2 いくものとくるもの



 夜は嫌いではない。
 夜になれば、最愛の人が迎えに来てくれるから。
 夜になれば、闇に紛れて容易く人を殺めることができるから。
 否、夜に頼る必要は実のところほとんど無い。例え朝であろうが昼であろうが夕暮れであろうが、視線を向けて、対象にほんの少し力を重ねれば、それだけで大抵の生物は爆ぜる。骨を、内臓を、皮膚を、髪を、完膚無きまでに破壊できる。生物で無くとも無機物有機物関係無く、爆破させられる。
 触れなくとも望めば、拒絶するモノは何もかも崩壊する。
 そのため、彼女からすればこの世の全ては破裂寸前の水風船のように認識されていた。
 あらゆるモノが脆く、あらゆるモノが弱く、あらゆるモノが柔く、あらゆるモノが綻びて、簡単に壊せてしまう。
 彼女は強い。規格外に強い。強すぎるゆえに、誰も彼女を近づけさせない。
 彼女は狂っている。誰も彼女を救えないほど。

〝貴女は化け物ですよ〟

 彼女を〝飼う〟怪物は、彼女を可愛い化け物と表した。
 彼女は化け物だ。
 破壊するだけの化け物だ。
 だけど彼女は幸せだった。
 破壊することで飼い主に愛されるからだ。
 彼女に破壊を強制する飼い主が彼女の世界の全てであり、病的なまでに飼い主からの愛を欲している。
 そんな化け物の幼女は、飼い主が小難しい話から見出した異世界の調査に現在進行形で駆り出されていた。
 あまり派手なことはしてはいけないと言われたが、多少の殺生は許可されている。
 そして昨晩、彼女は異なる世界で初めて、人を殺した。もちろん何の抵抗も同情心も沸かない。路傍の石を蹴飛ばして穴に落とすくらい、どうでもいいことなのだから。
 だからこそ彼女は、感情の薄い彼女はひどく驚いたのだ。
 昨晩殺したはずの男が、待ち伏せしていたのだから。

「よう。ガキ」

 

