蒼空の下、大海の上、海賊船のどこか

 

 

―――――

 

 

 今よりもちょっとだけ時計の針は遡り―――――

 マリオという男が仲間をひきつれて、トロピコアイランドという孤島に旅立ったときのおはなしを少しだけしましょう。
 このあたりの海を暴れまわった大海賊コルテスの財宝の中にスターストーンが眠るという噂を聞きつけ、とある富豪の貿易商の船に乗り、さぁいざ行かん!と張り切って航海を始めた―――――のですが、ようやく目的地に着くというところで謎の渦巻きに襲われ、船はあっという間に沈没してしまいました。
 何とか無事に島に流れ着いた一行は、そこでさまざまな苦難と戦うことになります。
 そして、ついにキャプテン・コルテスと対峙し、見事勝利を収めたのです。
 だけども誰もが予想だにしなかった事態が発生し、島はパニックに包まれてしまいました。
 そこで今まで弱虫だった貿易商の男は勇気を振り絞り、皆の為にコルテスと交渉すべく震える体で走っていきました。もちろんマリオも一緒でしたが。
 紆余曲線はあったけれども交渉成立させ、千年ぶりに復活したブラック・スカル号に一行は乗り込み、敵を打倒すことに成功したのです!
 パワースターもゲットし、一件落着という喜ばしい結果になったのでした。 


―――――それが、前の冒険のおはなしです。

―――――そして今、コルテスたちはどうなったかというと……

―――――それを今から、語ろうと思います。

 

☆ ★ ☆

 

 海は地平線の彼方まで終わり無く、果てしなく続いていた。
 抜けるような蒼天と海の深青が繋がっているような錯覚を覚え、どこまでが空の領域でどこまでが海の領域なのか一瞬迷ってしまうほどである。
 雲一つない大空の下、島一つない大海の上を、とある大型船が悠々と進んでいた。
 全体的に黒い船はおどろおどろしい雰囲気を醸し出しており、相当な年期がはいっているのかかなり古く、余計に近寄りがたい印象を見る者に与えてくれた。
 しかし見る者と言っても、この場にはこの船以外には何もない。
 船―――――伝説の海賊船ブラック・スカル号以外には何も。
 ここは空と海と、大昔に海を暴れまわり誰からも恐れられる存在であった古ぼけた船だけの世界だった。

「あァ~♪なつかしきィいとしきせかいよォ~~♪めぐぅみィをォあたえェ~♪」

 お世辞でも御上手と褒めることのできない歌声が、ブラック・スカル号の甲板から響いてきた。
 旋律がずれて、音程もまるであっておらず、歌詞がはっきりと発音できていなかったら壊れたレコーダー並のひどさで。
 この男は前はよく同じ歌を歌っていたが、その時は別にひどさは感じられなかったが、曲が変わった瞬間にこの始末である。
 女の金切声と男のテノールが最悪な感じでしっちゃかめっちゃかごちゃごちゃに混ざり合ってしまったかのような声音。
 失礼ではあるが、デスボイスといってもあながち間違っていないかもしれない。
 だけれども、聞く人の精神を一分以内に破壊できてしまうほどの歌声をデスボイスと呼ばないで何と呼ぶのであろう。
 しかし歌っている当の本人はご機嫌なようで、きっと自分は超天才な歌手のように歌えると自信満々なのであろう。 
 実際は物凄い音痴であるが……。

「アァ~♪うつくしきィ~~♪」

『やめろバカうるせええぇぇぇ!!』

 やめる気配なく歌い続ける男に向かって、激しい罵声が飛んだ。
 歌を歌っている男よりもずっと低音な声質だった。
 相当やかましかったのかかなりお怒りのご様子である。

「む」

 気持ちよく歌っていたところを急に止められて、男は苛立ちを表情に刻んで振り返った。
 中世の貴族を思わせる豪奢な服装に、くるくるカールした紫色の髪。
 少々ぽっちゃりとした体形をした男―――――貿易商マルコは一旦深呼吸をしてすぐに

「人が気持ちよく歌っているところを妨げるなんてひどいじゃないか」

『黒板を爪でひっかいてる時に出る嫌な音みたいな歌声を大声で披露されたら止めたくなるわっ!オレの耳を殺す気か!』

「コルテス君には耳ないでしょ?」

『あんだよ見えないだけで!なかったら何も聞こえねえし!』

「いやしらないよそんな屁理屈。ていうか……何をそんなに怒っているんだい?そんなに大きな声で騒いだらうるさいじゃないか」

『うるさいのは手前だあぁぁ!』

 コルテスと呼ばれた男は明らかに自然発生ではない風と共に甲板に姿を現した。
 その姿は、この場に居合わせていない人にもはっきりとわかるようにとても簡略し、一言にまとめて簡潔に説明すると―――――この男、骸骨である。
 大きな骸骨が船長服を身に着けていると考えていい。
 アンデット風の骸骨船長……この男こそ、千年前の元荒れくれ者、キャプテン・コルテス張本人である。
 財宝を守るという未練を持っていたため成仏できず、今現在もこの船の船長を務めている。
 

