王様と冠
※キンテレと子分のテレサは仲良しだといいです
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お日様が空高く元気に輝く昼間でもほの暗い森の奥。誰も寄り付かないほど古めかしく不気味なお屋敷が立っています。
見た目はおどろおどろしいけれども大きく立派な屋敷には、百一匹のテレサが毎日夜のように楽しく暮らしています。
百一匹の内一匹はどのテレサよりも強く恐ろしいテレサであり、威張りんぼだけれど寛大な性格の持ち主であり、豪華な冠をかぶったテレサの王様です。
赤い目のテレサの王様はキングテレサと呼ばれ、テレサたちから慕われています。
そんなある日のこと。普通のテレサ百匹の内の三匹が、ひそひそとお話をしていました。
「キングの王冠はとてもキレイだぞ」
「どこで手に入れたんだろう」
「いつも被ってるぞ」
キングテレサは王冠をとても大切にしています。
いつも常に王冠をかぶっています。
彼が王冠を外している姿を見た者はまずいません。
だけど、そんなキングテレサが唯一王冠を外す時があります。
それはキングテレサがお風呂に入っている時です。
どんなお化けでも長らく活動していればお風呂に入って綺麗さっぱりしたくなるものなのです。
「キングの王冠をかぶれば、すごいこと起きる?」
「起きるの?」
「王冠オシャレ。素敵。つけてみたい」
「キングみたいにつよーくなれる?」
「かぶろーぜ!」
「試してみよう!」
好奇心旺盛な三匹のテレサは、興味本位でキングテレサの王冠をかぶってみたくなってしまいました。
だけど、いくら豪快に優しいキングテレサでも、さすがに王冠を貸してはくれないでしょう。
そんなわけで三匹のテレサは、キングテレサがお風呂に入っている時を狙って王冠をこっそり借りることにしました。
「そーっとそーっと」借りるだけです。
「ひっそりひっそり」借りるだけです。
「借りるだけ借りるだけ」盗むわけではありません。
三匹のテレサは見事王冠を〝借りる〟ことに成功しました。
歓声を上げて三匹のテレサは交代交代で王冠をかぶることにしました。
しかし
「重い!」
「でかい!」
「支えられない!」
キングテレサ特注のサイズの王冠です。小さなテレサ達ではかぶることもままなりません。
頭を悩ませる三匹でしたが、お風呂場から聞こえてきた悲鳴のような叫び声に悩み事は全部彼方に吹っ飛んでしまいました。
「オレ様の王冠がねぇええええええええ!!!」
キングテレサの叫び声でした。
それはそれは深刻そうで、キングテレサは必死に大事な王冠を探します。
しかし探せど探せど見つかりません。何故なら王冠は三匹のテレサが持っているのですから。
キングテレサは王様ですけどテレサはテレサです。
王冠を被っていなければただの大きなテレサになってしまいます。
王冠を被ることでキングテレサは王様としての威厳を発揮できるのです。
つまり王冠は王様の象徴。キングテレサにとっては何よりも欠けてはいけない物なのです。
三匹のテレサは紫色に怪しく煌めく王冠を手にしながら、すぐにこれを返さなければならないと思いました。
「やばいやばいやばいやばいやばいやばいどこで落としたんだああぁあああ」
わたわたと慌ただしく王冠を探すキングテレサに、三匹のテレサは王冠を差し出して謝りました。
「ごめんなさいキング。王冠盗んだのオイラ達」
「キングの王冠被ってみたかったの。ごめんなさい」
「申し訳ない気持ちにさせて、ごめんなさい」
しょんぼり謝る三匹に、キングテレサは吃驚しました。
そして王冠をかぶり、キングテレサは少しだけむっとした顔で三匹に聞きました。
「人の物を許可なく勝手にとるのはろくでもないやつがすることだぞっ。反省しろよ―――――まぁすぐ返してくれてよかったけどよ、何でオレ様の王冠を被りたかったんだ?」
すると三匹のテレサは顔を見合わせて言いました。
「キングの王冠をかぶったらキングみたいにつよーくなれると思ったから」
「キングの王冠をかぶったらキングみたいにすっごくなれると思ったから」
「キングの王冠をかぶったらキングみたいにビックになれると思ったから」
その答えにキングテレサは先ほどよりもずっと驚いたようで、しばらく何も言えなくなってしまいます。
「だけどキングの王冠重くてキングみたいになれなかった……」
「だけどキングの王冠でかくてキングみたいになれなかった……」
「だけどキングの王冠支えられなくてキングみたいになれなかった……」
