ユメのようなユメのお話

 

※ギャラ+マルクな感じかもしれません

 

―――――

 

 遠くで、近くで、誰かが誰かと遊んでいる。
 楽しげな笑い声、はしゃぎ声がこだまするように聞こえてくる。
 何をしているのだろうか。とても楽しそうだなぁ。元気だなぁ。ぼんやりとそんなことを思う。遠いけれど近くて、近くても遠い光景は透明で分厚い壁に阻まれているようで、手に届きそうにない。
 
〝気持ち悪い羽だなぁ。近寄らないで〟

〝一緒に遊びたくなんかないよ〟

 頭の中で嫌な声が反響して、溜息をついてしまう。
 同時に心が締め付けられるようで、涙が出そうになってしまう。
 いろんな人に「遊ぼう」って言って、「ボクも混ぜて」ってお願いしたけれど、ボクは輪に入れてもらえない。
 それはボクが気味悪い姿をしてるから。皆ボクを怖がって嫌がって、一緒に居たがらない。
 確かにこの羽はごつごつしてて不気味だけど、生まれ持っているモノなのだから仕方がないじゃないか。
 あんな目を向けてくることないのに。どうしてわかってくれないんだろう。
 泣いちゃ駄目だよ。ボクは男の子なんだから。
 だけど瞳が焼けるように熱くなって、涙が頬を伝ってくる。情けないなぁ。情けないなぁ。
 こんな気持ちになるくらいなら、いつまでも独りでいよう。独りでいたい。
 馬鹿にされるのも笑われるのも、冷たい目を向けられるのも、もう嫌だ。そのたびに悲しい思いをして、自分だけ傷つく。
 受け入れられないのなら、無理して傷つく必要なんてないんだ。
 誰とも居たくない。痛いのは嫌だから。
 誰とも居ない。辛いのはあんまりだから。
 だけど、だけど、何よりもボクは。
 ボクが〝ボク〟なのが、一番嫌でたまらない。
 
「こんにちは」

 不意に聞こえてきた声に、ボクは伏せていた顔を上げる。
 するとそこには大きくて真っ白な翼を持った人がいた。
 顔は仮面で隠されているから窺えなかったけど、目部分から見える瞳は優しい色を湛えている。
 舞い散る羽根は夢のようで、一瞬だけ寂しいことを忘れた。
 
 まるで天使みたい!って普通の子ははしゃぐんだろうけれど、ボクは声が出せなくて何にも言えなかったんだ。

 

 ◆

 

 

「マルク!遊ぼう~!」

 きっとだいぶ前のボクだったら、この言葉に動揺してドキドキしながらも、きっと喜んで遊びに行けたんだろうなぁ。
 マルクはそんなことを他人事のように思った。
 にこにこ笑顔でいる目の前のカービィに、別段申し訳なさを感じることも無かった。
 むしろその顔が眩しすぎて目が潰れてしまいそうなくらいなので、マルクはふいっとそっぽ向いてしまう。

「……遊ばない」

「え~遊ぼうよ。ボールで遊ぼうよ!」

 少しも懲りていないのか相変わらずにっこりしているカービィは、手にしているボールをマルクに見せる。
 瞬間、マルクはカービィからひったくるようにボールを奪い取り、思い切り蹴とばした。
 
「あう」

 スピードのあるボールは正面に突進し、当然前にいたカービィに直撃する。
 吹っ飛ばされたカービィはそのまま後方にこてんと落下し、きょとんとしながら額をさすった。
 ざまあみろバーカ!―――――と、そんなことは吐き捨てない。マルクは興味無さそうに踵を返してその場から去った。

「ないすしゅーと?」
 
 たちまち見えなくなるマルクの後ろ姿を見つめながら、カービィは特に憤ることも悔しがることも無く、離れた場所まで転がったボールを取りに行く。

「カービィ大丈夫?」

 ボールをぶつけられたことを心配してきたのか、カービィの友達であるバンダナワドルディが駆け寄ってくる。

「全然平気!へっちゃらへっちゃら」

「あの子……マルクさん今日も遊べなかったの?」 

「……かも?」

 あまり物事を深く考えていないのか、カービィはにへらと笑った。
 脱力してしまう笑顔に、バンダナワドルディはやれやれと言いたげに「カービィったら」と苦笑した。

「マルクと遊びたいけど、マルクはぼくと遊びたくないみたい」

 自嘲気味の欠片も無く、カービィは笑ったまま続ける。
 
「だけど、前なら何も言わないでただ走っていっちゃうだけだったんだよ。今日はぼくに返事してくれたんだ」

 たったそれだけのことをやっと見つけた宝物のように嬉しそうに言うカービィは、調子に乗って手にしていたボールを地面に置き、おもむろにそれに乗った。言うならば玉乗りである。

