ローアに乗ったマホロアがデデデ城に突っ込んで帰還してきた話
※星カビwii後日談 帰れは禁句です
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―――――そうだね!ボク達はずぅっと友達ダヨォ!
もちろん真っ赤な嘘だケド!―――――
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その時起こったとんでもない出来事を客観的に一言で言い表すなら、城下町からたまたま目撃した住民の〝青と白の彗星が墜落してきたのかと思った〟という発言が一番妥当だろう。
その日は実に快晴で、雲一つない澄んだ青空が広がっていた。ぽかぽかと穏やかな陽気の昼下がり。いつものプププランドらしいのどかで平穏な一日の一場面を破壊する勢いで、事件は突如発生した。
昼食を済ませたプププランドの人々が、さてとこれから気持ちよくお昼寝でもしようかと思い立つような時間帯に起きてしまった前代未聞の事件である。
事件の内容を簡潔に述べると、プププランドの小高い丘の上に建つデデデ城に―――――一隻の船が墜落し、突っ込んできた。
それもかなり高スピードで突っ込んできたので、幾ら頑丈な造りをしているからと言って耐えられるようなものではなく、城は積み木のお城が崩れるように半壊した。半壊で済んだこと自体が奇跡である。
デデデ城を突き破りかけた謎の船は、残骸に突き刺さるような形で何とか動きを止めたが、被害はかなり甚大であった。半壊だって結構なものだ。城のように馬鹿でかい大きさの建物を元通りの形に修理するのは相当な手間と費用がかかるに違いない。間違いない。
プププランドの昼下がり。のどかだったはずの昼下がりに襲来した青と白の船。綿雲の浮かぶ蒼穹を連想させる美しさを持った船。高度な技術で造船されたであろう宇宙船。何故そんなものがここに落っこちてきたのだろうか。
煙を上げるデデデ城と船を、仰天しながら見つめる街の人達は、驚愕と困惑と動揺で慌てふためいていた。何もわかっていない人達もあたふたあたふた。それもそのはず大地に大穴を穿つような轟音がお昼寝をしようと微睡んでいた人の鼓膜を激しく揺さぶり、おまけに地震にも似た大揺れが数秒生じたのだから。 そして城を見てみれば船がぶっ刺さっている。こんな珍光景ならぬ驚きの光景を見た日にはどんなに天気が良好だろうが気温が高いだろうが何だろうが、突然雪が降り出してもおかしくない。
そんな混乱の渦の中で、ふと幼い子供があっと声を上げる。
小さな指で船を指して、どこか懐かしそうに、嬉しそうに眼を輝かせて
「空の船が帰ってきた!」
そう言って、天真爛漫にはしゃいだ。
―――――ある晴れた昼下がり、ローアに乗ったマホロアがデデデ城に突っ込んで帰還してきた。―――――
☆
「ウウウ……痛い……」
がらがらと崩壊した煉瓦壁の破片を除けて払って、マホロアは咳き込みながら自力でその場から這い出た。
ローアのメインゲートから飛び出てしまった体には幾つかの擦り傷が刻まれてしまったが、動けなくなるほどの怪我は幸い負っていなかった。
危うく壊れた壁の下敷きになるところだったが、間一髪のところで最悪の事態からは免れることができた模様であった。
「ローア。大丈夫?」
少々ボディが汚れてしまったローアに、心配そうにマホロアは尋ねる。ローアからの返事はもちろんないが、マホロアは「ゴメンネェ。ボクを迎えに来てくれたのはキミなノニ」と申し訳なさそうに邪魔なガラクタを片付けた。
「まさかブレーキが上手くきかないナンテ……ボクの腕、随分なまっちゃったナァ」
砂埃のせいで薄暗かった視界がだんだんと晴れてくる。大穴の開いた城では、内部からも大空が綺麗に窺えた。ダイレクトに射し込んでくる陽光がマホロアには少々眩しくて、思わず瞬きを繰り返してしまう。
自然の光のよって照らされる室内。嫌でも眼にすることになる―――――惨状。
「どうしヨウ……コレ……」
眼前で待ち受ける絶望的な現状に、マホロアは茫然とする他なかった。
運良くどこかの小部屋ではなくスペースのある広間に突っ込んだローアであったが、それでも凄まじい惨事なのは変わりない。
底が抜けたり壁が消失していたり。調度品は全壊。室内の装飾も完全に破損。そもそも広間の原型を残していない。更には向こう側の廊下にまで深い穴が開いており、即席突貫工事で何とかなるような壊れ方を全くと言っていいほどしていなかった。これはひどい。本当にひどい。何ということをしてくれたのでしょう。
「これじゃあまるで悪者ダ。またこの星に反抗してきたヤツって勘違いされちゃいそうダヨ……」