 不敵な笑みを浮かべたホークに、幼女は目を見開いて驚愕を露わにする。
 時刻は再び深夜。昨日とは別の場所だが、人気の無さは変わらない廃ビルの中で、思わぬ形で二人は再会した。
6階建てのビルの5階。
 鉄骨が露出した寒々しい空間を、隙間風だけが寂しげな音を鳴らす。
 コンクリートの床を滑るように歩を進めるのはホークの靴であり、枝のように細い傷痕だらけの幼女の素足は動かない。
「ここらへんをまだ彷徨いてるかと思ってな。案の定ビンゴだ。こんな辺鄙な場所にゃ誰もこねぇからな」
 ガラスの嵌っていない錆び付いた窓枠だけの窓から、青白い月明かりが差し込む。星砂のようにさらさらとした光は月の粒子を含んでいるかのようだ。
 月光に照らされる二つの影は片方は長く、片方は短い。
「お前がどこの誰だかは知らねぇが、厄介な能力持ちってのは昨晩嫌ってほど思い知らされたからよ。野放しにしとくわけにはいかないって話だ。特にお前みたいな意志の定まってないガキなら尚更な」
 近づいてくるホークから、幼女は目を逸らさない。逸らすことができない。
「……で」
「あん?」
「なんで しんで ない ?」
 その質問に対し、ホークは意地悪気に笑んだ。
「死んださ。死んだとも。油断してたとは言え、まさかガキに一撃で仕留められるとはな。情けない話だ」
「なんで いる」
「いる?生きてるって意味か?生憎、そう簡単に死ねねぇ身体でね、爆ぜたぐらいじゃ棺桶にも入れぇんだよ」
 信じがたい話だが、幼女はすぐに納得したようで、急に食い入るようにホークを覗き見てくる。
 まるで長らく探し求めていたモノを見つけたような、理想に辿りついたような、期待に満ち溢れているような、そんな様子が幼女の気配を変えていく。
「ふじみ ふじみ あなた おまえ ふじみ」
 機械的に反芻するように何度も呟いたかと思えば、気づけば幼女はホークの目と鼻の先にまで跳躍していた。
「!」
 そのあまりの速さにホークは絶句しながらも、素早く横に回避することで対応する。
 幼女はありえないほど離れた地点に着地し、ゆらりと振り返る。
 幼女が放っているとは思えないほど鋭利な殺気を感知し、咄嗟にホークは戦闘態勢を取る。
「おいおいいきなりやるってか。ガキ相手にあまり手荒な真似はしたくないんだがな」
 しかし、相手はただの非力な子供ではない。とてつもない破壊の力を操る戦士だ。それも、躊躇無く人の命を奪える領域の。
 幼女はぶつぶつと小さな声で呟く。
「ふじみ の ちから なぜ ある なぜ ある なぜ ?」
「あ?不死身?」
「ふらんしす と おなじ ふらんしす みたい に しなない」
「フランシス?」
 唐突に知らない人名が上がる。
 それにしても死なない知り合いがいるというのは、衝撃的な話だ。
「お前、本当に何者だ?人間……人間なのか?」
 人間の姿をしているが人間とは似つかわない気配を散らつかせる幼女は、今度の質問ばかりは回答しなかった。
 すでに頭の中は、愛する存在と不死身の体でいっぱいになっていたからだ。
「いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな いいな」
 瞬間、ホークの至近距離にあった鉄柱が弾け飛ぶ。投擲した手榴弾が爆発したような爆ぜ方だが、誰もそんな物は投げていない。
「いいな いいな いいな いいな ……」
 叶わない願いを羨ましがるように、渇望するように、幼女は手当たり次第の物を爆ぜさせていく。
 連なる爆音、壊れていく柱や鉄骨、穴が穿かれる床。老朽化しているもののそれなりに強度のあるフロアは、たちまち幼女に蹂躙されていく。
 その気になれば、ビル一つ倒壊させることも容易に実行できるのかもしれない。ビルだけでは無く、街一つでさえも。
 ぞっとする話だよな。こんななよっちいガキが、殺人鬼みたいななりしてんのは。それも、人間の姿で。
 冷や汗が流れるが、今更引くわけにはいかない。正直、勝てる可能性は五割を下回っていそうだが。
 舞い上がる粉塵の中で、幼女はぎこちなく顔を強張らせる。それが幼女なりの精一杯の感情表現、笑顔なのだとホークが理解するのは後の話になる。
 ゆえに現在のホークからすれば、能面のような無表情から不気味な表情に歪んだ幼女は、いかれているようにしか見えなかった。
「なら ころさないと もっと もっと ころさないと !」
 幼女の瞳にホークが映し出される。暗闇の鏡の奥に、僅かな閃光。
「ガキの分際で、随分と横暴で乱暴なやつだな!ガキだからしかたがないってやつか」
 反射神経と思考力を駆使し、ホークはバックステップで後方に移動し、分解された鉄骨の残骸を蹴飛ばした。