「だから、よっと……いつかきっと遊べるかなぁって……おっとっと……ぼくはそれが……わわわ、楽しみ―――――わぁ!」

 上手くバランスが保てず、話している最中にボールから転倒したカービィに、バンダナワドルディはひえぇ!と叫びそうになりながらも助け起こす。

「大丈夫カービィ!?喋りながら転んだらした噛むよ!」

「えへへ……玉乗りって難しいね」

 練習しなくちゃ。
 カービィは砂に塗れたボールを丁寧に磨いてあげた。 

 

 ◆
 

 

「おかえりマルク」

「……ただいま」

 人気のない森の更に奥の小さな小屋に帰ってきたマルクは、本を読んでいたギャラクティックナイトに迎えられる。
 部屋は簡素な調度品と大量の本や実験道具が押し込められるようにしまわれており、秘密の研究所を連想させた。

「今日は誰かと遊んできたのかい?」

 優しい口調で訊ねてくるギャラクティックナイトに、マルクは言いづらそうに口を噤み、すたすたと部屋の奥の本の山のふもとで座り込んでしまう。

「……誰とも遊びたくなんかないのサ。本当は外になんか行きたくない」

 適当にその場しのぎに掴んだ本を読み始めるマルクに、ギャラクティックナイトは仮面の向こうで静かに微笑を浮かべた。

「また何かひどいことを言われたのかい?」

「そんなことはない、けど」

 本に集中できないよと言いたげなマルクとは逆に、ギャラクティックナイトは自身の読書の手を止めた。

「何かいいことがあったんだな」

 ギャラクティックナイトの言葉に、マルクはびくんと身を震わせた。
 ばれたくないことがばれてしまった子供のような反応だった。

「いいこと、でもないけどサ……」

「よかったら私に聞かせてくれないかな」

「……ギャラにはつまらないと思うのサ」

「私はマルクが体験した話、見た話を聞きたいんだ。つまらなくない」

 すぐ隣までやってきたギャラクティックナイトに逃げ切れないなと悟り、マルクはぼそぼそと小声で話し始めた。

「外に行くといつも同じやつがいて、ボクを遊びに誘ってくるんだ。ボクが何をしても怒らないし、悪口も言わない。変なやつなんだ―――――今日も一緒に遊ぼうって言ってくれた」

 だけど、とマルクは表情を暗く沈ませてしまう。

「だけどそいつにボールをぶつけちゃったのサ。本当はそんなことするつもりじゃなかったのに……今日こそ、〝いいよ〟って言おうって思ったのに……」

 いいことがあっても、すぐに嫌なことに押しつぶされてしまう。どうしてボクってこんなに不器用なんだろう。 
 今にでも泣き出しそうなマルクの背中を、ギャラクティックナイトはそっと撫でてあげた。

「そうか。マルクはその子と仲良くしたいんだな」

 ゆっくりとマルクは頷く。
 そんなマルクの仕草を見てほっとしたのか、ギャラクティックナイトは穏やかに目を閉じた。

「それじゃあ明日、その子に謝ろう。ボールを当ててごめんなさいって言おう。心から謝れば、きっとその子は許してくれるさ」

「ボク、ちゃんと言えるかな……」

「大丈夫―――――それに、例え上手く言えなかったとしても、マルクはとても後悔しているじゃないか。申し訳なさも感じている。謝りたいと強く思っている。それだけでお前は偉い。立派だ」

 ―――――一番悲しいのは、誰かを傷つけても後悔の念さえ覚えないことだ。お前はそんなことない。優しい子だ。
 
 ギャラクティックナイトに褒められて、マルクは少しだけ安心した様子だった。

「独りでは不安なら、私も一緒に着いて行こうか?」

「ううん、大丈夫。ボクだけで大丈夫……なのサ」 

「そうか。それなら私はここで応援しているよ―――――さぁ、ご飯を食べようか。準備をするから手伝ってくれ」

「うん」

 明日謝ろう。明日こそ、〝いいよ〟って言おう。
 マルクは決心し、決意し、もうちょっと勇気を見せようと思うのだった。

 