マホロアはがっくりと項垂れて、「ローア。ゴメンネ……」とか細い声で謝罪をした。
「キミは、皆と仲良くしてほしかったんだヨネ……これじゃあ初めから大失敗……」
途方に暮れるマホロアに―――――声をかけるものがやってきた。
「―――――マホロア?」
その声には聞き覚えがあった。
忘れるはずのない、あの声。
顔を上げるとそこには―――――いた。
マホロアを真っ直ぐな眼で見つめてくる、カービィが。
手にはフォークが握られたままである。食事中だったのだろうか。
「ア……」
マホロアは眼を見開いて、黄色の瞳でカービィの姿を目に映した。
間違いない。彼だ。
マホロアが裏切った―――――友達だ。
「おいおい何だってんだよこれは!?オレ様の城がいろいろとまずいぞ!」
「大王様!あそこに何かでっかいのがありますよ!」
「あれがここに突っ込んできたのか!?隕石かなんかか?それにしては変な形してるような……」
「……船?」
続々と聞こえてくる声。
元、仲間たちの声。
広間だった部屋に入ってきた三人は、その先で見たものに絶句してしまう。
そこにはいたのだから。
消えてしまったはずのマホロアが、裏切り者のマホロアが―――――残骸の山の上にちょこんといたのだから。
「大王……バンダナ……メタナイト……」
デデデ大王に、バンダナワドルディに、メタナイト。懐かしい面々。過去を思い出すメンツ。自分の罪を改めて再認識してしまうメンバー。
ここにあの時の仲間たちが勢ぞろいしてしまう。
廃屋になりかけの場所で、全員が全員集合してしまう。
「ア、アノネ!ボクは別にまた悪いことにしきたんじゃナイヨ!タダ、ね……久しぶりにローアを操縦したから感覚がつかめなクテ……ブ、ブレーキとアクセルを間違えて踏んじゃうっていうのあるデショ?チョット失敗しちゃって……上手く制御できなクテ……。だからね!ボクは悪いコトなんかしにきてなイヨ!お、お城をこんな風にしちゃってゴメンネ……。で!デモ!もう昔みたいな悪いコトは絶対しないカラ!ローアに約束したし、誓ウヨ!悪事を働こうなんかしてなイシ、悪巧みなんか一切してなイヨ!ダカラ―――――」
言い訳をするように、弁解をするように、マホロアは必死に言葉を紡いだ。
思いついた本心、本音を言語化して、何とか想いを伝えようと奮闘した。
他者からはそんなマホロアが、全力で何かからもがいているように見苦しく見えたかもしれない。思えたかもしれない。
それでもマホロアは喋り続ける。
かつての虚言の魔術師とはかけ離れた不器用さで、拍子抜けしてしまうほどのみっともなさで、説得するように―――――カービィ達と向き合っていた。
「ダカラ……ッ」
ぎゅっと決意を露わに、マホロアは両の拳を握りこんだ。真っ白な手袋は薄汚れてしまっている。
もう孤高の存在ではない。宇宙の王ではない。
そこにいたのは―――――ただのちっぽけな存在だった。
だから、もう一度。
「もう一度、ボクはキミ達と一緒にいてもいいカナァ……?」
その言葉に対しての返答は、なかった。
苦しげな表情のマホロアを裏腹に、カービィ達の表情は無だった。無表情。イエスともノーとも語らない、曖昧でいて残酷な顔をしていた。
そんな彼らの顔を見てマホロアは、力無く笑ってみせた。
「ハハハ……そうダヨネ……。裏切り者とはモウ一緒にいたくないモンネ……わかってる。わかってるよ……。ボクは我儘で、強欲で、傲慢だったんダヨ。許してもらえるワケ、ないもんネェ……。デモネ、最後に……謝りたかったンダ。たくさんひどいコトをして、たくさん悪いコトをしたボクの、最後の懺悔ダヨ。コンナ償い、馬鹿みたいだケドネ……」
マホロアは顔を歪めて、今にも泣きだしてしまいそうな悲しい顔のまま―――――頭を下げた。
ガラクタの山の上で王冠を失った愚かな王様は、震えながら言葉を発するのだった。
「ゴメンナサイ」
どのくらい時間が経過したのかはわからなかった。
ほんの一瞬のことだったかもしれないし、何時間も場の空気は凍り付いたままだったかもしれない。
いずれにしても静寂は予想外の形で解かれた。
―――――マホロアの側頭部に奔った衝撃によって。
「―――――え?」
殴られた。そう察するまでしばしの時間を有した。
大したことのない痛みではあったものの、マホロアの体は頂上から外れてあっという間にヒビ割れた床上まで転がり落ちてしまう。
いきなりの横移動および上下移動に目を白黒させるマホロアの視界の端には、バンダナワドルディがいた。
バンダナがマホロアを殴ったのだろう。小さな手が僅かに震えていた。
次に奔った衝撃は先ほどよりも重く、鋭かった。
