仲良くなりたいお話

 


※スマブラXの亜空の使者の妄想捏造が含まれています

  パックマン×ゲムヲですが、CP要素は薄いです

   キャラの口調や設定も妄想捏造が入っている可能性が

 

 

―――――

 


「アマリ、ワタシニ近ヅカナイホウガ、イイデスヨ」
 Mr.ゲーム&ウォッチはそう言って、一度も振り返らずに立ち去った。
 独り取り残されたパックマンは半分は茫然、半分は不思議に思いながら、たちまち視界から消えてしまう平面な後姿を見送ることしかできなかった。
 ただ、普通に話しかけようと近づいただけなのに、遠ざかってしまった。
 陽気が取柄なパックマンも、さすがに少々沈んでしまう出来事だった。

 

 ◆

 

「もしかしてボク、嫌われてるのかな?」
「ハァ」
 深刻そうな表情のパックマンとは対極的に、表情の無いロボットは実に興味が無さそうな態度を取る。
 むしろ、また厄介な話を持ってきたのではないかと、辟易に近い様子だ。
「他世界キャラだからかな?それともボクの参戦ムービーでゲム君も一緒に登場したけど、ゲム君だけ結局参戦が最後のほうまで決まらなかったことを根に持ってるのかな?これってもしかしてあれかな、出しゃばるなってやつ?そうなのかなロボット君。黙ってないで何とか言ってくれよ~」
 饒舌で早口なパックマンに詰め寄られ、挙句の果てには掴まれそうになり、ロボットは迷惑甚だしいと、パックマンを軽く叩いた。
「イヤ、パックマン。黙るのはお前のほうダ。お前の口がよく回るから、ワタシが喋れないだけダ」
 人の会話に割り込むのは無礼極まりないと思っているロボットは、少しむっとした機械音声を発した。
 叩かれた衝撃で夢中のお喋りから意識が逸れたのか、パックマンは目をぱちくりさせる。そして、空気を換えるように咳払いを一つした。
「あ、それは失敬。それじゃあボクは黙るから喋って」
「……」
 単純なのか、それとも度の過ぎた馬鹿なのか―――――ロボットは不必要なことを思考しかけ、すぐさまいらない情報を脳のゴミ箱に捨てた。
 当のパックマンはすでに話を聞く体制にスイッチが切り替わっており、先ほどまでの喧しさが嘘のように静まっている。幸い、パックマンはとことん人の話に耳を傾けないタイプではなく、人の話を聞くときはちゃんと聞くタイプのようだ。
「別にそこまで黙れとは言ってないゾ……心配しなくても、ウォッチはその程度でお前を毛嫌いする輩ではなイ。たダ―――――」
「ただ?」
 完全に黙することは放棄したのか、相槌を打ちながらパックマンは聞き返してくる。
「アイツは初対面の者との距離の取り方がわかっていなくてナ。前にある事件があったことも災いして、余計に人見知りが激しくなっているだけダ。お前の存在自体を否定しているわけではなイ」
「ある事件?」
「お前もマスターハンドから話を聞いているはずだろウ。〝亜空事件〟のことダ」
 もちろんパックマンはその事件に聞き覚えがあった。
 何故なら、スマッシュブラザーズの一員として参戦する際に、マスターハンドから話されていたからだ。
 詳しい詳細こそ知らないものの、だいたいの内容は把握しているつもりでいる。
 ニンテンドーの世界で最大にして最悪の、世界全体の命運を賭けた激しい戦いの勃発。侵略者と反逆者と立ち向かい、争いを鎮静化させたのは当時の第三期スマッシュブラザーズであり、亜空事件をきっかけに様々な世界との交流が積極的に行われるようになった―――――と、パックマンは聞いていた。
 パックマン本人は第四期スマッシュブラザーズから初の参戦なので、事件が発生した当時は全く関わりが無く、戦いに立ちあってさえいない。その為、パックマンからすれば現在の平和なニンテンドーの世界にかつてそんな危機が訪れていたなんて嘘のように感じていた。
「ウォッチはあの事件の中枢に深く関わっていてナ、その時に背負った傷が完全には癒えていなイ」
「傷?怪我してるの?」
 あの真っ黒な体だとどこが怪我してるのかもわからないなぁと、ひそかに思ってしまったのは内緒である。
「あア。それも達の悪い、目に見えない傷ダ」
「心の傷って、こと?」
「ワタシはロボットゆえに精神については客観的な分析でしか語れず、理解もできないガ、そういうことで正しいだろウ」
 パックマンはロボットの話を頭の中で整理して、一つの答えを導き出した。
「つまりゲム君はボクのことが単純に嫌いなんじゃなくて、傷のせいで仲良くしたがらないって解釈でいいんだね」
「そうダ」
「それじゃあ尚更、仲良くなりたいな!」
 ここでロボットが予想していなかったのは、満面の笑顔を浮かべるパックマンだった。
「……どうしてそう思ウ?」
「だって、心の傷は独りで抱え込んじゃったからできるものでしょ。なら、早く癒してあげないと」
 パックマンの考えていることは決して偽善的ではなく、尚且つ悪意を含んだ行動でもない。ロボットはこれまでの交流の間で、パックマンがとても友好的で心優しいことは充分に記憶機関にインプットできていた。
 しかし、それとはまた話が違う。
「お前のその善意の行動が、アイツの傷を余計に悪化させる可能性は零ではなイ。むしろ、確率的に計算すれば傷を広げる結末に転がり落ちるのが目に見えるゾ」
 急にいつも以上に真剣に、警告するように声音を下げたロボットだったが、パックマンは欠けらも動じなかった。
 それどころか心配しなくても大丈夫だよと言いたげに、呑気に破顔したままだ。
「大丈夫大丈夫。だってボクはパックマンだし。元気と前向きが取柄のパックマンだから~」
「理由になっていないゾ…残るのは疑念と、不安だけダ。パックマン、アイツに亜空事件に関しての話題に触れさせるナ」
「どうして?」
「どうしてわからなイ。あの事件の影響でウォッチは重い罪悪感を背負わされているのダ。アイツに必要なのは時間ダ。解決策が無く、改善のしようが無い呪いのような重みは、時の流れでしか解決できなイ。マスターハンドとクレイジーハンドの試みも、効果を成さなかった今、お前にできることは何も無イ」
 再度の忠告だったが、パックマンは一向に引かなかった。
「だけど、いつまでも何もしなかったら、ずっと重いだけだよ。ボクは何だかそういうの嫌だな。放っておけないよ。それに……」
「それニ?」
「同年代の子だし!ほら、仲良くなりたいじゃないか!昔の好?年の功?何かそういうのがあるじゃん。こう、ふわわわ〜んみたいな」
 意味不明な身振り手振りに、ロボットは混乱しそうになる。
「お前の発言は読解が難儀ダ!否、難儀なのではなイ。言うならばややこしイ!」
「そういうことだからレッツゴー!」
 ロボットが話を終える前に、パックマンはスキップを踏み出しそうなテンションで駆け出していた。
「マテ!早まるナ!」
「なんちゃらはほかほかのうちに打てって言うだろー?」
「それを言うなら鉄は熱いうちに打てダ!」
「それだそれー!」
 パックマンがナイス!と指を立てるころには、すでに彼は遥か後方。ロボットは何とか止めようと呼びかけるが、何の効果も発揮されない。もうパックマンの足は誰にも止められないようにさえ思えた。
「お前はアイツの事情を知らないからそんなことが言えるのダ……」
 小さな呟きはロボットにしか聞こえなかった。
 ロボットだけの、一つの思いだった。