「!」
 幼女がホークを爆ぜさせようと狙った〝爆破領域〟は確かに爆発するが、衝撃波の向こう側からは本来なら飛来してこない鉄の塊が無数跳び出してくる。
 それも、炸裂弾のように勢いを増して破片を散らしながら。
「破裂なら、こっちだって負けてねえんだぜ?」
 物質の〝核破壊〟。幼女が直接対象物に触れずに爆破させられるのならば、ホークは対照的に直接物質に触れなければ破壊することができない。
 しかし、瞬間的な火力に関しては幼女の爆破を上回るほど、絶大な効果をもたらす。
 幼女は素早く反応しながら飛来物を数段爆ぜさせて撃ち落とすが、それ以外の物は破壊しきれないと判断したのか、俊敏な身のこなしで壁に向かってジャンプする。その際に鎖のついていない腕輪がしゃらりと奇妙な音を鳴らした。
 ホークは幼女に牽制も兼ねて攻撃が直撃しないようにコントロールしていたが、本気で手を加えようとしたところであの速度では、幼女は破片の雨を避けきってしまうことだろう。
「何のアクション映画だよこれは……さすがに笑うぞ」
 相手が幼子となれば、一部のメディアは大喜びするかもしれない。
 アホみたいな身体能力で壁走りを披露し、宙で数回回転しながら衝撃を殺して着地する幼女はもはや超人である。 
「はぜ ? うぅ ガズ あてて ない ?」
 無傷なホークが不思議でならないのか、幼女は何度も首を傾げる。
「じゃ もっかい ころす」
「おっと!」
 ホークが身を逸らすと、数瞬前まで立っていた位置が盛大に不可視の爆炎を巻き起こす。
 火薬を一切使用しない異能力ゆえにエフェクトが発生せず爆発音しか聞こえないのが難点だが、さすがにホークは慣れていていた。
 一度でも攻撃を食らえば肉片と鮮血が飛び散る恐ろしい力だが、避けることは可能。  
 この時点ですでにホークは彼女の能力の特性を見抜くことに成功していた。惜しげも無く晒してくる強力な力の性質は、確信から確証へと移っていた。  
「目。お前は目に映った対象を爆発させることができる。だいたいこのフロアの三分の二くらいの距離なら、何でも爆ぜさせられるみたいだな」
「……」
「だけど、爆破は狙い定めた一ヶ所にしかできない。複数同時にはできない。しかも無闇に連発はできないみたいだな。破壊力のある技はチャージが必要……おっかねえ力だが、タネがわかれば意外と単純だな」
「…… どして どうして ? まだ しねない しんでない」
「さっきも言っただろ。俺は不死身だ。だけど、好んで血を流すマゾな趣味じゃねえんだよ―――――逆もしかり。ガキと戦うのは趣味じゃない。おとなしくしてろよ」
 ホークが極力幼女の視界から外れた位置を保ちながら駆けだした時、彼は勝利を掴みとったと確信していた。
 あの力は使用者の幼女自身を巻き込みそうになるほど危険なものであり、接近戦には圧倒的に不利だ。接近戦に特化しているホークならば、幼女を押さえることができる。
 大人げないとは思うが、さすがに幼子の筋力では大の男には適わないだろう。
 そう、数秒後にホークは、この時ばかりは心底後悔する羽目になる。
 これこそがまさに油断だったと。幼女がまだ全ての手の内を明かしきっていないことを、考えもしていなかった。
 無理もない。まさかこんな細い幼女が―――――鉄骨を素手で引きちぎるほどの桁違いのパワー持ちだなんて。
「んなっ!?」
 目の前でいきなり鉄骨の残骸をパン屑のように引き千切った幼女を目の当たりにし、ホークは絶句を通り越して大爆笑さえしたくなる。
 こりゃもうビックリショーどころの話じゃねえよオイ!鉄だぞ!?鉄を千切りやがったぞ!?素手で!!ガキが!!!
 しかもそれをプロ野球選手が真っ青になるほどの剛速球で投げてくるものだから、ホークは必死に体勢を低くする。
 頭上を疾風が貫く。少し遅れて壁に穴が開く現実味の無い効果音。もろに食らっていたら確実に頭がかち割れていた。
肝が冷えるどころでない、血液が血管ごと凍りつきそうな圧力だ。
こちらはギリギリまで手加減しているというのに、あちらは容赦無く殺す気できている。別に手を抜いてほしいと懇願したくなるほど弱気になってはいないが、あまりにも部が悪すぎる。
 ……余談だが、幼女が本来活動している世界にて、拳士として旅をする怪力の竜人の少年がいるが、格闘術専門の彼でさえもこの幼女には筆舌に尽くし難いほど苦戦した過去がある。
 もしもホークと竜人の少年が知り合いだったならば、お互い苦笑しながら語ることだろう。
 〝世界は広い〟と。
「だから、おとなしくしろっての!」
