圧しようとしていた国で懇親会をするなどというのは何とも皮肉なことかもしれないが、実際ここにいるほとんどのメンバーはプププランドに住んでいる者達ばかりである。
メタナイトに至ってはこの国の城で剣士を務めているくらいだ。
相変わらずこの国は平和で、呆れかえるほどのんびりしている。
だけれども昔ほどは堕落に満ちてはおらず―――――ここ最近はだいぶまともな形になってきている。
おそらく、あれからもメタナイトは陰ながら努力を積んできたのだろう。
「……会いたいなぁ」
ぼそりと、誰にも聞こえないくらい小さな声で、ワドルディは呟いた。
ただでさえ小さい声は、すぐに周りの騒ぎ声に飲み込まれて消えてしまう。
それでもじっと、元水兵の円らな瞳は入口のチープな扉を映していた。
★
あの時―――――けたたましい警報音が鳴り響いていた。
管制室のモニターにはたくさんのエラーやら緊急メッセージが画面中に表示され、プログラム異常を告げる文字と数字の羅列が乱れ狂い、それらが怒涛のように一気に溢れ、展開されていた。
何かが焼き焦げるような鼻につく嫌な香り。遠くから聞こえていたはずの爆発音がどんどん近づいてくる恐怖。猛烈な揺れ。軋む音をたてる床と天井。どんどん倒壊していく前方の艦橋。爆破の影響で燃え盛る甲板。崩壊していく砲台。崩れていく―――――戦艦。
我らが戦艦。
堕落した国を変える、大いなる象徴。
それがたった一人の戦士によって―――――破壊され、蹂躙されていく。
今思うと、何て屈辱的なことだったんだろう。当時は焦りのあまりそんなことを思考する余裕さえなかったけれど。
何年もかけて設計し、建造した戦艦がたった一日で。何年もかけて精密に正確で確実な計画をたてたのに、たった一日でこうもあっさりと破れてしまうだなんて。
ボクは信じたくなかった。
だけども心の中ではもう理解していた。
この戦艦はもうじきに落ちると。
翼はもがれ、閃光を放つ主砲も壊され、バランスをとって飛行することさえままならない状態に陥ってしまっている。
消火活動ももう間に合わない。今すぐ脱出しなければ犠牲者がたくさん出る。
この革命を断念しなければならない。
決断しなければならないときが、とうとう訪れてしまった。
「クルー全員に告ぐ!至急本艦より脱出せよ!!」
それがメタナイト様の答えだった。
部下たちの命を守るために、この戦艦を捨てることを選んだのだ。
皆、名残惜しみながらも死を恐れ、逃げた。
だけども―――――ボクとアックス先輩達は本艦に残った。
「いえ、最後までおつき合いさせていただきます!」
「カービィをぎゃふんといわせて、それからみんなで逃げるだス!」
ボクの答えも決まっていた。
最後まで、この船に残る。
メタナイト様の御供をする。
それが答えだった。
最後の最後までメタナイト様に尽くしたいと、心から思ったから。
「……死にぞこないどもめ、勝手にするがよい」
そう言ったメタナイト様が、一番苦しんでいたことを、ボクらは知っていた。
だからこそ、負けたくなかった。
武器を手に、カービィと戦いを挑んだ。
だけど―――――勝てなかった。
カービィはボク達では到底太刀打ちできる相手などではなかった。いや、皆それをわかっていて戦ったんだから。全力で、全身で、雄叫びを上げて、命をかけて。
勝って、メタナイト様の顔に泥を塗ったやつをぎゃふんと言わせてやりたかった。
だけど、それでも勝てなかった。
ボロボロになったボクたちは、泣いた。
床に突っ伏して、声を上げて泣いた。
ボク達は―――――この国を思って、戦っていたというのに。
この国を変えるために、頑張ってきたというのに。
メタナイト様のために、この命を捧げると誓ったというのに。
悔しさと悲しさで心がいっぱいになった。
深刻なレベルにまで到達した戦艦は、もう浮上さえできずに、下降を始めていた。
ボクは、死んでもいいと思った。
この戦艦と一緒に、撃墜して、死んでもいいと、本気で思った。
これこそが、最後まで御供する、究極の形なのではないのかと。
ボクだけでも、残って、この戦艦の全てを心に焼き付けておきたいと。
あんまりだ。
