永遠のライバル

 

※星カビ2のダークマター戦の直前です

 

 

―――――

 

 

 

―――――闇の中は真っ暗で心細くて、寒かった

―――――そんな中に差し込んできた一筋の光だけが、唯一の希望だった

 

 

 

 


―――――――――――――――

――――――――――

―――――

 ……?

 ……なん……だ……?

「―――――デ……―――――」

 ……声?

 何だか聞きなれた声が……聞こえるような……

「デ……―――――き……―――――え…………?」

 というか、何かオレ……今めちゃくちゃ揺れてるような。
 なんか気持ちが悪い……体が重いし。なんか変なもんでも食ったか?
 ん?というかオレ様は今どうなってるんだ……?ここ……は……?

「―――――デ……!デデデ……!」

「……お……―――――お?」

 はっと目を開くと、視界一杯に見慣れたピンク色があった。 
 普段はムカつくほど穏やかでのんびりしてる野郎にしては珍しく不安そうな表情で、オレを見つめていた。
 その眼の色は、春の時期のプププランドの憎たらしい青空によく似ている。

「デデデ!気が付いたの?」

「……カービィ?」 

 いまいちまだ意識がはっきりとしないせいか、頭がまるで回転しない。くそっどうなってんだこりゃあ。
 起き上がろうにも全身が鉛にでもなっちまったみたいに重くて、うまく動かせない。
 それに加えてとんでもない倦怠感。前にプププランド中の食べ物を盗む際に国中を駆けまわった後みたいな疲労感があった。
 体の節々が痛む。戦った記憶なんて……ない、はずだが……。
 ずきりと頭に鋭い痛みが奔った。
 何だ?この痛みは。それに―――――この異様なほどの空虚感は。
 さっきまで……オレは何かに……―――――?
 ……思い出せない。どうなってんだよ本当に。なんか記憶が抜け落ちてる気がする。
 えっと……さっきまでオレ様はどこで何をしていた?そんでもってなんでこんな状況になってんだ?
 ……やばい、わからない。
 くそっ!考えようとすると頭が痛む……。
 とりあえず、ここはどこだ?
 寒い……冬でもないのに。
 外?風が吹いてやがる。 
 ……どうやらオレは城の屋上で倒れているようだ。……妙に城がドス黒い気もするが。しかも何か壊れてるし!チクショー壊したのはどこのどいつだ!こんな体調じゃなかったらボコボコにしてやったのに!
 それは置いておいて……変だ。オレは絶対こんなところで寝たりしない。
 というかなんでここにカービィがいるんだ?入場を許してないはずなのに。
 ……何がどうなっている?何故オレ様はこんなところで寝てたんだ?
 仰向けに倒れているおかげで空が窺える。
 晴れの日が多いプププランドの天候にしては珍しく、今にも嵐がやってきそうなほど暗い。これじゃあ朝なのか昼なのか夜なのかもわからねぇ。
 まるで闇だ。
 ……闇?

「大丈夫!?どこも痛いところはない!?」

 カービィがオレを揺さぶる。やっぱりさっきからオレを揺すってるのはお前だったのか、カービィ。
 ただでさえ草臥れた気分なんだから余計気分悪くなるだろやめろ。
 おまけに耳元で叫ぶからうるせぇし……何をそんなに心配してやがるんだ?
 こいつのこんな顔……見たことねえぞ……?
 
「うるさい……とにかく揺するのやめろ……頭にガンガン響くんだよ……」

「い、痛いところはない?本当に大丈夫?」

「オレ様がこの程度で、へばるわけ……ねぇだろが」

 ああやめろ。
 そんな心配そうな表情。
 見慣れてないからどうすればいいのかわからなくなるだろ。
 お前はもっとのんきな顔してればいいんだよ……。

「よかった……よかったぁ……!」

 カービィが顔をぐちゃりと歪めて、涙を零し始める。
 ぽろぽろと透き通っている、涙。
 おいおいまじかよ……。
 馬鹿でアホでマヌケで、元気が取り柄なこいつが泣くなんて……。
 本当に、何があったんだよ。
 なにが―――――お前をそんな顔にさせるんだ。

「お、おい……」

「よかった……よかった……無事でよかった……!もし……もしあのままダークマターが離れなかったら……デデデがどうなってたか、わからなかったから……ッ!」 

「だーく、またー?」

 だーくまたー。
 だーくまたー。
 だーくまたーだーくまたー。
 だーくまたー。だーくまた-。だーくまたー。

 

 ダークマター。


「ああ……そうか」

 やっとわかった。
 何で忘れていたんだろう。覚えていなかったことに吃驚するくらいだ。
 オレは―――――ずっとダークマターに乗っ取られていたんだ。
 断片的にだが……思い出してきた。
 虹の欠片を隠したり、カービィと戦ったり……だからこんなに疲労がやばいのか。うおっよく見たら傷だらけだし!痛みはそんなにないが……カービィとの戦いのせいだな。
 つまり……カービィはオレを助けるために、ダークマターの憑依から解放するために、オレと戦ったのか。
 やっと疑問が解決した。うむ、どんな謎でも解けるとすっきりするな。
 ……泣きじゃくるこいつの問題は解決しないが。