 ◆
 

 次の日にマルクがいつもの場所に行くと、いつも通りそこにはカービィがいた。
 しかしいつもとだいぶ様子が違う―――――と言うよりも、やっていることがだいぶ変だった。

「よっとっと……とと……っとととと―――――うわっ!」

 ……何してるんだアイツ。
 遠巻きにマルクが覗き見ている限り、カービィはボールの上に乗ってバランスを取ったり跳んだり跳ねたりしている。
 ふと頭の片隅で遠い過去の記憶が投影のように映し出され、蘇ってくる。 
 どこかの星のどこかの街で見た大道芸は、あんな風に玉の上に乗るショーがあったなぁと。 
 それにしてもカービィの動きはいかにも初心者で、見るに耐えない危うさがあった。
 そのうちに本当に怪我を負ってしまいそうだ。
 それでもめげずにカービィは転んでは立ち上がりボールに乗り、転んでは立ち上がりボールに乗りを飽きもせず繰り返している。
 だんだんとマルクは込み上げてくるものがあり、ついには口に出してしまう。

「へったくそ!」

 自分でも吃驚するくらい大きな声が出て、マルクは慌てて口を塞いだ。
 しかし時はすでに遅く、カービィはこちらに気づいたようだった。

「あっ!マルクだ!」

 おーいと馬鹿みたいに手を振ってくるカービィに、マルクはやってしまったと溜息をつきながら近づいた。

「玉乗りの練習をしてたんだ。楽しいけど難しいねこれ」

 砂で汚れたカービィの笑顔はいつも以上に明るく、マルクは何も言えなくなってしまう。
 ああ、いつもそうだ。いつもこうだ。
 いざ、こいつの前になると口から言葉が出しにくい……。
 マルクは幼いけれども賢く、誰にも負けないくらいの知恵を持っている。
 しかしカービィの前になると小難しい言葉もいかにも利口な発言もできない。
 ……馬鹿なやつって思われてたらどうしよう。
 それは常にマルクの不安要素として付き纏う一つだった。

「マルクはできる?玉乗り」

 逃げ出したい、とマルクは怖気づきそうになる。
 玉乗りくらいなら見よう見まねで出来るはずだけれど―――――本当に大丈夫?
 だけども先ほどのカービィのへたくそぶりには多少の身苦しさを覚えていたので、マルクは無言でカービィからボールを借りた。
 ボールに乗って、歩いたりジャンプしたりをしてみる。こんなこと大したことではないのに、カービィはいちいち歓声を上げる。

「すごいねマルク!どうしてそんなに上手に乗れるの?」

 そんなのボクにもわかんないよ。見よう見まねで適当にやってるんだから。
 だけど、玉乗りなんてガラじゃないのに―――――結構楽しい。 

「ぼくにも教えて!」

 屈託一つない笑顔でお願いしてくるカービィに、マルクはこくりと頷いた。
 その日はカービィに玉乗りのやり方とコツを教え、バイバイするまで―――――マルクが自己嫌悪に陥ることは無かった。
 ただ一つ、やりそびれたことと言えば―――――。

「―――――謝るの、忘れちゃった」

 また明日、会えるだろうか。
 きっと会える気がする。何となくだけれど……。
 夕焼け小焼け。帰ったらギャラクティックナイトに今日のことを報告しようと、マルクは足早に歩いてはスキップを踏んだ。 

  

 ◆

 

 次の日にマルクがいつもの場所に行くと、そこにはカービィだけではなく他の人もいた。

「お前がカービィが言ってた玉乗りが上手いってやつか」

 マルクやカービィよりもずっと大きいその人は目立つ赤色の服を着て、巨大なハンマーを背負っている。威圧感があるせいか、マルクは肌が痺れるような空気の痛さを感じた。
 何か言われるんじゃないかとはらはらしたけれども、意外にもその人はにかっと快活そうな笑顔を見せた。 

