誰かさんのコレカラ

 

※トリプルデラックスのネタバレを含んでいます

 黒いデデデと鏡の国のカービィが出会ったりするお話です

 

 


―――――

 

 

―――――とてもわかりやすい世界だ 現実と反転するだけの世界なんて―――――


 〝デデデ〟は目を覚ました。
 長い夢を見ていたような気分。嫌な気怠さが全身にあり、出来ることならもう一度眠ってしまいたかった。
 もちろんそんなに呑気でいられる余裕は無く、現に眠気はすぐに忘れ去った。
 そこはひどく現実味のない世界で、だけども夢の中ではないという絶対的な確証の持てる空間であった。
 〝デデデ〟が見たのは天空の綿雲の上に浮かぶ、幾つもの鏡だった。一つとして同等の鏡は無く、それぞれに美しくも鮮やかな装飾が施されていたり、特殊な形状をしていた。まるで鏡の美術館だ。しかもその鏡の一つ一つが様々な〝世界〟を繋げているようで、ここがこの世界の玄関口であるということが一目瞭然だった。
 確かめなくてもわかる。〝デデデ〟はとっくにここを知っているのだから。
 ただ馴染みがないだけで、理解はできているのだ。自分自身が〝そのようなもの〟だから、本能的に把握しきっているのだ。
 意識せぬうちに〝デデデ〟は独り立ち尽くしていたようで、ふわふわな雲の床に長時間立っていたかのような感覚が残っていた。
 反射的に顔に手をやった。
 何の抵抗もなく、素のままの顔がそこにはあった。
 仮面は無い。
 特に気にすることは無かった。

「おかえり~」

 そんな〝デデデ〟に声をかけるものがあった。
 声がした方を向くと、そこには〝デデデ〟がよく知っているやつがこちらを向かって歩いてきていた。
 よく知っていると言ってもそれは相手の〝光〟であり、〝影〟である彼自身のことを知っているわけではない。ただ容姿がまるで同じだから、そう思ってしまうだけである。

「その様子だとコテンパンにやられたみたいだな。まぁ大した怪我もなさそうだし、結果オーライじゃん」

 不敵な笑みを浮かべながら、彼はペロペロキャンディを美味しそうに舐めていた。
 実に馴れ馴れしい態度で彼は〝デデデ〟と向かい合う。

「こっちのぼくには初めてか?」

 いつまでも無表情な〝デデデ〟に代わって、彼は先に自己紹介をした。

「ぼくは〝カービィ〟―――――よろしく」

 シャドーカービィはにこりと笑った。
 
「それでいてキミは〝デデデ〟だよね?デデデ大王の影の」

「……そうみたいだな」

 感情の色が一切窺えない抑揚の無い声で、〝デデデ〟は答えた。 

「曖昧な回答だな。まぁ生まれたばかりならしょうがないか」

「そのようだ」

「……何かキミ、オリジナルと比べたらめちゃくちゃテンション低いな。幾ら光と影は対極的であると言っても、これは意外だったよ」

「―――――お前は外を知っているのか?」

 〝デデデ〟は首だけを動かして―――――ひときわ目立つ巨大な鏡に視線をやった。
 神聖なオーラを放つ大鏡はこの世界―――――鏡の国のシンボル的存在であり、同時に何よりも大切なものであった。
 外の世界と鏡の世界を繋げる唯一の出入り口。もっとも、まず両世界を行き来することはできないが。

「知ってるよ。というかその質問は愚問だよ。ここにいるやつらは皆外を知ってる。外は憧れだし、憎むべき対象だからね。ああ、でも勘違いしないでね。外の世界に行けたやつをぼくはキミを含め二人しか知らないから」

 皆、羨むだけ羨んで、妬むだけ妬んで外の〝自分〟を傍観してるだけさ。
 そこで〝カービィ〟は小さく欠伸をした。

「ま、そんなことし続けても飽きるだけだから、こっちはこっちで好き勝手してるけどね」

「……」

「―――――外の世界はどうだった?」

 〝カービィ〟の問いかけに〝デデデ〟は黙した。

 鏡の世界は外の世界と対極的世界であり、光と闇であり、決して混ざり合うことはできない。
 両世界には自分自身の闇と光が存在し、お互いが死ぬまで巡り会うことなく生活することになる。
 光は自分の明るき部分を引き継ぎ、闇は自分の暗き部分を引き継ぐ。そうして自分と言う紛れもない一つの存在を支え、初めて世界に確立させ繋ぎとめることができる。
 外の世界の存在は自分自身の闇の部分の存在に、大抵は気がつけない。
 逆に闇の部分は光の部分の存在に、生まれた時から気がつける。
 それは負の連鎖を生み、羨望と憎悪と悲愴だけを募らせた。
 
―――――恨むなら、光の存在に成れなかった自分自身を恨むといいさ

 いつの日か、誰かはそう言っていた。

―――――そうすれば誰も傷つけなくて済む、誰も憎まずに済む。自分自身の根本的なモノを変えることなどできないのだから


「―――――羨ましいと思った」

 やっと〝デデデ〟は口を開き、そんなことを洩らした。

「光が、お互いを望みあい。戦う―――――羨ましいと思った」

「そっか」

「お前は欲しいと思わないのか?」

「ん?」

「成り代わりたいと思わないのか?」

「前までは思ってたね。鏡の世界はつまらなくてろくなことがない。外の世界は輝かしくていつも幸せそうで楽しそう――――だけど案外そうじゃなかったんだよね」

 シャドーは笑いながら、ペロペロキャンディを棒ごとぱくりと頬張った。

「鏡の世界は退屈で相変わらずだけど、そこそこ楽しいこともあるし、環境も悪くない。諦めろとは言わないけど、こっちもこっちでそこそこ充実してるよ。怠いっていうのはあるけどな」

「―――――お前は光のカービィとはまるで違うな」

「きみに言われたくないけど、笑っちゃうだろ。キミは光のデデデのトラウマを引き継いでるってのに、ぼくはアイツの負の部分を変な風にしか受け継いでないんだよ。ま、極悪人になるよりは100倍はマシだけどね」

 愉快気に笑い、そしてシャドーはどこからともなくペロペロキャンディをたくさん取り出した。
 タネもシカケもありまセン!そう言いたげな得意げな様子だった。

「本当にキャンディが叩いて増えたら、それはそれで楽しい世界でしょ?」

 新しいキャンディを咥え、取り出したうちの一本は〝デデデ〟へと差し出した。

「うん、まぁそんな感じだからさ。鏡の国の案内してあげるよ」

 悲観ぶる必要も、悲劇的になる必要もない。ここには何一つない。

「こっちに生まれた以上こっちが故郷で、家だよ。変なやつらばっかりだけど、打ち解ければこれ以上に楽しいものはないよ」

 〝デデデ〟はしばし差し出されたペロペロキャンディを見つめ、やがては手を伸ばしてそれを取った。
 それを確認して〝カービィ〟は満足げに、踵を返した。

「よっし!じゃあ行くよ。まずはあっちのステージから―――――ここは迷いやすいから気を付けてね~」

 配慮する気一切なしの足取りで〝カービィ〟はずんずんと歩きはじめる。
 無表情ながらも〝デデデ〟はやれやれと言いたげに溜息をついて―――――そんな彼の後姿を追いかけた。

 

 

 ◆

 

 

「外の世界のヒーローはアイツらけどさ、こっちの世界のヒーローはぼく達だよ」

 

 

 

 

 

 

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