 ちょっと前まではドクロジュエルを失っていたため、うんともすんとも動かなかったブラック・スカル号であるが、マルコの家宝がそれであったため、返却したところ魔力が戻って再び元通りに航海できるようになったのだ。
 そのため、洞窟内に気の遠くなるような長い年月動けなかったコルテスも外に自由にでれる身になり、ゴロツキタウンとトロピコアイランドの定期運航も始めている。
 なかなか働き者である。 

「いや~あまりの美声に感動しちゃったのかい?」

『感動もなにもあまりの超絶音痴声に失神しかけたぞ!』

「それは素晴らしさのあまりで」

『違う、不快のあまりでだ』

 何を言おうマルコは、仕事が休みになるとたびたびこの船に乗り込んでくるのだ。
 コルテス自身は快く思っていないようだが、たぶん。
 
 犬猿の仲とは言わずとも、大親友と言うには程遠い仲である。
 
『手前いいかげん来るのやめろや。手前が来るとピーチクパーチクうるさいんだよ』

 コルテスはぶっきらぼうにそう吐き捨てた。
 一応は客の立場であるマルコに対しての発言としては、礼儀という概念が全く持って含まれていない。
 ちなみに今回の搭乗客はマルコのみである。残念なことに。

「ピーチクパーチク……つまり私の歌声は小鳥のように美しいものであるというのかい?」

『どう考えたらその発想に至るんだよ!手前の脳内は花畑か!?ああそれともオレの文章遣いがおかしかったのか!?』

「失礼なこと言うね~ひどいよコルテス君。盟友に向かってそんなこと言うなんて……」

『オレと手前がいつ盟友になった!エェッ!?』

「え?結構前からそうじゃなかったのかい?」

『勘違いはほどほどにしろ!手前とオレはそういう関係じゃないし!』

「じゃあ何だい」

『……赤の他人とか?』

 三秒ほど思考して、さらっとコルテスは答えた。
 解答を聞いてマルコは青ざめる。
 おもしろいくらいの青ざめ様である。

「そっ……それはあんまりだよコルテス君!何もそこまで私を切り捨てなくても……!」

「マルコの旦那もコルテスの旦那もうるさいでっせ!静かにしてくだせぇ!」

 勢いよく船室の扉を開けて、ボム兵の男が額に怒りマークを作ってこっちにやや早歩きでやってきた。
 ……ドアが開いて壁にぶつかったときに生じた音のほうが騒いでた時の音よりも圧倒的に大きかったとは、ツッコまないで上げよう。
 ブラック・スカル号の水夫であるコンポビーは一人真面目に仕事をしていたらしく、外のやかましさに耐え切れず二人を叱りつけに来たようである。

