忍者は珍道中?

 

※捏造注意

 

 

―――――

 

 ゲッコウガは忍ものである。
 即ち、忍者だ。
 ゲッコウガは忍者であり、忍術や体術をより巧みに、より俊敏に、より強く鍛え上げ、磨き抜かれた実力を発揮するためにも、日々の修業を欠かさない。
 そんな彼はスマッシュブラザーズの一員として参戦が許され、はるばる遠方のカロス地方から独りやってきた。
 世界中の強者と猛者、様々な人物が集結するスマッシュブラザーズの戦いの舞台に参上したゲッコウガを待っていたのは、見たこともないような戦術。多彩な戦法に戦略……編み出され、繰り出される一つ一つの攻撃はゲッコウガを圧倒し、同時に彼がまだ井の中から出れていないことを思い知らせた。
 ゲッコウガ本人は日頃の精進が己の力として身につき、スマッシュブラザーズのファイターズに負けず劣らずの実力はあると実感はしていたが、結果としてはまだまだゲッコウガは未熟だった。
 しかし、あくまで前向きなゲッコウガは挫けない。へこたれず、めげることもない。
 憧れのスマッシュブラザーズの一員になれたことも後悔していない。
 ゲッコウガに沸いたのは更なる向上心と、探究欲。
 尊敬するファイターと共に戦い、切磋琢磨できる貴重なチャンスを見逃す訳にはいかない。
 そんなわけで、

「シーク殿!先ほどの試合の素早い身のこなし見事でござった。ぜひ拙者にコツを教えてほしい!」
「マリオ殿!真白の手袋から飛び出す火炎玉、あれはどういうカラクリが仕込んであるのか、非常に気になる!」
「ルカリオ殿!波導とはつまり、どのようなものか!」
「拙者!もっと実力をあげたいでござる!」