この戦艦はまだ、羽ばたいて間もないのに。
いずれは、世界に羽ばたけるかもしれなかったのに。そんな素晴らしい力を秘めているというのに。
皆が汗水流して作った、魂の形なのに。ボク達の―――――最後の希望なのに。
絶望に暮れていたそんな時、手にしていた小型無線機から、ノイズ混じりに声が聞こえた。
聞き間違えようもない、メタナイト様の声。
このような状況であるにもかかわらず、冷静沈着にボク達に命令を下した。
『お前達だけでも今すぐここから脱出しろ』と。
「嫌です!」
咄嗟にボクはそう叫んでいた。
悔しくて悔しくて、涙が余計に溢れた。
この戦艦が沈むのがたまらなく悲しくて、メタナイト様の望みを達成できなくて、ボクにできたのはただみっともなく泣き叫ぶことだけだった。
「ボクも残ります!最後までいさせてください!この戦艦と一緒に……最後までいさせてください……!」
震える手で、ぎゅと無線機を握りしめた。
涙で滲んで、視界はぼやけていた。
爆音と風の音を長時間聞き続けたせいで聴覚もいかれてしまっていた。
それでもメタナイト様の声だけは、はっきりと聞こえた。
「ボクは弱っちくて……力も無いですけど……それでもまだ戦えます……!戦わせてください!メタナイト様に……最後まで尽くさせてください……!お願いします……!」
精一杯の、願いだった。
他に何もいらなかった。
最後まであきらめたくなどなかった。
今まで仲間たちと築いた計画、望み、夢を、こんな形で終わらせたくなどなかった。
『命令を聞けワドルディ。このままでは死ぬぞ』
「嫌ですッ!それだけは聞けません!貴方を置いて逃げるなんて絶対にできません!貴方がここに残るのならば……ボクも残ります!貴方の為なら……死んだっていいですから!!」
この命は、メタナイト様に捧げた命なのだから。
我儘だということはわかっていた。
迷惑をかけるだけだということは充分承知していた。
それでも。
それでも。
ボクは―――――もがいていた。
メタナイト様が―――――言う。
静かに、だけども力強く、王者の威厳を感じる口調と声音で、ボクに言った。
『私に最後まで尽くしたいというのならば―――――生きろ』
それを最後に、ぷつりと無線が切れた。
「メタナイト様……?メタナイト様!?」
それが―――――あの時聞いた、メタナイト様の最後の声だった。
叫ぶボクを引っ掴んで、先輩たちが走り出した。
逃げるために。全力で炎に包まれかかっている艦内を疾走する。
脱出用のパラシュートはまだ、燃えずに残っているはずだから。
先輩たちはメタナイト様の言葉を、受け止めていたのだ。そして実行に移していた。
きっと皆だってボクと同じ心境だったんだろう。
だけども、メタナイト様の最後の命令を聞いて―――――脱出するという答えを出したのだ。
「嫌だ!離してください!ボクは残ります!残りますから!離してッ!」
引っ張られるがままに、ボクは喚いた。
メタナイト様とどんどん離れていくような気がした。
戦艦から―――――どんどん離れていくような、そんな気がした。
このまま逃げてしまえば、今まで思い描いた夢や理想が全て台無しになってしまうような気さえした。
何もかもが水の泡になって、消失してしまうような恐怖心を覚えた。
何よりも―――――ボクの中の忠誠心が必死に抵抗をしていた。
メタナイト様が―――――消えてしまう。
「メタナイト様!メタナイト様ぁ!!」
消えてしまう。
いなくなってしまう。
燃え滾る炎の中で、かき消えてしまう。
戦艦も何もかもが、沈んでいく。落ちていく。終わっていく。死んでいく。
「うわぁぁあああぁああぁ!!!」
悲鳴にも似た絶叫を発しているのは、ボクだった。
夕日を浴びて赤く染まっている海を見たのも、ボクだった。
炎を思わせる夕空を瞳に映したのも、ボクだった。
翼を広げて剣を手に、傷だらけで戦っている剣士を見たのも――――――――――ボクだった。
★
「メタナイト様……元気かなぁ?」
「どうした?」
「あ、艦長」
はぁと深くため息をついたワドルディの隣に、再び艦長がやってきた。