「やぁコンポビー君!さっきからずっと船内にこもって何してたんだい?」

 ノーてんきなマルコさん。気づかないうちにコンポビー君の怒りのボルテージを上昇させています。
 ああ無意識って恐ろしい。

「何・し・て・た・ん・だ・いじゃないわぁ!!こちとら錨の不調を何時間も休みなしで必死に修繕してるっつーのにぎゃあぎゃあうるさいったらありゃしない!」

 相当頭にきているのか、憤りを抑えもせずにそのまま露わにしている。

『あーそりゃ悪かったなコンポビー。でも悪いのは全部この紫キャベツ野郎だ。罰するのならこいつを罰してくれ』

「なんで紫キャベツ!?ていうか私に罪の全部押しつけるのかい!」

『丁度いい。ここのところ良い餌がないから魚が釣れないんだった』

「え、ちょ、なに?なにその……お前今から餌に慣れみたいな言葉は?」

「これが噂の〝死亡フラグ〟ってやつですかね」

「コンポビ君!?なんかちゃっかり君もノリにノってないかい!?」

『じゃあマルコ。手前今から餌な』

「はい!?」

『安心しろ。ちゃんと大物捕まえてやるから』

「そういう問題じゃないから!ねぇやめないかちょっと!!助けてくれよコンポビ君」

 マルコは若干涙目になってコンポビーに助け手を求める。

「旦那……」

「コンポビ君~……」


「大丈夫。きっとコルテスの旦那のことだ。消化される前に魚ごと釣りあげてくれるはずでっせ」(笑

「ハハハ君に助けを求めようとした私がバカだったよ」(泣

 哀れマルコ。
 そしてそのまま釣り糸に結び付けられ―――――という展開にはもちろんならなかった。
 なったら大問題だ。

『ま、冗談はさておき……』

「冗談なだよね!?やっぱり冗談なんだよねぇ!?」

 ガチで餌にされるか心配なのか、マルコの眼はうるうるである。
 そんなマルコが見るに堪えないのかコンポビーは呆れてしまう。

「マルコの旦那は冗談と本気の領域がわからないんっすか。まに受け過ぎですぜ」

「いやだって君たちの眼がマジだったんだもの!」

 本当の恐ろしかったのか安堵のため息をつく。

『ていうか手前なんぞ餌にしたら余計釣れねえだろ』

「地味に人の神経を逆なでするようなことを言うねぇコルテス君」

 雰囲気がピリピリしたものになってきたので、さすがにやばいと直感したコンポビーは

「バレルの旦那も何とか言ってやってくだせえよ!」

 と、いつも同乗している航海士バレルの名前を呼ぶ―――――が、返事は返ってこない。

「……ん?」

 はてなと首を傾げ〔ボム兵に首はないだろなんてツッコミはここでは不要だぞ☆〕、コンポビーはもう一度声を張り上げようとしたところ、「あっ」と声をもらした。

『おいおい何寝ぼけたこと言ってんだよコンポビ』

「あぁ……忘れてやした……そういえばそうだった……」

「?何を二人で解決してるんだい」

 話に入れないマルコが訝しげな表情をあらわにする。

「……そういえば、今日は船にバレル君はいないな」

 今更ながらマルコはそのことに気が付いた。
 ブラック・スカル号で寝食共に過ごしているといっても過言ではないほどのバレルがいないなんて、非常にまれなことである。
 
「そうなんですぜ。バレルさん今、髭の旦那のところに行ってるんでっせ」

 

☆ ★ ☆

 

 髭の男―――――すなわちマリオは人に惹かれるような心の持ち主であります。
 その心に癒された者、尊敬の意を持った者、友情に芽生える者、愛情に目覚める者も数多くいました。
 バレルもその一人です。
 かつて愛する妻を失い、只ならぬ罪悪感をずっと胸の内に秘め続けるという苦しみに耐えていたバレルの心を開いたのは、マリオでした。
 それはさながら、終わりのない暗闇の空間に閉じこもっていた存在に、暖かな光を与えてくれたかのようでありました。
 光は闇を打ち消し、希望という名の道を切り開いてくれたました。
 だからバレルは再び海に出ることができるようになったのです。
 バレルはマリオにとても感謝しています。
 過酷な戦いも、困難な旅路も乗り越えてこれたのは、マリオと、そして仲間たちのおかげでありました。
 
 ―――――旅の終止符が打たれた今も、時たま旅のメンバーで集まっているのです。 
 
 それは、深い縁と絆で結ばれた彼らだけの楽しみの時間なのです。

 

☆ ★ ☆

 

「ふむふむなるほど」

 コンポビーの詳しい説明を聞いて、納得したのかマルコは相槌にも似た形で首を縦に振った。

「皆勤賞の彼が船に乗ってないなんて、それしか考えられないしね」

「さっきまで事情全然知らなかったくせによく言いますねぇ」

『ていうか皆勤賞ってなんだよ。ここは学校か?』

 ザァ……と緩やかな波がブラック・スカル号の側面を優しく叩く。
 依然として島が見えないが不思議なことに、こうして海に漂っているだけでも充分なことのように思えてしまう。

「そういえば結構いろいろあったねぇ……」

『そうだな』

「ああすべては海上での青い火から始まった……」

 三人はトロピコアイランドでのエピソードを脳裏に思い浮かべた。

「思い出すだけでも恐ろしい……!」

「ブルブルブル」

 スタートから忌まわしい記憶で、コンポビーとマルコは震えあがる。

『んん?そんなに怖かったのかよ手前ら』

 何を言おう、あの青い火を召喚したのは目の前にいるキャプテン・コルテスである。
 つまり、この二人は恐怖の根源と今まで普通に会話を交わせていたのだ。
 もしこの場に第三者がいたら「すごすぎんだろオイ」と仰天されそうである。