「痛ッ」
額に手刀で突きをいれられた。
それによってマホロアの脳がぐらんぐらんと揺れて、眼を回してしまう。
手刀の持ち主は、メタナイトだった。
汚れ一つない白い手袋に包まれた手によって叩きこまれた一撃は、なかなかの威力を持っていた。
「ちょ、ちょっと待っ」
間髪をいれずに新たな衝撃が今度は頭頂部で奔った。
今までの攻撃の中で一番痛く、重量感のあるゲンコツだった。
その一発をいれたのはデデデ大王だった。
普段から鍛えている大王の拳は、眼から星が飛び散りそうなレベルで痛かった。
「ウウッ」
三か所からそれぞれの痛みを感じる。
何がなんだかわかっていないマホロアは狼狽することしかできなかった。
くらくらする頭ではまともな思考さえできない。
そんな彼の目の前に最後に出てきたのは―――――カービィだった。
「カー、ビィ?」
「……」
ぺちん。
と、カービィがマホロアの頬を打った。
だけどもその平手打ちは、全然痛くなかった。
「……?」
驚くマホロアに、カービィは言う。
「はい。これでおしまい。皆もういいでしょ?」
その言葉に反応した三人は、晴れやかな笑みを浮かべた。
「もちろん!というか僕はマホロアさんを殴りたくなんかありませんでしたよ!でも、謝りませんからねっ」
「ふっ。このくらいで充分だろう。少なくとも私は、充分だった」
「思いっきし痛いのを一発かましてやったからな!もう未練はねーよ!」
「え、エ?ミンナ……?」
一同の言葉の意味が理解できず、マホロアは右往左往するばかりであった。
そんなマホロアを正面から見つめながら、カービィはにかっと元気いっぱいに破顔した。
「そりゃあぼく達だって怒るよ!協力してたはずなのに裏切られたりしたんだから」
「ウッ」
まさにその通り過ぎてマホロアは思わず呻いてしまう。返す言葉が無かった。
「でも、今ので全部チャラ!」
「エ?」
「それに誰が許さないだなんて言ったの?ぼく達そんなこと言った覚えないんだけどなぁ」
「エ……それって、ジャア……つまり……ソノ……」
すっと、カービィがマホロアに手を差し伸べてくる。
他の三人も、皆。全員がマホロアに手を伸ばした。
この手を全部掴んで―――――戻ってこいと言わんばかりに。
「おかえり!マホロア!」
誰が言った、言葉だっただろうか。
四人の内の誰が発した、声だったのだろうか。
咄嗟にはわからなかった。マホロアにはわからなかった。
ただ、わかったことは―――――胸が張り裂けそうなほどの感情が芽生えたこと。
眼から堰を切ったように大粒の涙が溢れ出てきたこと。
叫びだしたいほど切なくて、笑い出したいほど―――――嬉しかった。
だけどもそれは声にならなくて、音にさえならなかった。
それでもマホロアは空を飛ぶように、何のしがらみのない天空でどこまでも飛んでいくように、彼らの元へと飛び込んでいった。
それを祝福するように、ローアは太陽の光を反射させて、ボロボロになった城を幻想的に煌めかせていた。
☆
―――――そうだね。ぼく達はずっと友達だね。
さぁ、これから〝本当〟を始めよう!―――――
★
おまけ
「しかし……どうしてくれんだよ本当にオレ様の城!城ッ!ただでさえ金欠だというのに!お前本当にとんでもないこと仕出かしてくれたなコンチクショウ!」
「ウウウそれに関しては何も否定できなイシ言い訳もできなイヨ……本当にゴメンヨォ」
「というわけでマホロア!この城を元通り……いやそれ以上の立派な形に直すためにも!きっちり耳を揃えて金を払ってもらうぜ!」
「エエエエエ!?そんなぁボクお金なんか持ってないヨ!」
「それはあんまりですよ大王様!せっかくマホロアさんが帰ってきたんですよ?それにわざとじゃないんですし」
「むむむ……だけどこのまま放置ってわけにもいかないしよぉ……吹きさらしの城とか寒すぎるだろ」
「それじゃあマホロアが少しずつコツコツお金を稼いでいけばいいんじゃないの?ほら例えば機械を直したり、何かを発明したり……もちろんぼく達も協力するから!」
「結局オレ達も巻き込まれるんか!」
「悪くないな。むしろマホロアの技術でこの星を発展させる良い機会かもしれないな―――――また変なマネをしようものなら容赦しないがな」
「ウウッ!メタナイトが怖い……」
「でも良い案だと思いますよ!どうです?マホロアさん」
「そうダネェ。マッ!確かにこんな田舎臭い星の為にボクの力が役に立って、しかもちゃんと弁償もできるのなら一石二鳥ダネェ!」
「……田舎臭い、だとぉ……?」
「あ!ア!?嘘だよ!嘘嘘!ゴメンジョーク!ジョークだってば!ヤ、ヤメテ大王!ハンマー構えないでええええええェェェェ!!!」