 低い姿勢のまま幼女に近づいたホークは、隙をついて幼女の右手首を掴む。その気になれば軽くへし折れそうなほど頼りなく細い。
 そのまま押さえつけようとするが、またも腹部に激痛。
 抵抗する幼女に腹を蹴飛ばされたと気づいたころには時すでに遅し。おそらく骨にヒビがはいった。
 ジェットエンジンでもついているのではないかと疑うくらいの脚力に圧倒され、吐きそうになるが吐いてる暇はない。
 続けざまに襲いくる蹴りの連撃を何とか避けきるが、それでも幼女は激しく暴れる。
「て、てめぇ!」
 しかし握力を緩めるわけにはいかない。このまま力任せに捩じ伏せるしかない。そうでもしなければ二度と勝機は訪れない。
 ここまで身長が低い相手と戦うのは初めてなせいか、距離感も感覚もつかみにくいが、ごり押しでカバーする。
 もはやこれでは取っ組み合いだが、構わない。
 事情を何も知らない第三者がこの状況を目の当たりにすれば、100パーセントで訴えられるのはホークだろう。
「だからガキと戦うのは嫌いなんだよ!」
 叫ぶホークとは真逆に、幼女は場違いなほどきょとんとしていた。
「あれ ぇ」 
 幼女は、ここでようやく自分が追いつめられていること認知する。殺そうとしても殺しきれない男に倒されそうになっていると、今更現実に意識が舞い戻る。
 まけ る? ふらんしす まける ゆるさない ……。
 彼女の未発達な脳内を駆け巡るのはやはりたった一人の存在だけであり、最重要な人物しか登場しない。
 こんな場所で彼女が敗北するとなれば、〝飼い主〟は黙っていない。
 彼女の自由奔放な態度も行動にも目をつぶって許してくれる〝飼い主〟は、敗北だけは絶対に見逃してくれない。
 何故なら彼女は―――――。
「きら われる」
 確かな恐怖を帯びた言葉に、ホークは気を取られてしまう。
 やけに人間らしい一面を垣間見たような気がした。
「いや だ」
 幼女は震えだす。寒いのではなく恐れと怯えに。ホークではない誰かを思い浮かべて。 
「お前……!」
「いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ いやだ」  
 突如、恐慌状態に陥りかける幼女に困惑するホークだが、鼓膜が破れそうになるほど近距離で発生した爆撃によって思考を未練深い白色に染め上げられる。
「いっ―――――!?」
「あああ あああ ! うるさい うるさい うるさい じゃま じゃまだあああああああああああああああああああああああっ!」
 ああ、何だか本当に、悪夢みたいだ。
 爆破によってもぎ取られた自身の右腕が宙高く踊る様を、ホークはどこか客観的に眺めてしまう。
 しかし現実は無常。言葉で言い表しにくいほど痛い。それもそのはず、肩口から丸ごとぶっ飛ばされたのだから。
 嫌なリアリティ。血の雨。一気に崩れる体のバランス。
 己の近距離爆破の影響で少なからずの火傷を負った少女の、鬼のような形相。人が変わったような気迫は、もはや人間ではない。これはもう、人の道を踏み外した、獣。猛獣。狂獣―――――化け物。憤怒の化け物。
 強い奴は嫌いじゃないんだがな。
 それでも幼女の手首を離さなかったのは評価できる。自画自賛。
「あああああああああああああああああああ ! じゃま ! じゃま じゃま おまえ が じゃま だ ! ふらんしす に ふらんしす に ふらんしす に ふらんしす に きらわれ ちゃう !」
 本能と感情のままに狂乱する幼女の一撃一撃が重く、返り血によって幼女の黒髪が真っ赤に染まっていく。薔薇のように、鮮烈な紅に。
 生々しい模様に散らばる血は、涙のよう。
「―――――はは……」 
 死ぬ前にホークは決断する。
 やっぱりもう少し手荒にならないと駄目だと。
「しね ! しね しねっ ! ころす ころさ ないと ! しんで しんで しんでよ しんでよ ! ねえ しんでよ ! ねえ ……!」
 わりィな、俺は死ねないんだよ。
「死なない体って便利だよな―――――こんな使い方もできるんだからさ」
「え―――――」
 幼女には、何が起こったのかわからなかった。自分の身に何が降りかかったのか、理解することさえできなかった。
 簡潔に簡単に簡素に、起こった出来事を飾らずにそのまま短く説明するならば―――――切断したはずの右腕が天井を突き破り、中空で爆ぜた。
「〝核〟の破壊―――――腕がちょん切れても、勢いが乗ってるならそのままドカンだ」
 意識と集中力と視線、その全てを天井に向けてしまった幼女には、次の攻撃手段は無い。
 チェックメイト。 
「今度こそおとなしくなってもらうぜ」