 ゲッコウガのファイターへの突撃は、勢いを失うことなく今日も明日も続いていく。
 
 ◆
 
 スマッシュブラザーズの大乱闘はマスターハンドとクレイジーハンドがセッティングした特設のフィールドで毎回行われるが、時にはファイターにも休息が必要である。
 バトルフィールドとは一転したのどかな場所にはスマッシュブラザーズ専用の宿館があり、普段は皆ここで生活を共にしている。
 本日のチームバトルが終わり、宿館に一足先に戻ってきたMr.ゲーム&ウォッチことウォッチは、独り廊下を歩いていた。
 その時、
「ウォッチ殿!」
 呼び止められ、ウォッチは平面ながらの動きで後ろを振り返る。
 音も無く、しかし軽やかな身のこなしでこちらに向かってくるのは、先ほどのチーム戦で同じチームだったゲッコウガだ。
 ウォッチが飛び道具を吸収する間に、ゲッコウガが相手に忍び寄って水の刀で斬りかかる。なかなかのコンビネーションで見事二人は勝利を収めている。
 思えば二人で一緒に戦ったのは初めてだが、随分上手く戦えていた。
 ウォッチはそんなことを思い返して、終わり良ければすべて良し、これからも良しと考え、ゲッコウガに話しかけます。
 「ゲッコウガサン。先ホドノ、チームバトルハ……」
 アリガトウゴザイマシタと言いかけたところで、いきなり手を掴まれる。
「エ」
「平面……ウォッチ殿は本当に平面でござるな!」
 予想外の行動にぽかんとするウォッチに、ゲッコウガは至近距離から興味津々に視線を送ってくる。
「マ、マァ、一応平面人間デスカラ」
「ぜひ拙者にもその〝平面術〟を教えてほしい!」
「平面術ゥ?」
 聞き覚えのない新種の単語に、ウォッチは呆気を取られてしまう。
「その術は隠密行動にはこれ以上になく真価を発揮する!ぜひ拙者にご教示願いたい!」
 「エート……コレハ、〝つっこみ〟待チデスカ?」
 しかし忍者には極めて珍しい正直者の鑑であるゲッコウガでも、このような冗談は言わないだろう。
 何よりの証拠に、目の前のゲッコウガの黒真珠のような瞳は純粋にきらきらと輝いている。
「何カ勘違イヲ、サレテイルヨウデスガ、ワタシハ術ナド使ワナクテモ、最初カラ平面デスヨ」
「最初から平面!?つまり生まれつき平面ということでござるか!?」
「エーット……」
 生まれつき平面ってなんじゃいそりゃ。
 困り果てるウォッチ。何と返答すればよいのかわからない。
 その時、
「ゲッコウガ。ウォッチが困っているだろ。急かすのはよせ」
 どこからともなく現れたシークが、助太刀に入ってくれる。
「ア、シークサン」
「シーク殿も平面忍術を学びに?」
「断じて違う。もう少し落ち着いたらどうだ」
 紆余曲折ありながらも、シークの手伝いが幸いしてウォッチは上手くその場を丸めることに成功した。
「申し訳ないウォッチ殿。捲し立ててしまい」
「イエイエ大丈夫デス。ダケド、ゲッコウガサンニ、平面ノ術トカ、必要ナイト思ウノデスガ」
「拙者は忍びの身。影に潜む者でござる。より高度で視覚されにくい術を身につければ、一層忍者としての力を会得するに等しい」
「ハア」
 正直、よくわからない。
「しかし、キミは少々無鉄砲すぎる。仮にも忍者なら、冷静さを保つべきだ」
 シークの指摘はもっともだが、ゲッコウガにはゲッコウガの事情もとい癖がある。
「スマッシュブラザーズの皆と話すと、どうしても緊張と高揚感で気が高まってしまってな……これは直すべきなのだろうが、どうしても興奮が……で、ござる」
 恥ずかしそうに、尚且つ申し訳なさそうなゲッコウガだが、もともとは冷静沈着っぽい性格をしていたりする。事実、試合では絶対にふざけたりせずに、最後まで真面目に戦闘を続けてくる。
 ただしあくまでそれは忍者としてであり、スマッシュブラザーズのメンバーとのプライベートになると、探求心満々の子供のようになってしまうとのこと。
「ウォッチ殿は特に大先輩でござるし、本当なら頭が上がらないと言うべきか何と言うべきか」
 スマッシュブラザーズへの参戦は第二期からだが、一応ウォッチはメンバーの中では一番の先輩だ(ただし本人の行動が先輩と呼ぶには程遠いので割と忘れられがちである)。
「トリアエズ頭ハ、上ゲテクダサイ。ワタシハ上下関係ハ、アマリ気ニシナイデス」
「面目ない」
「ソレデ本当ニ、ドウシタンデス?」
 ゲッコウガは話の流れを変えるためにも、咳払いを一つする。
「拙者は今、影打ちを鍛えるためにも、隠密技術に磨きをかけたい」
「フムフム?」
「スマッシュブラザーズには巧みに改良版隠れ蓑の術を扱う者が多く、拙者驚いた」
「改良版隠レ蓑ノ術……?メタナイトサン、トカ?」
 メタナイトは、一時的に姿を消す効果を持つディメンションマントを使用できる。
「メタナイト殿の外套を使用した術は、まるで手品のようだ。手の内がわからない―――――他にも、ロゼッタ殿やパルテナ殿の緊急回避も、魔法のように姿が消える!」
「あれは本当に魔法と奇跡だ」
 シークの言葉にゲッコウガは露骨に驚愕する。
「何と!拙者は魔術に関しては無知無学ゆえ……どうりで再現ができないわけでござる」
「再現!?サ……再現シヨウトシタンデスネ……」
 何という努力、もしくは執念だ。
「シーク殿の復帰技についても、未だに謎は解けない」
「悪いが、僕自身の技については深く言及できない」
「拙者は相手の技を模造するのではなく、技から種を得て、自身の力の昇華の参考にしたいのだ。あえて手の内を曝け出そうとしているのではない。そこだけは、どうか信じてほしい―――――……様々な技があり、術がある。無性に気になってしまうものもあるのだ」
 ゲッコウガにもゲッコウガなりの理屈があり、信念もあるようだ。
「わかっている」
 シークはそれに対して静かに頷く。
「……平面術は拙者の勘違いだ。誰か他に隠密修行の手合わせをしてくれる者は……」
 真剣に腕を組んで悩むゲッコウガに、ウォッチは一つ提案する。
「ワタシ、良イ知リ合イヲ、知ッテイマスヨ」
「何と!」
「エエ。今ココニハ、イナイデスガ。イツモ多忙ナ方ナノデ、電話デキルカドウカハ、定カジャナイデスガ……」
「ほう、電話か」
「電話番号ハ、確カ、サムスサンガ知ッテイルハズ、デス」
「呼んだ?」
 不意に声が聞こえたと思えば、背後にはスーツを着ていないゼロスーツ状態のサムスが立っていた。彼女も先ほどのウォッチと同じく、乱闘帰りだろう。
「丁度良イトコロニ!」
「何か用事でも?」


「電話番号ヲ教エテホシイノデス。〝スネーク〟サンノ!」

 

 

 ◆

 

 