 

 ◆


「ゲムく~ん。お~いゲムく~ん」
 パックマンは思い当たる場所を隅から隅まで捜索しては、たびたび遭遇するメンバー達に根掘り葉掘り聞いてまわっていた。
「ウォッチ?今日はまだ見てないな」
「ウォッチならさっき、あっちのほうにいたよ!」
「さっきあっちにいたような……それとも見間違いかな?」
「ついさっきすれ違ったぜ」
 様々な情報を得て、パックマンはあっちにこっちにと走りまわった。
「ゲム君や〜い。お〜いどこにいるの〜?」
 たくさん呼びかけてみるが、返事はない。
 とにかくあちこちを探し、疲れ知らずのパックマンはあるところで急ブレーキをかけた。
 瑞々しい花と、よく手入れされた植木。のどかで静かな庭園だ。
「わわわ、ととと……」
 自分の勢いを殺しきれず、支えきれない体重は前へと倒れ、パックマンは受け身を取れず転んでしまう。
「痛いなぁもう!鼻が折れたらどうするんだいっ」
 鼻の頭をさすりながら起き上がるパックマンだが、花壇の向こう側から聞こえた物音にぴくりとする。
 「誰かいるのかな?」
 覗き見をするつもりではないが、パックマンは花壇に隠れるような位置から顔を覗かせた。
「あっ」
 物音の正体は、パックマンの探し人であるMr.ゲーム&ウォッチその人だった。
 こんな場所で独り何をしているのか気になったパックマンは、そのまま様子見をする。
 ウォッチは庭園に咲く花々を眺めており、その傍らには水の入ったジョウロが置かれている。
(花を育ててるのかな。ガーデニングが趣味なのかな?)
 ウォッチの意外な一面を知り、パックマンは内心でウキウキしてきていた。
 仲良くなりたい相手の好きなことを知る。未知の箱の中身が明かされていくように、一つの謎の答えが見つかる。
 不思議なことに、パックマンは自分のことではないのに、自分が嬉しくなるような気持ちに満たされていた。
(君のこと、もっと知りたいな)
 完全に話しかけるタイミングを逃してしまっていたが、パックマンは上の空で花に水をあげるウォッチを見つめていた。
 しかし天か、もしくは地か、タイミングでらなく良し悪しのつかないきっかけは与えられていた。
 運が良く、もしくは悪く、パックマンの頭上にはリンゴの木があったのだ。
 リンゴは重力に従って木から落ちる。それは実に当たり前のことだが、自然落下するリンゴを偶然目視できる確率は、リンゴに関して何も意識していない日常においてはあまり高いと言えない。
 しかし偶然に偶然は重なるもので、

