黒平面と仲間達
※すごい昔に書いた話ですがお気にいりです
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ワタシノ名前ハ、Mr.ゲーム&ウォッチ。
平面世界ノ住人デス。
ペラペラデ真ッ黒ナ、周リノ人達トハ全然違ウ姿ヲシテイマス。
〝大乱闘〟トイウモノニ参加シテイマス。
タクサンノ素敵ナ仲間タチニ囲マレテ、毎日ガトッテモハッピーデス。
……ハッピーッテ、ナンカイイデスネ。
響キガトテモ気ニ入ッテイマス、エヘヘ。
聞イテクダサイ、今日トテモイイコトガアッタンデス。
他ノ人カラミタラドウデモイイコトデ、トッテモチッポケナコトカモシレマセンガ、ワタシニトッテハスゴクスゴクスゴォク嬉シカッタンデス。
―――――アノデスネ……
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「どうしたんだウォッチ?」
心配そうにマリオが声をかけてきました。
今日もトレードマークの赤い帽子とオーバーオール、立派な髭が似合っています。
「どうしたの~?お腹が痛いの?」
心配そうにカービィが声をかけてきました。
今日もクリクリとした瞳が、キラキラと輝いています。
「こんなところに座り込んで……具合でも悪いのか?」
心配そうにドンキーが声をかけてきました。
今日もロゴが刻まれた赤色のネクタイが、イカしています。
「大丈夫?元気ないね……」
心配そうにトゥーンが声をかけてきました。
今日も緑色の戦士服が、可愛らしくも勇ましいです。
「どうした?何かあったのか……?」
心配そうにフォックスが声をかけてきました。
今日もパイロット服が、かっこいいです。
「……ア」
スタジアムの控室の隅にうずくまっていたウォッチは、五人に声をかけられて初めて五人の存在に気が付いたのか、はっと顔を上げる。
真っ黒な体色で平面な体躯。
そのため表情も顔色もわかりませんが、長い間親しいメンバーたちは見るだけでウォッチが元気なのかそうでないのか判別することができるようになっていました。
今のウォッチは元気がなさそうで、しょぼんと沈んでいるようでした。
今日の〝大乱闘〟の試合にウォッチは参加していました。
その時からあまり元気がなさそうだったので、メンバーは内心心配していたのです。
「皆サン……」
ウォッチの声は、機械の合成音のような不思議なもの。
機械音じみているけど、その中にちゃんと感情の声音が含まれています。
「どうしたのウォッチ?」
カービィがウォッチの隣にちょこんと座りに行きます。
「……」
ウォッチは気まずそうにだんまりになってしまいました。
「何か嫌なことでもあったのか?もしくは……悩み?」
マリオの言葉に、ウォッチはぴくりと身を震わせました。
「やっぱり……」
悩み事を秘めているということがばれてしまい、ウォッチは恥ずかしそうにモジモジしてさらにうつむいてしまいます。
「……よかったら話してくれないか?楽になるかもしれないし、もしかしたらウォッチの悩んでいることを解決できるかもしれない」
「…………」
マリオの言葉にウォッチはしばし黙しながらも―――――ぽつりぽつりと話し始めます。
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―――――どうしてワタシだけ、薄っぺらで真っ黒なんでしょう?
―――――周りの皆さんはいろいろな色があるけど、ワタシだけ怖いくらい真っ黒
―――――薄っぺらなのはワタシだけ
―――――確かにワタシはゲーム機から出てきた存在ですけど
―――――こうも皆さんと姿かたちが違うと……
―――――それに、黒で薄っぺらだと
―――――暗いときに、自分がどこにいるのかわからなくなっちゃうんです
―――――だから、「本当にワタシはこの世界に存在しているのか?」なんてそんなくだらないことを思っちゃうんです
―――――闇に完全に隠れちゃうなんて
―――――なんだか……お化けみたいで嫌なんです
―――――自分の存在も隠れちゃいそうで……怖いんです
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「ウォッチ~!」
あれから十分ほどしてから、相変わらず座り込んでしょぼついているウォッチは再び声をかけられました。
マリオ達はちょっとだけ何か話し合って、ウォッチの傍から離れてしまっており「ヤッパリコンナコト言ッテモ駄目デスヨネ……」と、より一層落ち込んでいたウォッチは、返事を返す気力はなくちょっとだけ顔をあげます。
そして、声をかけて戻ってきたマリオ達の姿を見てウォッチは仰天しました。
黒い。
ひたすら黒いのです。
彼らは頭から墨でも被ったのか、輪郭と目しかわからないほど真っ黒に染まっていました。
そして快活に笑いながら、ウォッチの前にずんずんと歩み寄ります。
「エ……エッ!?ナナナナナナナンデスカコレハ!皆サンイッタイドウシタンデス!?」
いきなり視界に自分と同じくらい漆黒に染まった一同が現れて、ウォッチは驚きを隠せず動揺します。
もはや桃玉ではなく黒玉になったカービィが「驚いた~?」と楽しげに微笑みました。
「ウォッチ。自分が人と違うから嫌だ~って言ってたでしょ?だからぼくたちもウォッチと一緒になってみました~!」
「さすがに平面にはなれなかったけどね」
ご丁寧に帽子の先まで黒染めのトゥーンは、黒い液体をところどころから垂らしながらはしゃぎます。
「いや~マルスからインク借りれて良かったぜ!あれがなかったらオレんとこジャングルに生えてる臭いやつ使うつもりだったんだけどな!わはは!」
「それはちょっと遠慮しておきたいな……」
ドンキーもフォックスも、ウォッチと同じく真っ黒。
ここにいる全員が―――――真っ黒黒すけです。
「ミ……皆サン……」
なんと言ったらいいのかわからず、ウォッチはおろおろしてしまいます。
「これで俺達とお前は一緒だ!―――――何よりさ、人にはない特徴っていうのは人に自慢できることだと思うぞ?」
「!」
マリオの言葉に、ウォッチはドキッとさせられてしまいました。
「それに―――――たとえぼくたちはウォッチがどんな姿でも、仲間だよ!」
「お前の黒さは闇に紛れる〝黒〟じゃないだろ?お前の〝黒〟は優しくて強い〝黒〟だ」
「気にすんなって!むしろ誇れ!お前はお前らしくいればいいんだよ!」
「皆サン……アリガトウゴザイマス……!」
ウォッチは嬉しさのあまり思わず泣きだしそうになってしまいます。
そこでカービィが手を握り
「行こう!次の大乱闘が始まるよ!」
「モタモタしてると遅刻するぜ!」
「さぁ行こうぜ―――――ウォッチ!」
自分の為に、服まで真っ黒に染めてくれたかと思うと―――――ウォッチは非常に申し訳なく感じました。
だけどそれ以上に、とても幸せに思えました。
「ハイッ!」
胸いっぱいにあふれる幸せを抱きしめながら、黒平面で薄っぺらな、心優しい平面世界の住人は―――――仲間たちと共に駆けていくのです。
―――――そしてこの後、ステージが不運にも暗闇ステージに選択され、真っ黒になった仲間たちがお互いに誰が誰なのかわからなくなって大パニックになってしまったということは、言うまでもありません。
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―――――ダケド、ワタシニトッテハトッテモ嬉シイコトダッタンデスヨ
―――――ワタシハコンナ皆サンノコトガ、大好キデス!