『なんか要望に応えたくなったぜ。ホレ』

 ボッと火の灯るような音とともに、人魂のような青炎のモンスターがコルテスの手の上で出現する。
 
「ぎゃああああああああああああぁぁ!!?」

「ヒイィィアアア!?」

 コンポビーとマルコは相当怖いのか、情けない悲鳴を上げてズザザザザと甲板を後ずさる。
 本当に面白いぐらいの後退であり、実写版されたアニメの再現のようだ。
 血の気が引いた顔は、炎に負けず青い。
 大の男のくせに情けないぞ!と叱責はちょっとかわいそうだからやめておこう。

『まさかそこまでビビるとは思わなかったぞ……』

 呆気をとられたコルテスは哀れに思ったのか、すぐに拳を作って火を握り消した。

「コルテス君の悪魔!人でなしィ!いや違う!骸骨なしィ!」

『なんだ骸骨なしって!?そんな言葉ねぇぞ!』

「旦那の鬼!サディスト!●●●●!!」(●は読者の皆様が考えた好きな言葉を当てはめてください

『最後のはなんだぁ!?ブラックアウトされてて聞き取れねえぞコラッ!』

 いかに二人が怖がりであるかということを理解した、コルテス船長であった。

「それにしても……コルテス君。君には償ってもらわなければならないことがある」

『はぁ?』

「あの時トロピコアイランドに行きの時に乗っていた船のこと、覚えてるかい?」

『あぁあの……ドンゴン号とかいうやつ?』

「違ウカラァ!!マルコン号だよ!マ・ル・コ・ン号!!」

 ショックのあまりかマルコの声は若干裏返ってしまう。

『センスの悪い船のことか』

「悪くなんかな~い!」

「そういえばあの船……沈没しましたよねぇ?」

 コンポビーの素朴な疑問に、マルコは「それが聞きたかった!」とビシリとコルテスを指さす。

「そうだよコルテス君!君はあの時沈めた船の弁償をしていないんだよ!」

『あァ?いいじゃねえかよ船の一隻二隻くらい。今までそうやって船沈めてきたんだし』

「よくない!君には私に対しての贖罪が必要だ!」

『オレはどこぞの宗教にも加入していないから関係ない』

「そういう問題じゃなぁあああい!……ゼーゼー……―――――君は一旦逆さ十字に掛けられて反省したほうがいい!もっと隣人愛というものを知るべきだ!」

『隣人愛もなにも、船の上じゃあ隣なんかねえだろ。それに生憎オレは神の存在なんざ信じてねえ。罰する実権を握りてぇのならわかりもしねえ聖書でも読んでろ』

「ぐっ……ばっ!罰当たりだぞコルテス君!」

『違う、正直者だ』
  
「むむむむむ~!」

 何を言っても動じないコルテスに不満を覚えたのか、マルコは顔を今度は青から赤くする。
 そんなマルコをコンポビーは「相変わらずマルコの旦那はわかりやすいですねぇ」と呆れていた。