しょんぼりしょんぼり三匹のテレサは俯いてしまいます。
そんな三匹に、キングテレサは一つ咳払いをしてから言いました。
「オレ様の王冠をかぶって皆が皆オレ様になったらよっぽどホラーだろ。それに、ぴったりの冠がなければ作ればいいだろ」
そう言って、キングテレサは数枚の折り紙と鋏を持ってきました。
「キングー折り紙するの?」
「鋏使うの?」
「鋏でボク達ぶっ刺すの?串刺し?テレサ刺し?」
「バカタレ。んなことするかよ」
キングテレサは折り紙を折り、鋏を使い、紙を組み合わせ―――――あっという間に三つの王冠を作りました。
「ほれ。冠だ」
キングテレサがそれを三匹のテレサに渡すと、三匹とも大いに喜びました。
かぶっても重くなくでかくなく支えられます。
「王冠だー!王冠だー!」
「かぶれる!」
「やったやったー!」
はしゃぐ三匹にキングテレサはやれやれと言いたげに尋ねました。
「お前らは冠が欲しかったのか?」
三匹のテレサは声を揃えてにっこり答えました。
「王冠をかぶりたかったんだ!」
「キングは王様だから、被ってる冠は王冠!キングが作った冠だから、これも王冠!」
「あれもこれも王冠!」
とにかく嬉しそうにくるくる宙を踊るテレサを、キングテレサは不思議そうに目を細めて見つめていました。
「王冠をかぶったら王様みたいになれると思ったけど、そうでもないんだー」
「ボク達ボク達のまま」
「だけど王様は王冠脱いでてもぼく達の王様。キングだー!」
「……よくわからないことを言いやがるな」
面倒臭そうに吐き捨てたキングテレサでしたが、実はこの後こっそり照れてしまうのでした。
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お日様が空高く元気に輝く昼間でもほの暗い森の奥。誰も寄り付かないほど古めかしく不気味なお屋敷が立っています。
見た目はおどろおどろしいけれども大きく立派な屋敷には、百一匹のテレサが毎日夜のように楽しく暮らしています。
百一匹の内一匹はどのテレサよりも強く恐ろしいテレサであり、威張りんぼだけれど寛大な性格の持ち主であり、豪華な冠をかぶったテレサの王様です。
赤い目のテレサの王様はキングテレサと呼ばれ、テレサたちから慕われています。
そんな王様は時折悪だくみをしてはたくさんのいたずらをします。
例えば―――――震えながらも屋敷を訪れに来る緑の帽子の男に。
「また今日もオヤ・マー博士に頼まれちゃったよ……もうあそこ行くの嫌なんだけどなぁ……」
気弱なルイージは身をこわばらせて、懐中電灯を握る手に力を込めます。
一歩一歩慎重に進んでいき、お屋敷の中へ入ろうとした途端
「グッドナイト!ルイ~ジィィィイ!!」
「うわぁああああああああああああ!?」
目の前に現れたテレサたちの驚かしに吃驚し、ルイージは盛大な尻もちをついてしまいます。
「ひえぇ!これだからここは嫌なんだ……!―――――あれ?」
ここでルイージは異変に気づきます。
眼前に浮かぶたくさんのテレサたちの頭には―――――それぞれ色とりどりの冠があります。
折り紙で作ったのか手作り感がにじみ出ており、テレサごとに色も形も模様も違います。
星模様に花模様。十字架なのかバツマークなのかわからない模様。無駄に手の凝ったロココな模様。中には汚い字で「ちょとつもうしん」「いちげきひっさつ」「やきにくていしょく」「しめきりまぢか」などと明らかに意味の分かっていない四文字熟語や四文字熟語モドキが書いてあります。
おかげでルイージの恐怖心は薄れ、目を白黒させてしまいます。
「さぁルイージかかってこい!―――――我々全員キングテレサだぞッ!!」
へんてこな王冠をかぶったテレサたちは、とても愉快そうに邪悪に破顔してみせます。
「ちなみに本物はオレ様な……」
響き渡る笑い声の向こう、屋敷の地下では疲労困憊状態のキングテレサが鋏を手にしたままぐったりとしていることに、ルイージはまだまだ気づく気配はありませんでした。
キングテレサの作る冠に屋敷中のテレサが集まってきては、キングテレサは全員分の王冠を作り、お疲れ状態なのです。もちろんルイージはそんなこと全然知りません。
テレサたちは誰もが皆、キングテレサのことが大好きです。
大好きだから、真似っこしたくもなるのです。
この夜だけ、お屋敷のキングテレサは一匹ではなく百一匹になりました。
百一匹の中で一匹の本当の王様は、呆れながらもちょっぴりにやりと笑っています。