「面白そうなやつだな!ここらへんでは見かけないやつだし、どこから来たんだ?名前はええっと確かマルクだっけか?」

「え、えっと……」

「大王様!いきなりたくさん質問したらマルクさんが困っちゃいますよ―――――あ、僕はバンダナワドルディです。カービィさんの友達で、大王様の家来です」

「おっとオレ様の自己紹介を忘れていたな!オレ様はデデデ。この国の王様だ!」

「自称王様だけどね~」

「何だとカービィ!自称じゃなくて事実だぞ!」

 眼前でわいわいぎゃいぎゃいと騒ぐ三人をぽかんとしながら見つめるマルクだったが、刺し延ばされたカービィの手にどきりとする。

「二人ともぼくの友達だよ!一緒に遊ぼうよ!」

 戸惑うマルクだったが、気付けば三人の輪の中に引きこまれていた。
 楽しげに笑いあう彼ら。輪の中にいるマルク。こんなことは初めてだった。

―――――あれ?ボク〝いいよ〟って言ってない……

 しかしいつの間にか、マルクは三人と共に遊んでいる。
 心から愉快だと、幸福だと思えている。いろんなことを話したりしている。
 変だ。不思議だ。
 まるで最初からボクは〝ここ〟にいたみたい。

「カ、カービィ―――――この前はボールを当ててごめん、なのサ」

「全然気にしてないよ!それよりも、また玉乗りしてよ!」

 思った以上にすんなりと出てくる謝罪の言葉。  
 ギャラクティックナイトの言うとおり、カービィはすぐに許してくれた。
 こんなにも、こんなにも流れるように―――――当たり前のように、輪の内にいる。

「マルクはぼく達の友達だよ!」

 これが友達になるって、ことなのかな?

 

 ◆
 

 

「ギャラ!ギャラ!今日もあいつらと遊んだよ!それでね、あいつら思った以上にすっごくお馬鹿さんたちだったからボクが勉強を教えてあげることにしたのサ!そしたらデデデのやつが嫌だ~って逃げるもんだからバンダナと一緒に捕まえようとしてね、でもそうしたらカービィも逃げ出して結局鬼ごっこになっちゃってて。それでそれで―――――」

 帰宅して早々、饒舌になってしまったマルクははっと我に返るように目を見開いて、それから恥ずかしそうに縮こまった。
 そんなマルクを見て、ギャクティックナイトは自分のことのように嬉しそうに笑った。

「楽しいことがたくさんあったんだな。だけどハメを外し過ぎないようにな」

「うん……―――――また明日も遊ぼうねって言われたのサ」

「そうか。よかったな」

 いつからかマルクは無表情やしかめ面でいることよりも、笑顔でいる方が多くなっていた。
 もう何度もカービィ達と遊んでいるせいか、人とコミュニケーションが取れるようになっており、外でも砕けた表情が作れるようになっていた。
 人々と、環境に打ち解けている証拠である。

「ギャラ―――――いつもありがとう」

 もじもじしながらマルクはギャラクティックナイトにお礼を告げた。

「ギャラがいなかったらボクは今もきっと沈んだままだったのサ。ギャラがいてくれたから、毎日楽しく暮らせてる」

「お礼を言われるまでのことじゃない。私はただ、できることをしただけさ」

「それでも、ボクはギャラに救われたのサ」

 花が咲くような満面の笑顔。
 前までは決して見られなかった、マルク本来のあどけなく純粋な表情だった。
 ギャラクティックナイトはマルクの頭を撫でながら問うた。

「もう寂しくはないか?」

 それに対してマルクは、自身を持って頷いた。

「寂しくないのサ。ボクはもう独りぼっちじゃないから。ギャラもいるし、カービィや他の友達もいる。ちっとも寂しくなくて、むしろ騒がしいくらいなのサ」

「そうか。それならばよかった……」

 ギャラクティックナイトの安堵の言葉の裏に、少々の名残惜しさが秘められていることに、マルクは気づいていなかった。

「ねぇギャラ。今度皆にギャラのこと紹介してあげるのサ!ギャラも一緒に遊ぼう!」

 カービィがいて、デデデ大王がいて、バンダナワドルディもいる!他にもたっくさんいる!
 自己嫌悪の象徴ではなくなった翼を広げて語るマルクを見て、ギャラクティックナイトは心からの安らぎを得た。

 ―――――もう、大丈夫なのだと。

「ああ……楽しみにしているよ」

 マルクは微笑んだ。
 ギャラクティックナイトも微笑んだ。
 

 しかし、ギャラクティックナイトがこの先楽園の輪に加わることは無かった。

 

 ◆
 

「ホントウに・コレで・ヨカッタの・ですカ……?>」

「ああ、これで構わない」

 深い意識の底。宇宙のように無限の闇が広がる空間で、ギャラクティックナイトと巨大な大彗星は向かい合っていた。
 大彗星ギャラクティック・ノヴァ。オーバーテクノロジーを持っていた古代の民が作りだした、どんな願いでも一つだけ叶える力を持つという人工の星。
 そんな星を前にしてもギャラクティックナイトはひどく落ち着いた様子で、その翼を羽ばたかせていた。