「あいたぁっ!」

 本当に偶然に、パックマンの頭めがけてリンゴが落下してきたのだ!
 しかもサイズが特大のため、ダメージがかなり大きい。16%くらいだろうか?
「誰デス?」
 ウォッチはびくりと身を震わせて、パックマンが頭を抑える方向に近づく。
「う、ううう痛い……直撃だよ。タンコブできたらどうするんだよみっともない」
「……エート、パックマン、サン?」
「隕石が当たったのかと思ったよ!宝クジは当たらないのにっ」
 直撃したリンゴの痛みに苦しむ(アタる?)パックマンの姿にウォッチは呆気を取られてしまい、何故ここにパックマンがいるのかという疑問が二の次になってしまう。
「大丈夫デスカ?エット、災難デシタネ……」
 同情の気持ちさえ湧いてきて、ウォッチは項垂れるパックマンを慰めた。かなり珍妙な光景である。
「やっぱり星占いだとか朝のニュースの星座占いとかちゃんとチェックしないといけないのかな……犬も歩けば棒に当たるって言うし、危険を予知できればいいのに!備えあれば憂い無し……って」
 そこでようやくパックマンはウォッチが目の前にいることに気づいたのか、丸い目を更に丸くしてしまう。
「ありゃ?もしかしてボクは今、幻覚を見てる?」
「エッ!?頭ヲ打ッタカラデス!?」
「だって目の前にゲム君がいるよ」
「ア……ソレハ幻覚ジャナイデス」
「幻覚の対義語は?」
「ゲ、現実、トカ?」
「じゃあこれは現実なんだね!」
 今更のように驚きを露わにするパックマンに、ウォッチもまた吃驚してしまう。
「どうしてゲム君、ボクに気づいたの?」
「普通気ヅキマスヨ……スゴイ音デシタシ」
「ちゃんと隠れてたのに」
「隠レテタッテ、何シテイルンデスカ貴方ハ」
 パックマンはぴょんと、元気良くジャンプして起き上がる。
「ゲム君を探してたんだよ!」
「探シテタッテ、何カ御用デモ?」
「用事は無いけどね、ちょっと気になったことがあってね」
「気ニナル、コト?」
「ロボットから聞いたよ、君のこと。えーっと、亜空なんちゃらのなんちゃらのこと!」
「!」
 その一言で、たちまちウォッチは緊張してしまう。
「君がボクだったり、新しい参戦者にあまり近づかないほうがいいって言うのは、その件も関係してるの?」
「……ソウダト言エバ?」
「えっとね!ボクは昔の君が何をしたのか詳しいことは全然わかんないけど、そんなこと関係無しに仲良くなりたいんだ。せっかくこうして会えたんだし、いろいろお話しとかしたいからさ」
 パックマンの屈託の無い笑顔に、ウォッチはいたたまれなくなってしまう。
「ソウ。貴方ハ何モ知ラナイカラ、ソンナコトガ、言エルンデス」
「?……何かその言葉、さっきも聞いたような」
 デジャヴを感じるパックマンに構わず、ウォッチは続ける。
「亜空間ノ話ハ知ラナイホウガ、イインデスヨ……」
「知らないといけない、大事な話なんじゃないの?」
「ダッタラ教エテアゲマショウカ。キット貴方モ、嫌ニナルデショウ」
「嫌に、なる?」
 怪訝そうなパックマンに、ウォッチはそっと自身の手を向けた。
 真っ黒なペラペラの手。
 そこからにわかに得体の知れない闇色の粒子が漏れ出し、逆さまの雪のように降り始めた瞬間、パックマンは正直にぎょっとしてしまう。
 無知なパックマンからすれば、ウォッチが分裂しているように見えてしまったのだから。
「コレハ影虫。亜空間ノ元デアリ、亜空ノパワーデシカ生キラレナイ生物ノ成分ソノ物……」
 ウォッチの体から溢れ出る影虫はその名にふさわしく影のようで、地面に音も無く落下すれば、染み込むように消失して行く。
「影虫ハ、私ノ体カラ生ミ出サレル物。利用サレテイタトハ言エ、全テノ元凶ハ、ワタシナノデスヨ」
「……」
 悲しげなゲムヲに、パックマンは黙り込んでいた。