「うっ……うううっ……デ、デデデが、デデデがもしこのまま目を覚まさなかったらって……思っちゃ、って……でも、よかった……本当に……よかったよぅ……!」

 えぐえぐと嗚咽を上げながら、カービィは涙を流す両目を両手で擦った。
 心の底から安堵している様子だった。
 オレ様はダークマターに乗っ取られていたという事実よりも、正直カービィの泣いている現状に衝撃を受けている。
 こいつは、こんなふうに泣くのか。
 何考えているのかわかりやすいようでわかりにくいこいつは、泣くのか。
 しかもオレのために?
 
 こいつとオレは今まで散々張り合って、喧嘩して、戦ったり……―――――敵対した関係だったはずだ。
 なのに、なんで
 なんでこいつは、オレなんかのために?

「なんで……オレなんかの、ために……」

「何言ってるのさ……!デデデはボクの―――――ライバルでしょ?」

 ライバル。
 その言葉が、妙に胸に沁みた。
 それと同時に、納得した。
 そうか。オレ達は
 オレ達は―――――
 
 そう考えると、なんだか笑えてきた。

「……泣くなよ、カービィ」

 お前って実は、泣き虫だったんじゃねえのか。
 オレ様を越えていくやつが、しくしく泣いててどうする。 
 
「オレ様はこの通り全然平気だ。そもそもお前程度の攻撃や、ダークマター風情の憑依なんて屁でもねえんだよ。オレ様を誰だと思ってやがる……天下無敵のデデデ大王だぞ?それに―――――ライバルの前でみっともなく泣くなんて、情けないにもほどがあるぜ……?」

「!」

 カービィははっとして、それから急いで乱暴に目をごしごし擦る。あ~絶対後で腫れぼったくなるぞ。
 そしてむっとした膨れ面で、オレのことを睨む。
 ……目が赤くなってるから、説得力がまるでない。……プ

「なんで笑うんだよ!せっかく心配してあげたのに!あーっ心配して損した!デデデが今にも干乾びちゃいそうな雰囲気で伸びてるから、ぼく心配してあげたのにさ!」

「なっ……その手の平の返しようはなんだぁ!?」

「あーあーもう知らない!大王なんて知らないよ!あーもう涙も引っ込んだよ!」

「なんだ泣き虫!もっとオレ様を敬えよ!」

「なんだよダークマターにちゃっかり憑依されちゃったくせに!情けないなぁもう!」

「ぐっ!……あ、あれはちょっと油断しただけだ!それよりもちょっと気絶してただけでビービー泣いてるお前こそ情けないぞ!」

「うっ!……そ、それはその~……めっ目薬☆」

「嘘付けピンクボール!」

「うるさいなぁ我儘大王!」

「お前のほうがうるさいぞ!」

「デデデのほうがうるさいよ!」

 しばらく睨み合って―――――笑い合った。 
 やっぱりこいつとはこうでなくちゃあ駄目だ。
 水っぽいのは生憎嫌いなんだ。

 満足するまで笑って、カービィは凛とした面持ちで曇天の空を見上げた。

「それじゃあ―――――ぼくは行かなくちゃ」 

 カービィの視線の先
 そこには長マントを風にはためかせている―――――ダークマター。
 まるでカービィを待っているかの如く、宙で静止してこちらを見下ろしている。
 ちくしょう何て冷たい視線だ……!見てて冷や冷やするぜ。妙な寒気が取れないのは絶対アイツのせいだ。覚えてやがれ。
 それにあの目。こりゃ相当厄介だぞカービィ!
 あんな冷酷な眼光―――――オレは初めて見たぞ?
 手にしているすらりとした長剣。あの剣もダークマターの身の一部みたいに自然だ。
 アイツは強い。憑依されていたからこそ分かる。今ここで見てるだけでもわかる。
 勝てるか……?

 カービィはふっと微笑んで、オレのほうを再び向く。
 余裕綽々とは言えないが、決意に満ち溢れた眩しい顔。
 星の戦士の証とも呼べる、強い意志。 
 なんだ、心配する必要ねえじゃねえか。
 
「行ってくるね。デデデ」

「おう、行ってこい」

 短い会話で充分だ。
 カービィはすぐに床を蹴って、高くジャンプする。
 ダークマターに向かって、一直線で。 
 揺るぎない正義の賜物だ。

「オレのライバルなら―――――勝ってきやがれ」

 拳を突き上げることもできないが、心の中でエールを贈る。感謝しやがれ。
 どうせお前のことだ
 「勝ったらごちそう頂戴ね?」って言うんだろ?

 
 わかってるぜ―――――オレ様の永遠のライバル。  

 

 

 

 

 

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