「アナタの・ネガイは・マルクの・シアワセ……>ホントウに・コレで・アナタは・マンゾクですか?>」

「満足だ。忌み嫌われ、孤独のまま悲しみに押しつぶされていたあの子を少しでも幸福な道を与えられ、私はとても満足している―――――お前に願ってよかった」

 私の願いは叶ったのだと、ギャラクティックナイトは心の中でマルクの姿を今一度思い返した。
 初めて出会った時は誰にも心を開かず、様々な星を共に旅して、ようやくたどり着いた呆れかえるほど平和な星ポップスターで、彼は居場所を見つけた。
 寂しいと泣くあの子を導き、あの子を受け入れてくれる友を与え、心から笑えるようにしてあげたい。
 それがギャラクティックナイトの願いであり、その願いをギャラクティック・ノヴァは叶えたのだ。
 本来ならばノヴァの体内で封印されているギャラクティックナイトの、最初で最後の願いだった。

「サイショに・イッタとおり・ネガイが・カナえば・アナタは・フタタビ・ワタシのナカで・フウインされる・コトでしょう……>」

「問題ない。もとより承知している―――――私は過去に多くの者を虐げ、数多の命を奪ってきた。罪滅ぼしには到底ならないだろうけれど、こんな私でも誰かを救うことができるのだとわかった。例えギャラクティック・ノヴァ。お前の力があの子を救ったのかもしれないが、マルクは私を頼り慕ってくれた……これでいい。あの子が私のように世の中を憎むようにならなければ、何よりだ」

「ソレデハ・トウショの・キヤクどおり・アナタと・カカワりをモッタ・スベテのヒトの・きおくカラ・アナタに・カンレンする・オモイデを・ショウキョ・します……>」

 それは即ち、マルクがギャラクティックナイトの存在を忘れてしまうことを意味する。
 だけどもギャラクティックナイトは抵抗することなく、静かにそれを受け入れた。
 仮面の向こうで、彼はこれ以上に無く晴れやかな表情をしていることだろう。

「ああ―――――さよならだ」

 たくさんの友達を見つけて、居場所を手に入れられた。
 悲しいこと苦しいことはこれから山のように迫ってくるかもしれないけれど、お前はもう独りではない。
 泣きたい時は友達に甘えてもいい。悔しい時は友達に相談してもいい。誰かを頼ることは決して悪いことではない。
 だけどいつの日かお前が誰かに頼られるようになった時、優しく受け入れてあげてくれ。
 お前は私に救われたと言ってくれたたが、この先お前に救われる人が必ずやってくる。
 その時まで、温かい気持ちを忘れないでくれ。
 できることならお前が成長の見届け、これからもずっと共に過ごしていきたいが、それは叶わない夢だ。
 常に前を向けとは言わない。

 私は―――――頑張るお前をいつまでも応援していよう。

 

 

 
 
「3・2・1・GO!!>」

 

 

 

 ◆

 


「……あれ?」

 いつもの場所で遊んでいたマルクは急に違和感を覚え、反射的に空を見上げていた。
 悠久な大空は抜けるように青く。どこまでも終わり無く続いているかのようだった。

「どうしたのマルク?」

 マルクを気にかけて声をかけてきたカービィだったが、マルクは「ううん、何でもないのサ」と、空を食い入るように見つめた。
 
 何か大切なことを忘れているような気がする―――――。
 カービィにはちゃんと謝れたし、悪戯はたくさんしたけれど皆で笑い飛ばせた―――――。
 何か忘れてしまっているような気がする―――――。
 
 ずっと昔からこの星にいたような気もするし、そうじゃないような気もする。
 隣に誰かがいてくれたような予感がする。だけど幻影のように気のせいかもしれない。

「おいマルク~!ぼーっとしてないで遊ぼうぜ!」

 遠くから仲間たちの声がかかる。

「ぼーっとなんてしてないのサ!失礼しちゃうのサ―――――今行くよ!」

 皮靴で足音を鳴らして、マルクは大地を駆けて行く。
 青色の空に隠されて見えない星々に、いつまでも見守られながら。


 いつまでも、いつまでも―――――。

 

 

 

 

 

 

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