ちなみに、アックスナイト達はというと、もはや何の軍隊の軍事演習なのか、ご丁寧に隊列まで組んでクラッカーを構えてメタナイトを待機していた。後ろから見るとなかなかシュールな光景である。
クラッカーの構え方がもう火器と同じ感じなので、誰かを待ち伏せて奇襲を狙っているようにも捉えられる。……ちなみにクラッカーです。致死性の一切ない普通のパーティ用クラッカーです。
「ボク、あれから一度もメタナイト様に会っていないんです。だから元気でいるかな~って」
泣きながらハルバードから脱出したあの日。
沈みゆく戦艦を茫然と見ながら、ワドルディは仲間たちとメタナイトの帰還を待った。
だけども待てどもメタナイトは戻ってこらず、泣きながら皆と別れた。
そして風の噂でメタナイトの生存を知り、心底安堵した記憶。
でも、もう二度と元ハルバードメンバーが集結することはないだろうと思った。
武力でこの国に反旗を翻した自分たちは、あくまで罪人なのだから。
「艦長……ありがとうございます。ボクや皆を呼んでくださって。艦長が皆を呼び寄せてくれなかったら、たぶんこのメンバーで集まれる日は来なかったと思います」
「おっ?あ、あぁそうか?」
照れくさそうに言う艦長。
ワドルディはちらりと玄関を横目に見て、また溜息。
「なんだなんだ、暗いな」
「だって……ボクはメタナイト様になんて顔して合えばいいのかなって」
「普通にしてればいいだろ」
「……艦長は先に脱出したから知らないんですよ」
ペシン。
頭をはたかれた。
「まぁ、ワシは先に逃げてしまったから知らないがな。……これでも、反省はしたつもりだぞ」
「ヘビーロブスターを二機も大破させたうえにハルバード内部の損壊、そんでもって艦長なのに誰よりも速く脱出したことに関してですか」
「ぐふっ!」
ワドルディのあまりにもストレートな物言いに、バルはむせた。
「ヘッ……ヘビーロブスターはワシが開発したやつだから、いいだろぅ!?」
「あんまりよくないと思いますけど……」
「お前……随分と言うようになったなぁ……誰に似たんだ?」
「ははは……」
ワドルディは苦笑した。
苦笑しながら、続けた。
「ボク……あの時は気が動転してて、メタナイト様の命令を無視してしまった、というか拒否しちゃったんです。なんだか思い返すたびに申し訳ない気持ちでいっぱいになるんです。こんなんでメタナイト様に会ってもいいのかなって……」
「ふむ……まぁ気にしないのが一番だろ」
「艦長は軽いですね」
「前向きと言え」
「それに―――――何をやったかは知らんが、少なくともお前は最後までメタナイト様に尽くしたんだろう。だったらそれでいい。胸を張ってろ」
「……」
それでも気分が沈んでいるワドルディを、バルは今度ははたくのではなくそっと背中を叩いてあげた。
「落ち込んでる暇があったら祝いの準備でもしろ。今日はめでたい日だ。なんせ―――――皆生きているんだからな!」
皆生きている。
その言葉にワドルディははっとさせられた。
そうだ。
皆、生きているんだ。
皆生きて、ここで集まれているんだ。
「おぉ?」
急に立ち上がったワドルディにバルはちょっと吃驚したのか、少しだけ後ずさりをした。
「艦長……ありがとうございます」
「お、おぉ何にしても元気が一番だぞ」
「艦長も―――――後で一緒にメタナイト様に謝りましょうね」
「……もとよりそのつもりだったがな」
その時、コンコンとノックの音が響いた。
「きたっ!」とアックスナイトの小声で、その場の空気が一瞬にして静まり返る。
「来たみたいだな」
「ですね」
元艦長の言葉に、元水兵は頷いた。
あの扉の向こうに―――――自分がずっと憧れていた人がいる。
また会える。
ちょっぴり緊張しているけれども、たまらなく嬉しかった。
ワドルディは帽子を被りなおして、一歩だけ足を前に出した。
メタナイト様が扉を開けたら―――――言おう。
今なら言える。
ハルバードはどこにもないけれど。
ボクたちの希望は、ちゃんと残されているから。
ボクらの王様が、帰還したのだから。
〝おかえりなさいメタナイト様。ボク達皆生きてます。皆あなたに―――――最後まで尽くしましたよ〟
さぁ、泣いて笑って懇親会を始めよう!