「…… あ 」
 がら空きの幼女の腹部にホークの拳が放たれると同時に、天井が豪快に崩落する。 
 勘違いしないでほしいが、この時ホークが腹を狙った理由は単純に気絶させやすいからであり、決して腹に穴を開けられた恨みでは無い。

 


「―――――ガキは寝る時間だ」
 


 ◆


 六階建てのビルと言っても肝心の六階フロアは壁も天井も無い野ざらしであり、天井にぽっかりと空いた大穴のせいで五階は実に開放的なフロアと化していた。
建物内にいるのに見上げれば幾千もの星々が瞬く夜空が窺え、奇妙な心境に陥る。
「……ったく、いてぇな。これだから死なない体は不便なんだよ……」
 瓦礫の山を掻き分けて這い上がったホークは満身創痍で呼吸も荒く、だいぶ適当に止血した重傷の右肩からは今だに血が止めどなく溢れ出ている。体中が血と埃と鉄粉に塗れているが、傷口から病原菌が感染するなどという心配は疲弊した頭ではろくに考えつかない。
「やっぱり独りで来たのはまずったか……?」
 ここまで仲間には何も告げずに単独で行動してきたホークだが、厄介な兄のことを思い出して顔をしかめてしまう。
「だりぃ……」
 疲労感を余すことなく漂わせる呟きは、誰の耳にも入らない。
 ホークに抱えられている幼女も、その言葉を聞いてはいない。深く深く、眠る幼女は小さな寝息を立てている。先ほどの乱闘と怒声が嘘のように、幼女は穏やかに意識を沈めている。
 血に汚れた幼子。
 泥のように沈みゆく化け物。
 ホークは片腕の中の幼女に目を落とすが、睡眠中の娘はただの純粋無垢な子供にしか見えない。
寝顔を見下ろしていると、自然と心が安らいだ。
「おとなしけりゃ可愛いのによ……」
 これからのことを考えた。
 まずは幼女を拘束して家に戻る。それが一番良いのだろうが、間違いなく兄に「え!?ホークちゃんそんな趣味あったの!?やばいよやばいよ〜おまわりさんに通報していい?自首する気は、無い?うわ〜んお兄ちゃん悲しいよ〜!」と、満面の笑顔でうざったらしい勘違いをされそうなので気乗りしない。
 何よりも右腕が生えてくるまでしばらく時間を有しそうだ。
「俺は疲れた」
 立ち上がる気力も体力も、瓦礫堀りでほとんど消費もとい浪費した。
「あいつらに何て言うべきか……」
 最後まで納得のいく言い訳は思いつかなかった。
 理由は単純明快、ホークは意識を失ってしまったからだ。
 あまりにも疲れ、怠く、思考が回らない。
 面倒なことは明日考えよう。それでいいだろ、なあ。
 死んだように眠る二人を、静寂なる星空だけが真っ直ぐに見つめていた。


 

 

 

 

 

 

 

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