 しかし黙っていたのは言葉がなかったのではなく、恐怖を覚えていたのではなく、衝撃を受けていたからだった。
 それも、目をキラキラ輝かせるほどの衝撃だ。
「かっこいい……!」
「ヘ?」
「かっこいい!かっこいいよゲム君!それってあれでしょ?いろんな物を創造できるやつ!うわあかっこいいなあ!」
「エ、アノ」
「ボクもこうやって幾つかアイテム出せるけど、何でもは作れないから憧れちゃうな!魔法みたい!ミラクル、マジカル!ファンタスティック、アメイジングだね!」
「エーット……」
「こんなすごい力があるならそりゃあ悪い人は利用したくなっちゃうよね。悪い使い方しかしないのは勿体無いと思うけど!」
 いつまでも興奮気味なパックマンに、ウォッチはひどく困惑してしまう。
「パックマン、サン?」
「なぁんだい?」
「貴方ハ、気持チ悪イトハ思ワナインデスカ?」
「何で?」
 きょとんとして聞き返され、ウォッチは言葉に詰まってしまう。
「ソ、ソレハ……」
「全然気持ち悪くなんかないよ。夜の雪みたい!」
「ダケド、コレノセイデ、世界ハ……」
 言い淀むウォッチの両手を、パックマンはぎゅっと握りました。躊躇なく、何てことないように。
 抵抗さえ見せずに。
「だってワザとじゃないんだし、悪意もなかったんでしょ?なら、しょうがないよ。君は悪くないし、悪かったとしても皆と一緒に事件を解決したんでしょ。じゃあ、君は世界の救世主だよ!それにこの力はきっと他の良いことに使えるはずだよ。君にはたっくさんの可能性……みたいなのがあるんだよ!」
 そこまで言って、パックマンは悩み込むように眉をひそめる。
「うーん上手く言えないけど、何ていうかこう……こんな感じで……ええいもう難しく考えるのはやめたっ」
 パックマンはウォッチを見据えて、
「ボクは素敵だと思うよ。君と、君の力が!」
 自信を持って、告げた。
「ナ、ナナナ……」
 戸惑うあまりか呂律が回らないウォッチは、真っ黒で薄くなければきっと顔を赤らめていたことだろう。
「……ソンナコト、初メテ言ワレマシタヨ」
 上手く感情表現ができないのか、ウォッチはもどかしげに呟く。
「貴方、変ナ人デスネ」
「そう?そんなことないと思うけどなぁ」
「変デス。ヘンテコデ、不思議デ……優シイ人カモ、シレマセン」
 くすりと笑うウォッチにぽかんとしながらも、やがてパックマンも笑ってしまった。
「ボクが変なら君も充分ヘンテコだよ。ペラペラだから探しにくいじゃないか!」
「貴方ダッテ真ン丸デ、何デモ食ベテシマイソウ!」
「ゴーストだって食べちゃうからね。面白いなぁ、世界ってこんなに広いんだ!」
 世界はヘンテコで、ヘンテコだらけで素敵だ!
 二人分の笑い声が風に流れて、飛んでいく。


 ◆


「野放しにするべきではなかったカ」
 ロボットは飛行システムを自在に操りながら、走り去ったパックマンの行方を追っていた。
 ロボットはロボットなりにウォッチを心配し、彼がたびたび訪れる庭園へと向かう。
 その先には予想外の光景が待っていた。
「花って美味しそうだよね。ほら、カラフルだからグミとかキャンディみたいで!」
「食ベタラ駄目デスヨ!」
「食べない食べない」
 庭園には親しげに雑談を行うパックマンとウォッチの姿があった。
 上空から見下ろすロボットは純粋に驚いてしまう。
 まさかウォッチとあっという間に仲良くなれるとは。
 ロボットはそのまま驚愕しながらも、どこかほっとした様子で一人頷いた。
「……心配する必要性さえないということカ」

 

 

 友達は、いつの間にか、なっているモノ

 

 

 

 

 

 

 

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