「まぁ、旦那は金持ちだからいいじゃないですか。それこそ船の一隻二隻くらい」

「いんや!よくない!」

「強情ですなぁ。欲張りって言われまっせ」

『それに、手前は全然フェアでもねえ交渉をオレに押しかけたんだから。それこそフェアだろ』

「あの交渉がフェアじゃなかったというのかい!?」


コルテス・コンポビー「『イエス』」

マルコ「なんでちゃっかりコンポビ君まで混ざってるわけぇ!?」


『ということだ。あれとこれとそれとこれで釣り合いは取れた。弁償の話は白紙だ』

「く……くそォ……!二人ともグルになっちゃってもう……!」

 この状況がもし演劇のシーンであったら、マルコは絶対に今ハンカチを噛んで「キーッ!」と未練たらしく唸っているであろう。

「……でも、ま……いろいろと冒険もあったしよかったじゃないですか」

「それもそうだね」

 早いことに怒りの沸点は一気に急低下したのか、マルコの態度はケロと元に戻っていた。

『あの髭野郎なかなか強かったからな……また戦いたいぜ』

「まだあの時はコルテスの旦那は敵サイドにいやしたからねぇ」

『いきなり自分の縄張りを荒らされちゃあ、普通敵対するだろ』

―――――金銀財宝が山積みとなった船長室で、大剣や長槍を振りかざした荒々しくも禍々しい海賊王コルテスに、恐れることなく対峙したマリオ。

  あの勇姿も今考えれば、相当偉大なことであったのではないか。

『しかし―――――あの髭野郎が欲しがった宝がまさかあのスターストーンとか言うやつだったとは驚きだったな』

「髭の旦那は欲がないですからねぇ」

「私の下で働いてもらいたいくらいだよ」

『ていうかよぉマルコ。手前よくオレのところに行く気になったな』

「へ?」

 コルテスはにやにやした悪笑を浮かべながら、マルコをからかうような口調で

『だって手前、すんげえ弱虫で怖がりじゃねえか。よくぞこのコルテスのもとに来たなぁ。その度胸だけは認めてやってもいいぜ』

 と言った。
 それに対しマルコは少々気恥ずかしそうに

「……なんというか、あの時は考えるよりも先に体が動き出していて……皆のことを守らなくては!って気持ちがせりあがってきたというかなんというか……」

「あの時の旦那はカッコ良かったでっせ」

「本当かい!?たまにはいいこと言うじゃないかコンポビー君!」

「……でもあんまし褒めないほうがよさそうっていうことが今、身に浸みたぜ……」

 マルコさんは残念ながら、褒めると浮かれて無駄に鼻高々になるタイプのようです。

「だけど……楽しかったっていうのは、ありですね」

「そうだねぇ。またいつかあんなふうな冒険がしてみたいものだよ」

『……』

「?どうしたんだいコルテス君」

『なんかよ、懐かしい感覚だったなって思っちまってよ』

「そっか。コルテス君はこういう冒険を昔いっぱいしてだったね」

「まさしく〝ベテラン〟ってやつっすね」

『まぁな!』

「それで……ベテランコルテス君から見たら、あの冒険は楽しかったかい?」

『……なんでオレに話ふるんだよ』

「いいじゃないか別に!」

『―――――た、楽しかったんじゃねえの?』

「何故に疑問形?」

「旦那、照れてやすね」

『は!?ちっ……ちげぇよ!』

「わはは!やはりあの冒険はベテランのコルテス君から見ても素晴らしいことだったんだね!それに、あの冒険がなかったら―――――私は今頃この船になど乗っていなかっただろう」

「そうですねぇ……自分もきっとゴロツキ港で今も適当に仕事してただろし」

『オレに至っては変わらずずっと洞窟の中だったな』

「そう考えると、あの冒険は我々の運命を変えてくれた奇跡だったんじゃないか?」

 マルコは愉快そうにくるくるとその場で回り始めた。
 
『つまり、あの冒険がなかったらオレはうっぜ~手前と会わずに済んだってことだな』

「ひっ!ひどい物言いだな!なんだよ私は君と会えてうれしかったというのに!」

『へっ!?』

「旦那……旦那はどうして恥ずかしいことをストレートに言えるんですかい……」

 コンポビーが見ているこっちが恥ずかしいと言わんばかりに目を逸らす。

「恥ずかしいこと?何が恥ずかしいというんだい?」

『て、めぇの……手前のその存在が恥ずかしいわぁっ!』

「いやちょっとそれは言いすぎなんじゃ……」

「なんだかよくわからないが……じゃあここで景気づけに私が一曲歌ってしんぜよう!」

 すっ、と意味もなく構えるマルコ。

「えっ!?何!?あのデスボイス再来!?」

 やっぱりコンポニーにもデスボイスの歌と思われていたらしい。


『コンポビー手伝え!海に突き落とせ!ヒットエンドラン!だっ!!』

「それ野球だから!意味違うから!なにがしたいんだよあんたら!!ていうか仕事の妨害するなああああああ!!」

 この後、再び地獄の歌唱が行われ〔主犯はマルコ。ていうかマルコのみ。マルコ以外はいない〕、痺れを切らしたコルテスによって本当に海に投げ捨てられそうになったところを「馬鹿じゃねーの!?」と罵声を叫びながら慌ててそれを止めるコンポビーの喧しい姿が、ブラック・スカル号の甲板で展開されたのは言うまでもないことである。


―――――彼らもまた、髭の男に心を動かされ、救われ、運命を変えられた者達であります。

―――――変わらない運命のリングの中でなら、決して出会うことの無かった者達が、こうして今一緒にどんちゃん騒ぎを起こしている。

―――――そう、やはり、あの冒険は奇跡だったのです。

―――――その思いが成就されたから、古き海賊船はこうして悠久な海を旅することができているのであります。


「ふっ……私、歌手デビューいけるんじゃないか!?」

『いっぺん死んでこい』

「前に船で歌ってた時は音痴じゃなかったのに……なんという退化……」

「夢がないねぇ君たちは!」

『「手前(あんた)が無謀すぎるから夢も何もないわぁっ!!」』

 

 


―――――とりあえず、このエピソードはこれでおしまいです。

―――――ではまたいつか、どこかで。

 

 

 

 

 

                                                                     戻る