 スネーク。
 ゲッコウガはその人物の名こそ聞いたことがあったが、実際に対面したことがない。
 第三期スマッシュブラザーズに参戦していたファイターであり、第四期からは都合で離席しているが、相当の腕前を持つ戦士と聞く。
「スネークサンハ、スニーキングノ〝えきすぱーと〟デ、オソラクハ隠密ノ〝ぷろふぇっしょなる〟デス!」
「ほうほう……実に興味深い」
「ワタシモ何度カ、潜入ノ特訓ヲ受ケサセテモライマシタ!スネークサンナラ、キット何カ良イ〝てくにっく〟ヲ伝授シテクレル、コトデショウ!」
 ウォッチの言葉に、ますますゲッコウガの期待が高まる。
 そんな訳で場面は変わり、一同はサムスの部屋に案内されていた。
「すまないが、僕は高度文明の電化製品には疎い。それに関しては君達で何とかしてほしい」
 シークは機械文明が発達していない世界からの参戦者ゆえに、それらの類はさっぱりだと言う。
「いきなり見知らぬ拙者が出てもまずいだろうから、お手数をかけるがウォッチ殿が先に出てはくれないか?」
「了解デス!サムスサン、オ電話オ借リシテモ?」
「構わないが……これは似ているが、電話じゃないぞ」
 ウォッチに手渡されたのは黒々とした小型機械であり、一見するなら一昔前の携帯電話が更に武骨になった物―――――正体は、高性能トランシーバーであった。
「……」
「……」
「……鈍器にもなりそうだな」
 シークの素直な感想はさておき、ずしりと伝わってくる重みにウォッチは唖然とする。同じくしてゲッコウガも。 
 平面世界の住人と、カロス地方のポケモンは、生まれてこの方トランシーバーなどという物体を見たことが無かった。
「……ゲッコウガサン。大変申シ訳ナインデスガ、コノ得体ノ知レナイ通信機ノ使用方法、ワカリマス?」
「生憎、拙者はこのような機器を今まで目視したことがないでござる」
 顔を見合わせて平面人間と蛙のポケモンは、途方に暮れる。
「電話トイウ物ハ、モットコウ……ダイヤルヲ回スヨウナ物、ナノデハ」
「幾らなんでもそれは古すぎる!」
 どうやらウォッチの中では、電話イコール黒電話とインプットされているようだ。時代遅れを通り越して、もはや時代が違う。
「そう言うと思った。発信は私がやる」
 苦笑するサムスだが、親切にも操作を行ってくれる。
「かたじけない。サムス殿」
「ただ、アイツは常に任務に追われているようなやつだからな、そう簡単には繋がらないかもしれない」
 念を押しながら、サムスはトランシーバーを慣れた手つきで操作し、耳元に当てる。
 だいたい十秒ほど経過しただろうか。サムスは無線機の向こう側に向けて喋り出す。
「ああ、もしもし。私だ、サムスだ。久しぶりだな。今、少し時間はあるか?……お前と話したがっているやつがいてだな。……ソニックだったら出ない?安心しろアイツじゃない。四期からの新入りだ。よかったら話を聞いてやってくれ―――――ゲッコウガ。代わるぞ」
「あ、ああ」
 少々緊張しているゲッコウガは、受話器代わりのトランシーバーを慎重に受け取る。
「悪いやつじゃない。何の要件かは知らないが、しばらく二人で話をしてみたらどうだ。」
「感謝する、サムス殿」
 ひとまずゲッコウガは隣の部屋でしばし話すことを決め、その場から離脱した。


 [newpage]

 およそ一時間後、その場にいた誰もが予想しなかった第一声で、ゲッコウガは戻ってきた。
「……話がよくわからなかった」
 開口一番に、それである。
「ハイ?」
「わからない?」
「……スネークのやつ、どんな話をしたんだ?」
 いつの間にか紅茶を片手に他愛の無い雑談をしていた三人は、力の抜けた表情をしているゲッコウガにはてなと目を丸くする。
「何やら専門的な話題で、斬新な発想と行動力がうんぬん……」
「……具体的に話してくれないか」
  シークの促しに、ゲッコウガは精一杯応えようと、詳しい話を始める。
 しかし、ゲッコウガの最初の一言で、話しの大部分が明白になってしまう。

「―――――ダンボールが、どうのこうの言っていた……」

「やはりダンボールか……」
「やっぱりダンボールか……」
「ヤハリ、ダンボールデスカ……」
「な、な、な、何故皆揃いも揃ってその反応なのだ!?」
 呆れと納得の溜め息をつく三人に、ゲッコウガは困惑してしまう。
「奴は屈指のダンボール好きだからな」
「任務の際に常に持ち歩いているとも聞く」
「アピールモ、全部ダンボールデスシ」
 ダンボールを被って大乱闘をしていたスネークのエピソードが次々と上がるたびに、ゲッコウガは混乱してしまう。
「ス、スネーク殿からは、隠密にはダンボールが最適とのことだが……」
「忍者がダンボールを被るというのはさすがにな」
「斬新ト言ウカ、違和感バリバリト言ウカ……」
「他にはどんな話をしたんだ?」
「他には……」
 ゲッコウガは会話の内容を思い返し、口にしていく。

 

―――――『ゲッコウガ?ゲッコウガは、ポケモンなのか?』

―――――「察しの通り、しのびポケモンでござる」

―――――『ほう。やはり裏方にはトレーナーがいるのか?』

―――――「否、拙者は個人参戦だ」

―――――『ふむふむ。えーっとなになにゲッコウガ……ゲッコウガ……』

―――――「な、何をしている?」

―――――『ゲッコウガというポケモンがどんな姿をしているか気になってな。知り合いに借りているポケモン図鑑から探しているんだが……載っていないぞ?』

―――――「もしや全国図鑑かカロス図鑑以外の書物なのでは?」

―――――『おお!確かにこれは旧ホウエン地方の図鑑だった。全国図鑑、全国図鑑はどこだ……』

―――――〈物を物色するような音〉

―――――『あったあった。ゲッコウガ、ゲッコウガ……これか!お前は蛙なのか!』

―――――「ああ」

―――――『しかしでかいな。養殖の食用蛙でもここまではでかくないぞ』

―――――(食用蛙……?)

―――――『それに随分舌が長いな!カメレオンのようだな』

―――――「拙者はカクレオンではない」

―――――『カクレオン?カメレオンとは違うのか?』

―――――「えーっと……」

―――――〈以下略〉

 

「結局、話の大半が脱線して終わった」
「スネークサンラシイト言エバ、ラシイデスネ……」
「しかし、なかなか愉快な方だった。任務先での小話を聞かせてもらった」
「それで、隠密テクニックの昇華のコツとやらは、ゲットできたのか?」
 サムスの質問に、ゲッコウガは悩みながらも頷いた。

「おそらくスネーク殿は先ほどの会話で拙者に幾つか課題を出していたに違いない!よって拙者はしばらく、ダンボールを使ってみるでござる!」
  
 太陽の下で明日へと向かう熱血漢のごとく、雄々しく宣言するゲッコウガに反して、一同の空気は凍りつく。
「イヤソッチ路線ハ駄目デショ!?」
「先ほどの僕の発言を聞いていなかったのか……」
「スネークは絶対何も考えてないぞ……」 
 青ざめる一同に気づいていないのか、ゲッコウガは敬礼する直前の兵隊のように凛々しい目つきになる。
「皆、助かったでござる!このお礼は後日必ず!」
 この時、三人が脳内で思っていたことは面白いぐらい一致しており、これ以上になく揃っていた。

―――――駄目だこいつ話をまるで聞いていない……。

 後に、ダンボールを被って行動しているゲッコウガの姿をあちらこちらで見かけるようになり、スマッシュブラザーズメンバーの誰もが疑問にクエスチョンマークを浮かべたが、ウォッチとシークとサムスはあえて真相を語らなかったという―――――。 

 


「……ゲッコウガ。なんでお前、ダンボールなんだ?」
「むむ!マスターハンド殿!―――――これは修行の一環でござる!」

 


 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

★よくわからないキャラ設定?のようなもの

 

ゲッコウガ…努力家で真面目。普段は冷静だが興奮すると人の話を聞かない傾向がある。日々の鍛錬を重んじている。若干アホの子。スマブラでは一番の後輩。

 

Mr.ゲーム&ウォッチ…常識人のように見えて子供っぽい。優しく礼儀正しい良い子。影虫を自在に扱えるがマスターハンドに規制されてたりする。一応は最年長だが亜空事件の一件以来、過去の記憶を失っている。昔(DX時代)はもっと大人な性格だった。

 

シーク…ゼルダが変身した姿。冷静沈着で凛々しい。普段はあまり姿を現さない。冗談を言わないタイプゆえに完全なツッコミ役。機械に非常に弱い。

 

サムス…皆のまとめ役であり面倒見が良い。仲間を大切にするしっかり者。機械に強い。

 

スネーク…第四期スマブラ(3DS)には任務が忙しくて参戦できなかったが、密かにメンバーと交流している。ソニックとは仲が悪い。

 

 

 

 

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